見出し画像

踊りを見る人。

インタビュー8:踊りを見る人。

~広がっていく~

Dさん:
京都で暮らす会社員の女性。取材時36歳。おでんとは初対面。

インタビュー:2017年秋ぐらい

----------------------

●始まりはコンテンポラリー。
<Dさんにお誘いいただき、神戸市長田区を拠点に活動する「DANCE BOX」主催のダンスパフォーマンスを一緒に鑑賞。その後、喫茶店に移動してお話を伺う。>
おでん:あのー、事前にちょっとお知らせしてたんですけど、好きなことをお伺いしてまして…。
Dさん:あ、はい。そう聞いてたので今日お誘いしたんですけど…。私、ああいうのを見るのが好きで。人が踊ってるとか、舞ってるとか。…そういうのを見るのが。
おでん:ほうほう。それは、いつぐらいから好きだったんですか。
Dさん:高校生…ぐらいかな?
おでん:何かきっかけがあって?
Dさん:はい。あの、NHKでバレエのコンテストを何気なく見てて…。ロシアかどっかの。そこで、初めてコンテンポラリーダンスを見たんですよ。
おでん:ああ、あの、現代的なやつですね。
Dさん:そうそう。型にとらわれないというか、自由形のダンスなんですけど。要は、なんかそれにハマっちゃって。
おでん:うんうん。
Dさん:なんか…、人間じゃないように見えて。こう、その人の輪郭が溶けて、空気と一体になっているというか…。そんな風に見えて、「気持ち良さそう~!」と思って。
おでん:へえー。じゃ、そこからずっとコンテンポラリー一筋で。
Dさん:そうでもないです。そこから日本舞踊を見たり、歌舞伎を見たり…。
おでん:あら、意外な方向へ…。
Dさん:なんか、「ダンスって、踊りって、そもそも何だろう」って考えるようになって。
おでん:なるほど。「いろいろな踊りを見てみよう」って感じになったんですね。
Dさん:んー。…さらに、「踊りの起源って何だろう」って考えていくと、神楽とか、そこらへんにいくじゃないですか。ハマっていけばいくほど、民俗学とか宗教の方にも興味が広がっていって…。最近はつまみ食いですね。ダンスに関わるものだけじゃなくて。
おでん:広がったなー。
Dさん:20年ぐらいの間に、徐々にですけどね。

●修行とシャーマンが気になる。
Dさん:その、さっき私、コンテンポラリーを見たときに、躍っている人の体が空気に溶けたみたいに見えたって言ったんですけど。すごく気持ちが良さそうで。
おでん:はいはい。
Dさん:で、10年ぐらい前かなぁ。なんか、“踊ることによって心と体が変わる”ってことに興味をもち始めて。
おでん:踊ることによって…、心と体が変わる…?
Dさん:心身の変容っていうか。
おでん:んー…。
Dさん:それで、修行とかもおもしろいなって思うようになって…。
おでん:んー…?
Dさん:…あの、たとえば、千日回峰行(せんにちかいほうぎょう)とか。厳しい修行をしてると、心と体が変わってくるじゃないですか。
おでん:んー、えーと、同じ動作をくり返したり、体を酷使したりすることで、なんかこう、ランナーズハイというか、トランス状態になるっていうか…。そういう感じ?
Dさん:そうそうそうそう。
おでん:は~…。なるほど。…そうか。修行してトランス状態になるのと同じことが、ダンスをする人にも起こり得るってことか…。考えたことなかった…。
Dさん:だからあの、シャーマンの踊りとかとか、そういうのにも興味があって。
おでん:あ~、そっか。シャーマンの踊りって、儀式的な踊りってだけじゃなくて、トランスに入るための踊りでもあるのか。
Dさん:そうー。ねー。踊りってあそこらへんにも機縁してるから。おもしろいでしょー。
おでん:はー。おもしろい…。
Dさん:あ、シャーマンといったら、韓国にも有名なシャーマンがいるんですよ。ムダンっていう。舞踊がすごくキレイで優雅なんですよ。旋回するような。回転系で。
おでん:回転は極めるとトランス早そうですねぇ。
Dさん:ねぇ。回転とか反復とかはね。
おでん:…しかし、踊りが修業につながるとはなぁ。
Dさん:今日もね、朝ね、NHKで山伏の修行の番組やってて、それ見ながら身支度してたんですけど。おもしろいわーと思って。
おでん:へぇー。
Dさん:あと、今はアイヌが気になってて。アイヌのね、青木愛子さんっていうシャーマン的な方がいらっしゃって。もう亡くなってるんですけどね。この連休で調べたいなと思ってて。
おでん:本とかで?
Dさん:うんうん。本があるんですよ。…でも、絶版になってるし、府立図書館にもないし、どうしようかなーと思って…。
おでん:はぁ~…。広がるな~…。

