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短編小説 まったく最近のクジャクは派手すぎる

 
 
「まったく、最近のクジャクは派手すぎる。そうは思わんかね。」
リビングで新聞を読んでいたおじいさんは、唐突にそう言った。
「うん、そうだよねー。」
私は猫がバク転する動画を見るのに夢中だったので、適当に返事をした。
「分かるかね。」
「うん、分かる。」
 
 
 
 
 
動画では、バク転を見事成功させた猫が黒光りするシルクハットを左胸のあたりにくっつけて、恭しくお辞儀をしていた。
「ひゅ~ひゅ~」と歓声の効果音が鳴って、あちこちからおひねりのチュールが飛んでくる。
猫はせっせとシルクハットの中にチュールを回収すると、「ありがとうございにゃした~」と言ってステージから去っていった。
全く、芸人とは大変な職業である。
 
 
 
「ほら、この記事を見なさい。『クジャク・イルミネーション本日も大盛況』こんなの、ほとんど人体改造と変わらないじゃないか。まったく、けしからん。」
『ホワイトキング』と呼ばれたライオンが、ターミネーターに出てくるAIばりにめちゃめちゃ反乱を起こし、動物が人権を獲得して数百年が経った。
動物たちも労働をして自力で生活をしなくてはならないのだが、中でもクジャクはその派手な見た目を活かしてエンターテイメント系の職業に就くことが多かった。
 
 
しかし、楽しげな見た目の動物はクジャクに限らない。
一致団結したヤドクガエルたちの織り成すシンクロスペクタクルは圧巻だし、マンドリルのタップダンスショーなんかもなかなかの人気だ。
そんな群雄割拠の中、クジャクたちは苦戦していた。プライドの高いクジャクたちにとって、他のクジャクと協力してショーをすることは耐えられなかったのだ。そんな中、一羽のクジャクが羽ばたいた(「立ち上がった」みたいな意味)。
 
 
そう、かの有名な『Mrジャック』である。
Mrジャック。本名ジャック・クジャックはゴリラ、チンパンジー、ニンゲンといった科学に強い種族に協力を仰ぎ、自らの肉体にギラギラと光る電飾を取り付け、『クジャク・イルミネーション』としてデビューした。
これがハマった。
色とりどりに輝くクジャクが町を行進するだけでそこはエレクトリカル・パレードに変わった。レッドカーペットを歩いた時は、カメラのフラッシュよりもイルミネーションの発光が勝ち、新聞の一面を飾った。
 
 
ジャックに憧れたクジャクたちは皆自身の肉体をイルミネーションへと改造した。
協調よりも競争を望むクジャクらはより高みを目指して改造に改造を繰り返し、『クジャクのイルミネーション化』は一大ムーブメントとなった。
クジャクたちは、光を求めて自らの羽をむしり、タペストリーのように美しかった羽はぎんぎらの機械へと姿を変えた。
いわゆる、クジャクの近代化である。
クジャクたちはこれからも、その肉体で世界を照らすことだろう。
 
 
 
「まったく、けしからん。」
私のおじいさん、ジャック・クジャックは相変わらず纏った電飾をちかちかと点滅させて憤慨している。
「ねえ、そろそろ変え時じゃない?」
私がそう言うと、「ああ、そうだな。すまん。お願いするよ。」とおじいさんはよたよた杖をつきながら改造室へと消えた。
弱弱しい背中でぷるぷる震える電飾は、とても眩しかった。


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