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時代にそぐわない撮影許可の話

世の中、厳しめにルールで縛っておきながら、黙認で泳がされているものが多い。いざ白黒ハッキリさせねばならない状況になると、とたんに身動きが取れなくなる。今回、そんなことを感じた「撮影許可」まわりの話。

撮影許可がめんどくさい

撮影許可における面倒さは以下の記事で言い尽くされている。

カメラを向けた被写体に関する権利についてはまだ解りやすい。人に関しては映っている人に許可を取る。著作物に関しては、文化庁の見解として「画面いっぱいに撮るのはダメだけど、主題から切り離せない場合に映り込んじゃうのは仕方ないよね」という内容が示されている(乱暴な要約)。

いわゆる「写り込み」等に係る規定の整備について
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/utsurikomi.html

ややこしいのは、カメラマンが立つ場所に関する許可である。例えば、モデルさんが街並みを歩き→商業施設を通り→公園に行くイメージ動画を撮るとする。この場合は、道路を管轄する警察署・商業施設・公園の管理団体それぞれ別々に許可を取らねばならない。この境界線がまた見えにくいことが上の記事でも指摘されている。

ケース:近所の公園で子供の写真を撮る

場所・管理団体によってマチマチだけど、相場観をお伝えするため私が住む神戸における公園での撮影を例を挙げる。何の変哲もない公園の話である。

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神戸市都市公園条例
https://www1.g-reiki.net/city.kobe/reiki_honbun/k302RG00000737.html

撮影に関する内容の抜粋が以下。もちろん、市町村ごとにも違うけれど、この記事では神戸の例で押し通す。

(4) 条例第4条第1項各号に掲げる行為をする場合
     ...中略...
4 業としての写真(広告写真を除く。)の撮影   1人1日につき 900円
5 業としての広告写真の撮影         1日につき 3万円
6 業としての映画の撮影           1日につき 6万円

「業として」とは一般的に「お金を稼ぐ目的で、何度も繰り返し行うこと」のような意味である。私は繰り返し公園で子供の写真を撮っているけれど、私用のため「業として」に当たらないと理解している。

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友人から「うちの子の写真を撮ってよ」と依頼されて金銭を受け取った場合は「業として」に該当するだろうし、900円には納得感もあり諸経費に混ぜて請求できなくはない金額だろう。

ただし、自分がフリーランスの写真家として撮った写真を、「よく撮れたから公式SNSに載せたい」と思った瞬間、不特定多数が目にする広告となるため、杓子定規に言えば3万円を払わなければならない。

ところで私は、「写真でメシを食っている」と言いたいがために、文字通り「メシ」をご馳走してくれれば撮る。そのうち生計が立てば素敵だなと思いつつ、金銭は受け取っていないので、法的には「業に該当しない」になるのだろうか。

金銭は介さないけど、「貸しを作ったので、私が困ったときに助けてね」という独自の贈与経済を回した場合はどうなるのだろうか。

冒頭の通り、厳しめに設定しておいて黙認される類のものに思える。ハッキリ線引きしようとすればするほど、管理団体も「払ってください」としか言えない。

ケース:個人的に撮った素材を商用に使う

撮影した瞬間は個人的なものであったけれど、後から必要に駆られて「素材としてお仕事で使いたい」ということがある。これは「生業としての写真」に該当する。

実は「後から商用で使うケースの撮影許可はどうなるの?」と問い合わせたことがあり、とある管理団体からは「事前に申請いただかないと困ります!」と怒られた。撮る瞬間は商用で使うとは夢にも思わなかった(言い訳)。

「使うか分からないけれど許可を取っておく」のも「せっかく撮った素材が使えない」のも、どちらに転んでも骨が折れる。

管理団体によって事情は違い、「後から撮影料を納めていただければ大丈夫です」パターンもある。ハーバーランドはそんな感じだったけれど、罠もある。

例えばここに、神戸港の「かもめりあ」あたりで撮った写真がある。

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徒歩5分ほど離れて「高浜岸壁」あたりで撮った写真がある。

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素人目にはどちらも「神戸港」だし、神戸港“U”パークマネジメント共同事業体の管轄ではあるのに、「かもめりあ」と「高浜岸壁」では別の事務所が管理している。

だから、両方を商用利用する場合はそれぞれに3万円で合計6万円を納めなければならない。動画だと各6万円で合計12万円となるという話だった。撮影する場所が複数になれば金額も上がる。

一歩でも家の外に出ると、いろんな所有者が入り乱れる。気兼ねなく撮れる場所なんて何処にも無いのだ。真面目に運営している企業広報はメチャクチャ苦労しているんだろう。

プロだったら当然?

