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タイに旋風を巻き起こしたブアカーオ対三浦孝太戦の顛末

筆者はタイに住んで15年ほどになるが、度々来タイする有名日本人の中で、タイ人が大騒ぎしたケースは僅か2例だった。

ひとつは2011年11月にコンサートで来タイしたX JAPAN、もうひとつは今回の三浦孝太の来タイである。

2022年8月19日にラジャダムヌンスタジアムで、エキシビジョンマッチとして三浦孝太とタイの伝説的ファイター、ブアカーオ・バンチャメックとの試合が組まれた。

三浦孝太については、昨年インターネットで「タイ人女子が選ぶ日本人男前ボクサー(格闘家)5人」というタイ語の記事を読んだ。

ボクシングの世界バンタム級統一王者の井上尚弥、元日本フェザー級チャンピオンの丸田陽向太らを抑えてNo.1に選ばれたのが三浦孝太であった。

その記事がきっかけか、三浦孝太はあっという間にタイ人女子の心を掴み、大きな存在となっていく。タイでは孝太は、父親であるキングカズの1000倍の知名度を持っているだろう。

日本人からはピンとこないが、今回のブアカーオ対三浦孝太のエキシビジョンファイトは非常に素晴らしいアイデアだったと思う。

結果として、会場のラジャダムナンスタジアムは30年ぶりの8000人の集客で超満員、チケットは強気に設定した特別リングサイド6000バーツ、リングサイド3500バーツから先に売り切れたという。

20-30代のタイ人女子社会人で、韓流アイドルのコンサートに自身の月給の3分の1や半分となる価格の5000バーツ、1万バーツを払うのと同じ感覚かもしれない。

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タイのテレビでも生中継されたこのエキシビジョンマッチ、あくまでも興行を彩る”花相撲”だろうと思っていた。

新生ラジャダムヌンスタジアムで新しく始まったワールドシリーズの宣伝として、この日行われた10試合の興行のメインイベントとしてこのエキシビジョンマッチが組まれた。

3分3ラウンドで行われたこの試合は、やはり1-2ラウンドは”花相撲”的な展開が続く。

20歳の三浦孝太も経験は浅いながらもキックボクシングに対応し、動きも悪くない。生きる伝説、220勝を記録しているブアカーオは、軽めのマススパーをやっているような印象であった。

それが第3ラウンド、急に雲行きが代わる。ブアカーオが突然とび膝蹴りを繰り出して来たのだ。40歳をすぎたブアカーオの跳躍力はまだまだ健在で、膝が三浦孝太のあごや顔面をも襲う。

ブアカーオは飛び膝攻撃に加えて、パンチの左右連打を一気にまとめて、レフェリーストップを呼び込んだ。

さすがブアカーオ、とならなかったのは、エキシビジョンであったのと、見慣れないムエタイをスタジアムやテレビで見たタイ女子たち。

「孝太が可哀そう」と涙目で心配そうにリングを見つめる女子たちもテレビで大写しされた。

MMAで1勝の三浦孝太と、ムエタイ250戦以上のブアカーオ、経験にも大きな差があり、ブアカーオが仕留めにいけば、すぐに終わってしまうのは当たり前、ということで、

試合直後からブアカーオはタイ人女子たちの批判にさらされた。

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ブアカーオは翌朝、サービスアパートの会議室で彼のチームと話し合っていた。

自分が昨夜、KOした孝太のことで、良くない空気が取り巻いているが、今後どうすればいいか。どうすれば批判をかわせるのか。

「彼が強くなるために、本当のムエタイの厳しさを味わせるつもりだった」などのコメントを用意して、釈明会見を行うか、日本に帰る孝太を空港に見送りに行くか、などのアイデアはチームからも出てくる。

しかしながら、どれもブアカーオへの批判をかわすには弱い。しかし、そんな時に奇跡が起きた。同じサービスアパートに孝太のチームが現れたのだ。

孝太とチームは同サービスアパート一階のムエタイジム「ロンポームエタイボクシングジム」の代表の神田哲人氏を訪ねたのだった。孝太が今回のブアカーオ戦前に最終調整を行ったのもこのジムである。

また、ブアカーオは神田氏と旧知の間柄で、神田氏が通訳となり、昨夜の試合についての弁明をすることができた。

「ダメージはないか、大丈夫か」と孝太を気遣うブアカーオ、そして「また、お願いします!」とブアカーオに返す孝太、二人仲良く、健闘を讃え合っている写真や、動画を撮影した。

このやり取りの後、そのまま空港へ向かい、三浦孝太一行は日本へ帰国した。

今回孝太を引率した宮田和幸氏は、自身のジム・ブレイブジムの選手を毎年ロンポージムでタイ合宿練習をさせている為、改装した階上のサービスアパートを選手の合宿場として使えるか、帰国前に確認したかったそうである。

ギリギリのところで、孝太本人に直接コンタクトすることができたブアカーオ、この時の写真や一連のやり取りがタイで大きく報道され、タイ人女子の悲鳴~ブアカーオへの批判も少し和らいだそうだ。

(文章・オダサイ)


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