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人的資本経営とタレントマネジメント(その2) ~「人的資本経営」で人事部に期待されるものは何か~

2.「人的資本経営」で人事部に期待されるものは何か
① 戦略人事が担える人事部へ
まず、人事部の役割や機能を変えていく必要がありそうです。
経産省が進める「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会」が一昨年9月に発表した人材版伊藤レポートで、人的資本経営を実現するためには、経営戦略と連動した人事戦略の策定と実行が重要と解説されています。        この観点で日本企業の現状を確認してみましょう。

まず、経営戦略と人事戦略の連動性です。
図3は「人材マネジメントにおける課題」を人事部門の管理職が回答したものです。
最も多く挙げられた課題が「人事戦略と経営戦略が紐づいていない」で、3割以上の人事部管理職が課題として挙げている状況です。
更に、人事部の経営戦略への関与度合いと経営戦略を実現する機能を有しているかを確認すると、人事部の経営戦略への関与度が低いだけでなく、人事部は戦略を実現する機能を持っていないと感じている人が過半数以上いるという深刻な状況です。(図4)

そもそも、日本の企業は経営戦略の実現に必要な人材を確保(採用・配置・育成)できていないと感じている人が6割以上いるというデータもあるので(図5)、経営戦略と連動した人事戦略を策定し実行していくためには、人事部としても戦略人事を担当できる人材を育成もしくは外部から採用して確保することや、戦略人事の策定・実行を支援するタレントマネジメント等情報システムの整備と有効活用が喫緊の課題になりそうです。

経営戦略と連動した人事戦略を策定・実行できる体制を整え、従来よりもパワーアップした人事部を認知してもらい社内の信頼を得ることが、まず現在の人事部に求められることなのかも知れません。

(図3)

(図4)

(図5)

経産省「第一回人的資本経営の実現に向けた検討会」事務局資料より

②人的資本関連情報の分析と開示
もうひとつ、人事部としては人的資本関連の情報を分析し人事施策の立案・改善に活用したり、社外に開示するための情報を関連部門に提供することが求められるようになります。
では、企業としてどのような情報を収集し、分析/開示する必要があるのでしょうか。
昨年上場企業への人的資本情報の開示を義務化した米国の例をみてみましょう。
米国では現在、「人材投資の開示に関する法律」であるWorkforce Investment Disclosure Actが、上院で審議中です。この法律では下記8つの項目での開示を義務付けています。

1. 契約形態ごとの人員数(Workforce demographic information)
2. 定着・離職、昇格、社内公募(Workforce stability information)
3. 構成・多様性(Workforce composition)
4. スキル・能力(Workforce skills and capabilities)
5. 健康・安全・ウェルビーイング(Workforce health, safety and well-being)
6. 報酬・インセンティブ(Workforce compensation and incentives)
7. 経営上必要となったポジションとその採用の状況(Workforce recruiting and needs)
8. エンゲージメント・生産性(Workforce engagement and productivity)

キーワードとしては、分かりますね。
ただ、現時点ではこれ以上の詳細部分は未確定のようです。
なので「本法案の各項目の開示基準の策定はSECが行うが、法律制定後2年以内に策定が完了しない場合、開示基準としてISO30414が適用される」と追記されています。
※経産省第4回人的資本経営の実現にむけての検討会事務局説明資料より

現時点では、ISO30414をベースに分析/開示の準備をするのが良さそうですね。

弊社が入会している一般社団法人HRテクノロジーコンソーシアムが発行している「“ヒューマンキャピタルレポーティング”の新たなグローバルメガトレンドISO 30414  -HR領域初の国際標準ガイドラインがもたらす未来予測-」を見るとISO30414で求められる情報の概要が見えてきます。
開示すべき情報が大きく11領域で指定されていますが、今回はそのうちイメージしやすい3領域の情報を確認してみましょう。

◆後継者計画
・クリティカルポジションにおける内部昇格者の割合(後継者有効率)
・リーダーポジションの数に対する後継者候補プール数の平均の割合(後継者カバー率)
・期間ごとに後継者を準備ができるクリティカルポジションの割合(後継者準備率)
  ①即時
  ②1~3年で準備完了
  ③4~5年で準備完了
◆ダイバーシティ
・年齢、性別、障害等に関する組織における割合
・取締役会メンバーやマネジメントチームの多様性
・その他の多様性の指標
◆スキルと能力
・人材開発や研修の総コスト
・研修への参加率
・従業員あたりの平均研修時間
・研修カテゴリごとの参加割合
・労働力のコンピテンシーレート

ISO30414では、上記のほかに「労働力可用性」「リーダーシップ」「コスト」「生産性」「採用・異動・離職」「組織文化」「健康経営」「コンプライアンスと倫理」の全11領域、58項目が挙げられています。
「人的資本経営」を実現するためには、このような観点で情報を管理していく必要があるということなのでしょう。

人的資本経営とタレントマネジメント(その2)は、ここまでです。
次回(その3)『「人的資本経営」にタレントマネジメントは有効か』は、2週間後ぐらいの掲載を予定しておりますので、またご覧いただければと思います。 

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