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僕たちの交換日記

「日記書くとさ、自己暗示みたいになるけんやめなさいよ。親を敵と思い込まんと。勝手に思い込んで、人のせいにしたいんやろ。」
ずっと許せない母の言葉だ。
僕の日記を勝手に見て、勝手に傷ついて言い放った言葉。

僕は多重人格だ。幼い頃、主人格の”あいつ”が母の暴力や祖母の暴言に耐えられず、なにものからも自分を守ってくれる「架空のお兄ちゃん」を創ったのが始まりらしい。
存在を否定される毎日の繰り返し。あいつは海に身投げした。その辺りから主人格が僕に切り替わったんだと思う。
これがまた不便で、大変な生活のはじまりだった。 
 僕もずっと主人格でいるわけではなく、トイレやお風呂、寝る前など一人になれる時間はあいつがひょっこり現れる。
 僕が主人格でも、祖母に八つ当たりされたり、母が暴れているのを見るとあいつも傷つくみたいで、夜中にモソモソ起きては手首を切るような日もあった。
 僕としては勉強しなきゃいけなかったり、観たいアニメや作りたいプラモも溜まるので迷惑するのだが、もとの主人格はあいつだ。
スケジュール管理のためにも、あいつと情報交換や意見のすり合わせをしたかった。
そうしてはじめたのが、日記。
僕は毎日、時間割やテストの結果、面白かったことなどをノートにまとめて書いた。
一方で、あいつはノートに親の恨み言やトラウマの話を綴っていく。
たまに質問して、意見交換もした。
「どうして手首を切るの?」
「思考が止まるから。血を見るとそれどころじゃなくなって、嫌なこと忘れられる。自分に罰を与えた気になれるからすき」

この日記は僕だけのものじゃないし、悪いことが沢山書いてあっても、それは僕らの傷跡でしかない。

だから冒頭の母の言葉にひどく怒ったし、傷ついた。
放ったらかしてる子どもが何考えてるかわからないからって、机を漁ってノートを盗み見る。その行為自体が「私は敵です」と言ってるようなもん。

 書くことはあいつのデトックスにもなるし、僕の存在証明でもある。
 それに、スマホを持つまで小説や絵を描くことを恥ずかしいと思っていたから、こんなに創作活動をされている方がいるのはびっくりした。いつでも比較対象がいる学校では学べなかったことだ。
 まだまだ未熟だし、やりたいようにしかやらないけど、小説や日記を書き残していきたい。

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