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【映画感想文】千夜、一夜 

田中裕子が出てるものはすべて観たいマン。

田中裕子にダンカンに尾野真千子に安藤正信。
観るしかない。

ということで観てきました。

ネタバレあるのでお気をつけ。

舞台は佐渡。小さな海辺の町。
田中裕子演じる登美子の夫は30年前にちょっと行ってくるという言葉だけを残し、姿を消した。ダンカン演じる春男は登美子に想いを寄せ続けていて、町の住民もことあるごとに二人を引っ付けようとする。かたくなに拒む登美子。
そんななか、同じく二年前に突如夫の洋司(安藤正信)が行方不明になったという奈美(尾野真千子)が登美子を訪ねてくる。
なんとか自分の気持ちと折り合いをつけようと奈美が新たな彼との生活を始めようとした矢先、登美子は偶然にも洋司に市内で出くわす。

***
とりあえずもう名優しか出てなくてちょっと半端じゃないです。

はるヲうる人を見たときに、皆さん本当に素晴らしい俳優さんばかりなのですが、「とても上手な芝居を見せられている」という感覚が強くありました。芝居うまいなぁ、演技が鬼気迫るなぁ、というところから一歩抜けきれないというかそうゆう感覚がありした。

千夜、一夜を見て、芝居うまいなぁと一度も思わなかった。
かといって、リアルですごいというのとも違う。リアルなだけなら、ドキュメンタリーでいいし、実際リアルな場面ってそんな盛り上がりもないしボソボソ喋るだろうし、やっぱ映画っていい意味でちゃんと作り物で魅せるためのものでないといけないのかなと私は勝手に思っています。
その、リアルさと魅せるところのギリギリのバランスがすごい。
役になりきったまま、でも魅せることを忘れない。なんかそうゆうギリギリのところを見せつけられた。

ダンカンさんまじで漁師過ぎたし、いい年なのにとみちゃんとみちゃん言ってる情けない感じもすごく居そうだった。というか春男がそこにいた。

尾野真千子さんはハマり役だと勝手に思いました。美人で一見清楚な感じだけど腹の中にどろどろしたものを抱えてる女を演じさせたら彼女の右に出るものはいませんな。

***
さて、義母の葬儀のために本島に赴いた登美子は町中で偶然洋司を見つけます。
登美子は、すでに奈美に新しい彼がいることを知っていました。
しかし、洋司を島に連れて帰り、奈美に会わせます。
奈美に罵倒され、行くあてなく登美子の家に一晩泊まることになった洋司。

その夜、彼は寝室で壁に向かって居ない夫に話しかけ続ける登美子の姿を目の当たりにします。
狂ったように夫に語りかける登美子。
その姿を見て、洋司は自分がやってしまったことの愚かさに気付き、涙を流して謝罪します。
そして、帰ってきたのねといって洋司を抱き締める登美子。

まあギャン泣きしました。
映画館すいててよかったよ!!!!

このシーン、どんな緊張感、空気感だったんだろうと思ってしまった。それくらい、人間同士ががっぷり噛み合ってる感じでした。
洋司と登美子であり、安藤正信と田中裕子であり。

洋司が出ていった理由というのがほんと他人が聞くと怒りを覚えるようなぼやっとしたものなんですよ。将来が決まっていくのが怖かったとかそんな感じの。
でも彼は、自分がやったことがどれだけ人を傷つけたのかを、やっと知った。

あのね本当に、人の心を殺すような行為というのはこの世に沢山あって、
もし自分がそれをやってしまった自覚があったとしたら、絶対にその現実から逃げないでほしい。
不倫した人、浮気した人、信じてくれている人を裏切る行為は人の心を静かに殺す。
その人の目の前から消えるのは優しさではない。自分が楽なだけ。
どれだけ相手が傷ついてボロボロになっておかしくなっていくのかちゃんと責任もって受け止めてほしい。
あなたが殺したんだから。

***

最後は、春男がまたやらかして、登美子と春男が海で揉み合って、登美子が春男を突き放し「このままでいい、だれもこなくていい」といって砂浜を上がっていくシーンで終わります。

夫もいなくなり父も死んでははも死んで一人になって。
それでも誰も来なくてこのままでいい。

なんかもう、頼むからほっといてくれよってことかのかなと思いました。
かわいそうと思われるのは悔しい、ただもう好きにさせてほしい。
たぶん彼女はもう、夫を待っている訳ではないような気がした。
初めは待っていて、30年たって待っていることを含めてそれが彼女の人生になって、もうそこに心が落ち着いてしまったんじゃないだろうか。
というか心の置き所がそこしかなくて、そのちょうどいいところからもう何も動かしたくないんじゃないだろうか。


ゴールスワージーのりんごの木を思い出した。
田舎で恋人を作って結婚の約束をしていたのに、そのまま都会で別の人と結婚してしまった男。
子供ができてからその町に戻ったら、彼女は彼が町を出てしばらくしてから自殺したという。

その幸せにしがみつくことしかできなかった彼女が弱かったのか異常なのか。(男が最低なのは大前提な!!!!)

奈美(尾野真千子)が途中で離婚を決意するシーンがあって、登美子に「軽蔑しますか」って聞くシーンがあるんですよ。わたしはそんなに強くない、と。それに対して登美子はわたしは強くないと返すんですけど。
軽蔑してるのは奈美の方じゃないのかなと思った。戻ってくるはずがない人間を諦めきれずに待ち続けてる登美子を、あなたはすごいですよね、と線引きして自分の外に弾きとばしている。

いなくなった男を待ち続ける女の話ってテーマとしては良くありますけども
舞台やフォーカスする人物が変わるとまたぜんぜん違う味わいがありますね。


それではまた


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