「エブエブ」には今のところ乗れないけれど、もう一度見たくなる映画なことは確か

「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」はアカデミー賞授賞式の行われる13日の直前、12日に見てきました。

日曜日だったので、夫と息子と中学生の息子と3人で見てきたんですけど、これは本当に「フェイブルマンズ」と対照的で、アリかナシかで言うと、我が家ではナシというのが第一印象だったんですね。結構みんな見てる間に疲れちゃって。息子なんて、ため息ついて「早く終わんないかな」と思っちゃったとか。あんまりついていけなかった。展開の速いスピードについていけなかったってのもあるし、なんかちょっと乗れなかったんですよね。
夫は「最初のほうにあったキー・ホイ・クアンのウエストポーチカンフーがすべてだった」と言っていて、やはり疲れた様子でした。

でも、今日のアカデミー授賞式がWOWOWで放送されてましたけど、司会のが宇垣さんとかジョンカビラさんとかが「一回見ただけでは分からない」とおっしゃっていたので、何回か見てみるといいのかなと思います。
うちは一回映画館で見たので、今度は配信とかdvdリリースになったら一時停止しながら見られるので、それでもう1回見てみたいなと思います。

息子は見終わって、「お母さん、これ全部意味わかったの」って言っていて、私はやっぱりこういう仕事をしてることもあり、理解できなかったとこはないと思うんですけど。
マルチバース(分岐世界)で、そのミシェル・ヨーを演じるお母さんがコインランドリーを経営していて、けっして裕福なわけではなく、いつもキリキリしてるお母さんが他の並行世界では、ミシェル本人みたいな華やかな女優だったりとか、同性愛者になったりと、いろんなこう世界があり、そこでの能力を手に入れて使っては戦うみたいな。なんか、そういうのっていうのは理解できたと思うんですけれども、やっぱりそれが延々繰り返され、次の世界の彼女はこう、こうっていう風に、繰り返されて延々戦っているので、ちょっとそれがしつこかったかなっていうのと、結局マルチバースものの宿命なんですけど、現実に戻るしかないわけですよね。

現実世界でコインランドリーを経営していて、生活が苦しく税務署からも監査が入って領収書出さなきゃいけないみたいな。まさに今3月15日が確定申告期限なので、私もミシェルと同じような自営業で税金の申告に時間を取られ、でも、それが苦手で、全然ちゃんと事務処理できなくてみたいな、私は税務所に怒られてませんけど、子供はもう思春期。多分、この映画のヒロインの娘さんですね。ステファニー・シュー。
彼女が演じてる娘さんは、もうアラサーだと思うんですけど、25歳ぐらいかなだと思うんですけど、そういうちょっとこう子供ももう可愛い。可愛いっていう時期は、とっくにすぎて親に反抗してくるみたいなのが、めちゃめちゃ身に詰まされる。だから本当にリアルな現実なんですけど、それに結局、いろんな並行世界が描かれるけど、それに戻るしかないし、いろんな世界の自分を見るけど、結局、現実を肯定するしかないですよね。キー・ホイ・クアンが演じた夫は頼りない夫なんですけれども、その人も含め、その人を選んだ自分も含め、肯定するしかないっていうのが、もう見てるうちに、開始30分ぐらいでわかるので、オチがわかってるんですよね。なので、うーん…。実際その通りのオチでしたし。それはいい話ではあるんですけど、WOWOWの司会の宇垣さんが「今ここにいる自分を抱きしめたくなるような、そういう人生肯定の映画だ」っておっしゃってて、すごいうまいなと思ったんですけど、本当にその通りなんですけど、でもそれがもう始めから分かってるので、予想つかない人には面白いのかもしれないけど、私みたいにこんだけ数々のパターンの映画を見てきてる人とかにはわかるので、結末を楽しみにできない。
そこまで延々2時間半ぐらいかけて、そこに集約されるまでの展開に、ちょっと疲れちゃうなみたいなところがあって、いまいち乗れなかったところはあります。

この欠点はいろんなところで指摘されていて、朝日新聞とかにも「斬新な装飾、凡様な骨格」っていう見出しが。
ストーリーの骨格がすごい凡様だと思うんですよ。なんだけど、やっぱりそこに至るまでのいろんな世界とかの描写とかが映像的にも素晴らしいですし、面白いですし、そのいちいちこうユーモアが光っていると言うか。
もう途中、疲れるなこれと思って見てたんですけど、生物が生まれなかった惑星にお母さんと娘が生まれ変わっている世界があって、ふたりとも石なんですよね。さすがに、それが出てきた時には、「何かもう自由だな」みたいな感じで「負けた」と思いましたで、イマジネーションでどれだけ見せるかという点では満点かなと。

