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趣味考

先日、会社の帰り道に先輩と話していた時のこと。私が近々出演する軽音のライブの話をした延長で、最近の土日にどんな趣味をしているかの話になった。音楽を聴くとか、お笑いを見るとか、ゲームをするとか。ひとしきり話をした後に、先輩が神妙な、でも意志を強く込めた顔で切り出した。「趣味がなくても充実しているというのを、世の中に伝えたい」と。

私は驚いた。
驚いたことには二つあって、
その先輩にも好きなもの(アイドル、映画)があり、芸能にも明るくて、趣味を楽しんでいると思っていたから、趣味ナシの立場を代表するような発言が出て驚いたのが一つ。
もう一つは、おそらく直前の私の発言が「多趣味で人生充実♬」のように受け取られたのだろうが、当の本人である自分は多趣味ではなく、どれも中途半端だと思っていたから。

おそらく、「趣味のあるなしが人生の充実度に関わるか」の話の前に、はっきりさせないといけない議題が一つ横たわっている。
「どれくらい好きならば、それを趣味と語ってもいいのか」という自意識である。

一億総オタク時代を生きる私たちにとって、趣味は大きすぎる意味を帯びている。きっと誰もが実感があるのではないだろうか。

例えば、先日、「趣味:Netflix」のやつはマッチングアプリでモテない、というような言説をネット上で見てしまった。これは何を意味しているのだろうか?

どんなやつがモテるか、を、「自立していて、能動的で、情熱的な人」と定義づけると、この言説が何が言いたいかが少し見えてくる。

要するに、「趣味:Netflix」のやつは、依存していて、受動的で、情熱の少ない人に見えるということだろう。

たしかに、Netflixを見る行為は、なにも創造していない。流行っているから、レコメンドされたから、という選定基準で作品を選んでいる限りは、自らの「好き」軸を持たない依存的で受動的な態度にも見える。もちろんそこに情熱はなさそうだ。

一方で、Z世代のタイパ主義の具体例としてよく引き合いに出される「話を合わせるために多量のコンテンツを倍速で消費していく」というような行動もあるのだから、もしかしたら「趣味:Netflix」は涙ぐましい努力の証しなのかもしれないのに。
 
個人的には、何話もあるアニメや、長い時間かかる映画などを(たとえ倍速であっても)見切る体力と気力があり、流行りの物が見たいというミーハー心も持ち合わせている人は、かなり社会性が高くて明るい性格の、すごい人なんじゃないかとすら思えるが…。
 

では、休みの日の行動が同じ「Netflix視聴」に帰結するとしても、プロフへの書き方が「推し活」や「映画鑑賞」と書いてあれば、受け取る印象は大きく変わるだろう。

能動的で、情熱のある趣味に早変わりだ。FAとか描いてれば、「創造的」にもチェックマークが入る。

何かに熱をあげていることが大事なんだろうか。

でもそれは過大評価を受けてはないだろうか。何かに打ち込んでいる、何かに時間を捧げていることへの妄信がそこにないだろうか。能動的で情熱のある趣味を持っている人は自立しているのだろうか?

読書はどうだろうか。
釣りはどうだろうか。
ダンスはどうだろうか。
ホストはどうだろうか。

いろんなものを代数に入れて考えてみると、どうも、自分が一方的に快楽を享受する趣味には風当たりがきつく、「苦楽を併せ飲むものこそが真の趣味」とされる風潮が強いような気がしてならない。

日本人は趣味にまで修行というニュアンスを持ち込んではないないか?

例えば、活動休止や解散や卒業に一喜一憂する修行。グッズの発売を待つ修行。ライブの落選を耐え忍ぶ修行。何度も練習する修行。

そういう「耐え忍ぶ」ムーブがある趣味は、趣味カウントされやすい傾向がないだろうか。

冒頭の「どれくらい好きならば、それを趣味と語ってもいいのか」という自意識という問いに戻ると、個人的には「苦楽を併せ飲むようになったら、趣味と語ってもいい」という答えになる。苦楽を併せ飲むような趣味は、ドラマティックで、あたかも自分の人生の本編にずっと並行して続くサイドストーリーが一つ増えるようなものだろう。

それでは「趣味がなくても充実している」というのは間違いなのか?

いえ、そんなことはなく、むしろ大正解だろう。

何も苦楽を併せ飲む必要はない。何かを耐え忍ぶ必要がない。
休みの日まで戦わなくていいのだ。
楽だけ飲めばいいのだ。
それでこそ休息できるんじゃないか。

趣味が人生を複線化し、気づきをもたらしてくれるのが事実であるのと同じように、
趣味を持たないこそ、人生の本線に集中して、そのままならなさとか、深さとかを味わえるのではないだろうか。

趣味には功罪がある。

あなたは趣味のある人生を選ぶか、趣味のない人生を選ぶか。
どちらのコースで幸せになりたいだろうか。

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