●能楽から始まってお面も気になる。
おでん:今現在気になってる踊りって何ですか。
Dさん:お能ですね。
おでん:ふーん。お能は何がおもしろいですか。
Dさん:なんか、意味が分からないところ。
おでん:えっ
Dさん:お能って、半日がかりでやったりするんですけど、なんか、すっごい時間の流れがゆったりしてて。幽玄っていうのかな?不思議やなーと思って…。あと翁(おきな)!翁もすごい気になってて。
おでん:翁?翁って、あのお爺さんみたいなお面の?
Dさん:翁は深いんですよー。国土安穏とかを祈る舞なんですけど、なんかねぇ、ねっとりしてて。「とうとうたらり」とかいう台詞も怪しいし。何かよく分かんなくておもしろいんですよー。
おでん:ほぇー。
Dさん:あと、お能から派生して、お面にも興味が…。
おでん:お面。
Dさん:あ、別にお能の面に限らず、ベネチアのお面とかでもいいんですけど。…うん。お面が好き。
おでん:……なんで?
Dさん:んー。なんでだろう。あまり深く考えてないんですけど。なんか、お面を壁に飾りたいなっていう…。
おでん:飾りたいの?(笑) ちなみに今はまだ…
Dさん:今はまだ、3つぐらいしか飾ってない。
おでん:(もう飾ってた…)。何を飾ってるんですか。
Dさん:なんやろ。あのね、菩薩と、仏陀と、おかめ?
おでん:おかめ(笑)。
Dさん:菩薩と、仏陀と、2個あって。で、最近おかめが加わったんですよ。
おでん:うん。
Dさん:<真剣な顔で>したら…。あのう…。おかめが怖くて。
おでん:(笑)
Dさん:<真剣>意外とおかめって…。いや、なんて言うんだろう。やっぱ怖いんです、おかめ。おかめ怖いなって。
おでん:(笑)
Dさん:<真剣>日によって印象が変わったり…。柔和な顔してるけど、実はおかめって、悪いやつじゃないのかなとか。一人で考えてて。
おでん:(笑)
Dさん:<真剣>菩薩と仏陀は神とかそういう域だから怖くないのかな。おかめは人間みたいだから怖いんかなぁ…。なんか、ニコってする顔は、くせ者かもしれない。人間関係でもニコニコしてる人いるけど、ホントは怖いこと考えてるのかもしれない。おかめってこわーい…。…っていう。
おでん:<笑い疲れ>もう…、なんでおかめ買ったんですか。
Dさん:えなんか、かわいいなーと思って。
おでん:そんな理由…。
Dさん:で、飾ってじっと見てると怖いっていうね。でも、その気づきがあったのが、またなんか、おもしろいというか。
おでん:うん、それは確かに。
Dさん:美術品って、今までは美術館とかで見るだけだったんですけど、一緒に日々過ごしてみるっていうのもおもしろいなって。時間をかけて見ると、一瞬見るだけじゃ分かんないものが分かるなって思って。最近、気になるものを買って部屋に置いてみようっていうのをやり始めてて。
おでん:なるほどな~。それはちょっとやってみたいな。やるならうちは先に部屋を片付けなきゃいけないけど…。

●京都はパラダイス。
Dさん:なんか、とりとめないですよね。どうしよう。
おでん:全然いいんですよ。ていうか、楽しそうでいいな。これだけ興味の幅が広かったら、見に行ったり調べたり、忙しそうですね。
Dさん:うーん。なんかねぇ、一生かかっても、全部調べきれないと思います。知りたいこと。
おでん:毎日めちゃくちゃ本を読んでる感じ?
Dさん:いやぁそんなに読んでないです。
おでん:えー。だって、本以外でどうやって勉強されるんですか。
Dさん:シンポジウムとかセミナーとか行ったりして…。京都だと大学が多いから。そういうところで先生のお話を聞いたり、資料をもらったりして、勉強したつもりになったりして。
おでん:あー、京都って公開講座の宝庫ですよねぇ。いいなぁ。
Dさん:ぜいたくな環境ですよ~。あの、学会とかも面白くって。宗教学会とか。いろいろな教室回って聴講したりして…。
おでん:学会って素人が行ってもいいんだ?
Dさん:行けます行けます。
おでん:うわー、いいとこ住んでますねぇ。
Dさん:もー、ホントにぜいたく。京都から離れられない。
おでん:いいなぁ。
Dさん:京都に住んでると、こっちが行かなくてもあっちから来てくれるから。国際的な芸術祭とかもあるし…。
おでん:世界中から京都に集まってくれるから。
Dさん:そうそうそう。
おでん:そっかー。いやー。おもしろいお話ありがとうございました。
Dさん:いえいえ。こんなんで良かったんですか…?
おでん:全然ばっちりです!…で、すみません、あのー、できればお写真をいただきたいんですが…。
Dさん:えっ、えっ、えっ、そうなんですか。
おでん:あ、いやいや、すみません、お顔のお写真ではなくて。今日のお話に関するお写真で、何でもいいんですけど。
Dさん:ああ。
おでん:で、あのう、おうちに飾っておられるお面の写真をですね、撮って送っていただけないでしょうか。
Dさん:えっ!?いや、それは(笑)。
おでん:あれ?あ、ダメですか(笑)。なんで…。
Dさん:いや、あれはちょっと…。…秘めたい…(笑)。
おでん:あ、そうなんや(笑)。すみません、じゃあいいです、全然(笑)。
Dさん:すみません、ちょっと(笑)。
おでん:あ、全然いいんです、すみません(笑)。

<おわり>