「フェイブルマンズ」みたいな正当派の映画だと退屈しちゃうっていう人でも、退屈しないようないろんなパターンを描いて出していく上で、想像を超えてくる。バリエーションがすごかったなとは思いますね。
ただ30分短くできたんじゃないかなっていうところはあるんですけど、で、やっぱりその本当に「レミーのおいしいレストラン」を模したような。よくアメリカに行くと鉄板焼きの店あるんですけど、日本風の名前が付いてたりするんですよ。「ベニバナ」とかそんな名前なんだけど、結局、そこで働いてる人は中国人だったりとか韓国人だったりするという。そういう店がよくあるんですけど、そのシェフの男の子まで、すごいちゃんと描いていて、その彼とアライグマの友情みたいなものまで伏線回収してくっていう。本当にどのキャラも捨ててないって、捨てキャラがいないっていうところはすごいなと思いました。

今回のアカデミー賞作品賞は監督の才能にも与えられた賞だと思っていて、ダニエルズっていう二人のダニエルさんが、白人のダニエルさんと中国系のダニエルさんですが、二人で組んでやってるんですけど、その才能に与えられた賞でもあるんじゃないかな、と思いますね。授賞式でのコメントを見てても、2人ともほんとに才能がある映画監督だなと思って。

どなたかが「タランティーノが出てきたときみたい」っていう。一つ、映画の流れを変えてしまうような、そういう映画文法を持ってる監督さんたちだなと思いますね。
で、これがエブエブがマグレではない。この2人のダニエルズにとってまぐれではないっていうのは、すごく頷けるところがあって、エブエブの前に撮った映画がありますね。「スイス・アーミー・マン」それがすごく面白かったので。ハリー・ポッターのダニエル・ラドルクリフが死体の役なんですけど、あと「フェイブルマンズ」のお父さんを演じたポール・ダノがその死体を無人島であの唯一の友達と思ってしまい、死体が喋り始めるっていう現実とも幻想とも夢ともつかないようなものを描いて、あれはもっと全然シンプルな構成で、ほとんど2人芝居ですごい面白かったので、これと両方作れるってのはやっぱ凄い才能だなと思いますね。

エブエブはルッソ兄弟っていう「アベンチャーズ」最終2作とか、マーベル系をずっと作ってきたプロデューサーたちが手掛けているので、大いに影響したんだろうなと思うんですけれども、だから本当にあのある意味、アベンジャーズの最後の2作を見てるような、マルチバースを一般人でやってみましたみたいな。
そのマーベル的な、もうアメリカの観客もマーベル見てるので、マルチバースという設定もすっと頭に入るっていうところですかね。
なので、マルチバース分かる人は面白いんじゃないかなと思いますね。あのね、多分、私がちょっと乗れなかったのは、色々こう自分で考えてみたんですけど、全然そんなにちゃんとSF小説とかを系統的に読んでる人じゃないんですけど、SFが好きなんですね。
ジャンルとしてめちゃめちゃ好きなんです。なので、アベンジャーズみたいに、SFとしての整合性が考えられていて、要はもう現実を否定してしまうような設定を突き詰めていくものっていうのは全然好きなんですけれども、エブエブは、結局、その現実を肯定するための装置としてマルチバースという設定が使われているので、SFのためのSFじゃないっていうところが、気に食わなかったのかと自己分析しています。

ま、それがだから読めるってことでもありますし、SFの場合、大体読めないので。マーベルの「アベンチャーズ」とか「ドクター・ストレンジ」のシリーズも色々そういうマルチバースの設定がありますけど、けっこう突き放した絶望的なところに設定を持ってきたりするので、だから世界の半分の人間が死に絶えてしまうとか。そういうのは結構好きなんですけどね。でも、エブエブもSFとして仕掛けがあるのかもしれない。最後にコインランドリーの外でミシェル・ヨーとジェイミー・リー・カーティスが交わす言葉とか。もう1回ちゃんと見てみたいなと思います。

キャストの演技とかを楽しむものだと思いますし、ミシェル・ヨーはずっと見てきて、それこそ最近でも「シャン・チー」とか見ましたけど、そういう結局、その文芸作品だけじゃなくて、くだらないと言われるようなにものも出てきた人じゃないですか。そういう人が、女優として世界一の栄誉に輝くっていうのはすごいいいなと思いますね。

アカデミー賞受賞式は、エブエブを始め、アジア系、中国系が今回は席巻していたので、またマーベルですけど、「ブラックパンサー」のアフリカ系の方々も盛り上がりたかったところなんですけれども、助演女優賞でアンジェラ・バセットもオスカーを取れず、アフリカ系の人たちには光が当たらなかったのが、ちょっと残念ではありますね。
その代わりにインド系が、インドもアジアですけど、歌曲賞取ったりとかして、アジアパワーはすごい感じました。日本もね。なんか、もうちょっと食い込めるといいですけどね。

あと、ぜひ見ていただきたいのは、長編ドキュメンタリー賞を取った「ナワリヌイ」
プーチン政権の独裁に抵抗するナワリヌイ氏の姿を通して、ロシアで今何が起こっているのかを知ることができます。
授賞式でナワリヌイ夫人が気丈にあいさつしていましたが、私はナワリヌイ氏にはロシアに戻って収監されてほしくはなかった。でも、おかしいのは彼ではなく、罪なき彼を刑務所に閉じ込めている人々なんですよね。
映画としてもフィクションのようなことが現実で起こっていく展開は、面白がっちゃいけないんだけど、面白いですよ。

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