「企業活動でやるならば、そのくらい当然じゃないか」と言う人もいるだろう。数千万円~数億かけて制作する映画やら、気合の入った雑誌であれば、理解できる。

だけど、昨今は業として動画に携わる業態も多様になり、商用とは言えカジュアルな用途も増えた。写真のプロではない企業SNS担当者が「今日は神戸港に来ました~」と写真付きで投稿する場合や、サラッとWeb記事を書く場合に、商用とは言え3万円を払って採算がとれるだろうか?

いわゆる大企業が広告代理店を通して作る広告だけではなく、YouTubeで広告収入を得ることも立派な業となる。「光の魔術師」の二つ名を持つ人気YouTuberが、高浜岸壁でレンズをレビューする動画をよく観る。

1アクセス0.1円の相場(昨今はもっと厳しいという話もある)で計算しても、動画の撮影料6万円の元をとるには60万アクセスが必要になって、ほとんどのYouTuberは採算が取れない。

管理団体によっては「SNSくらいなら良いですよ」と言うところもあるだろうし、誰も目くじら立てないことの方が多いけれど、いったん炎上事案で注目されると「撮影許可を取ってない」点を突っ込んで私刑にできるようなルールは時代錯誤だろう。

フォトギャラリーの写真に撮影料は払ってる?

手軽にカッコいい写真を入手できる手段として、ストックフォトで「神戸港」を調べれば数千円で手に入る。とある管理団体に「明らかに敷地内で撮ったストックフォトはどうなの?」と問い合わせたことがある。

線引きは難しいと前置きした上で、その管理団体の回答としては「あくまで撮影料はカメラマンに払っていただくもの」だから、商用で利用する事業者はカメラマンに確認を取ってから使用くださいとのことだった。

写真をストックフォトに登録する人が撮影料を払っているだろうか?利用する企業は、撮影者に撮影料を納めているか確認するだろうか?プラットフォームにお金を払った時点で企業は責任を全うしたと思うだろう。とても現実的な運用に思えない。

noteの人々にとっても無関係でない。画像を「みんなのギャラリー」に登録して、それを企業アカウントが使用した場合、撮影料を払うべきは写真の提供者となる。登録時のチェック項目は「著作権」であるけれど、写真に関しては「著作権」だけでは済まない。

少なくとも私は「みんなのギャラリー」の登録写真に撮影料は払っていない。「神戸港」で検索すれば誰でも(企業アカウントでも)私の写真が使える状態になっている。商用で使われた場合、私・企業アカウント・noteの誰に責任があるんだろう。

撮影の民主化に合った仕組みを求む

決して、それぞれの管理団体を非難したい訳ではない。管理団体もビジネスでやっているのだから当然のことである。

中にはとても親身になって「例えば隣接した宿泊施設に許可を得て風景を映すことは可能です」と抜け道を教えてくださった担当者もいた。立ち位置と比べれば、街並みについては文化庁の見解通りユルい。

おそらく、設定されている規約や撮影料の多くは、写真や映像を撮るハードルが高かった時代のものだろう。撮影が民主化して誰でも気軽に撮れるようになったし、SNSやストックフォトなどの用途が発達した今日にはそぐわない。

撮影表現そのものに集中できるよう、もう少し納得感がある値付け・仕組みを望む。音楽業界のサブスクが違法ダウンロードを激減させたように、小銭でも入る仕組みができれば、管理団体にとって黙認するよりは良いんじゃないか。

住民に撮影料免除を与えれば、市町村に住む動機になるとか。その場所に人を呼び込む投稿をすればインセンティブを返すとか。そこにブロックチェーン技術が力を発揮するかは知らんけど、きめ細やかに価値交換ができれば、表現の世界も変わることを妄想する。

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