踊竹前夜

短編小説を書きます。 よく分かんないものが好きです。

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本場のたこ焼きを食べさせる男

「なあ、『本場のたこ焼きを食べさせてくる男』って知ってるか?」 「いや、知らない。何それ。長いし。」 「都市伝説なんだけどさ。」 「都市伝説なんだ。」 「最近このあたりで出没するらしいんだ。」 「へえ。」 「この間、俺の母親が遭遇したらしくてさ。」 「はあ。」 「会うなり『本場のたこ焼き、食わねえか?』って言われて。」 「うん。」 「最初は断ったらしいんだけど、結局食べることになったんだって。」 「それは単に、たこ焼き好きが高じておかしくなった人じゃないのか。」 「いや、こ

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