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お絵描きのメカニズム ver1.11 【入門編】

TOPICS|お絵描きのメカニズムの要点。練習に導入するた平易な言葉で解説|

1 お絵描きのメカニズムとは

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 1.1 なぜ考案したか

絵が描けるようになりたいと思っていたけど、練習がつまらなかった。絵を描くことが好きなのではなく、絵が描けるようになることに興味があった。練習とは大量に模写練習をすることだと考えていたので、数をこなしてまで学ぼうとしているものさえ特定できればいろいろパスできると考えた。

お絵描きのメカニズムは、お絵描きに興味はあるけど熱中するとまではいかない人、練習方法が分からなくて諦めている人、趣味感覚で最小限の練習量で上達したい人、に向けて考案した方法論。「上手い絵が描けるレベル」ではなく「絵の描き方を理解しているレベル」に到達するための教科書があるといいと思った。

 1.2 何ができるか

何からどう練習すれば良いか分かる。一度も絵を描いたことがないなら手本の転写から、上手い絵を参考にしたければ真似の仕方、知識として蓄える方法、オリジナル作品のイメージを膨らませるマインドコントロール、など。絵の練習過程をフローチャートで可視化している。

ゲームクリアしていく感覚で、今日はここまで進んだ、たまにはここに挑戦しよう、と計画できる。今やってることの意味を常に理解しながら練習することが練習量を最小限に抑える。究極的には絵を描かずに経験値を取得できる。

お絵描きの思考過程を可視化することで、これまでは才能と言われていたものが言葉で言い表せるようになった。才能による技を、再現性の高い技術として習得できる。言語ベースで思考しているので、練習中に抱いた疑問も考察して結論を出せるようになる。

 1.3 どう実践するか

まずはフローチャートにそのまま従って練習すればいい。例えば、全く絵が描けない状態からのスタートなら外部記録にある手本を転写して線画を描き、そこから改善したいポイントを見つけて添削する。添削方法も言語化しているので、マニュアル通りに自己添削できる。そのうち絵を描くということが掴めてきて、何か疑問を抱き始めたり、自身が学びたい方向性に気づく。そしたら次は手本の絵を言葉で言い表す方法を考えればいい。

このように、練習開始地点からどこまで進めるかスゴロクのように俯瞰でき、さらに各マスに止まって何をすればいいのか(一部)言語化されているので、とにかく迷わず着実に練習を進められる。お絵描きのメカニズムのフローチャートをスゴロクの盤面にして、毎回サイコロの1の目を出しながら各マスのミッションを言われた通りに処理するだけ

2 3つの創作技術 ~お絵描きの心技体~

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お絵描きのメカニズムは3つの創作技術を使い分けて思考していく。漠然と「絵を描く技術」と考えていては複雑に絡み合う思考を分解することができない。答えのあることを思い出しているだけなのか、知識を組み合わせて解決を試みているのか、脳内イメージやを定着させようとしているのか。それぞれ思考の方向性を意識しながら言語化することで再現性を獲得する。

 2.1 製造技術

画材やCGソフトの扱い方といった製造技術。用途ありきで生み出された道具なので模範解答がある。鉛筆のタッチ、水彩画の混色、Adobe Photoshop操作、など全てマニュアル化されている。つまり製造技術はマニュアルの文字さえ読めれば確実にマスターできる。先人によって培われたアイデアを駆使する。

 2.2 描画技術

上手い絵の構造の知識や、絵を描く瞬間に知識を思い出す効率といった描画技術。絵を描く知識を体系化する目的と、脳内イメージを紙の上に再現する思考過程をコントロールする目的を持つ。これは知識の記憶と想起と忘却を理解することで可能となる。図学的な作図方法でもなく、写実的な描画方法でもなく、脳内にしかない空想を描き出す(レンダリング)ための技術。自分の脳をハックする。

 2.3 表現技術

描きたい絵の構想を練るモチベーションや、鑑賞者にどうやってメッセージを伝えるかを扱う表現技術。いかにして絵によって自身や他者に変化をもたらすかといった理論化が難しい分野。製造技術や描画技術を磨いても、表現技術がなければ創作のスタートダッシュができない。創作のモチベーションを3つほど挙げると、まず自分が作りたいもの(メンタルマップ)が明確にあるということ、また達成することで自身が幸福感や満足感を得られる(自我関与)こと、そして人に見せて感動してほしい(承認欲求)ということ。これらをコントロールするのは、自身の精神を高揚させるマインドフルネスの技術と、客観的に面白い作品に仕上げる演出の技術。人の心に訴える。

3 描画技術の5つの工程 ~ステップアップ式上達法~

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練習や勉強には段階がある。それぞれ目的別に区分することで複雑な過程を単純化する。最初に分析工程で情報収集し、想起工程で脳内変換し、記憶工程で知識体系に取り込み、集中工程で知識を使いこなし、製造工程で作品を仕上げる。知らないものから知ってるものへ、知ってるものから分かるものへ、分かるものから使えるものへ、ステップアップしていく。

 3.1 分析工程

まずは知識となる素材を採集しなくてはならない。そのため外部記録から分析したい手本を選び、その手本を観察して学ぶべき部分を言語化しなくてはならない。それが「外部記録 - 言語化フィルタ - 記号化」という流れの分析工程。

 3.2 想起工程

想起というと記憶を呼び起こすことを指すが、ここでは脳内イメージを紙に描き起こすまでのイメージの維持行為も想起に含める。知識を思い出して利用する、作品イメージと知識の結びつけ、といった思考過程は同時に行われる。最初に言語で認識していたものを絵に変換するために印象抽出を行い、最後にできる限りの言語的処理を施して外部記録に保管するための添削を行う。それが「印象抽出 - 構図デッサン - 言語操作フィルタ - 線画 - 添削」という流れの想起工程。

「練習タイプ2(真似)」では記憶工程を経由していないが、これは長期記憶ではなく短期記憶から印象抽出しているということ。記憶工程でカテゴライズしているのは完全に言語化された長期記憶のみで、十分な言語化がされていない勉強中の記号や、難しくてまだ理解できていないことについては、練習タイプ2(真似)によって想起工程を経由する。

 3.3 記憶工程

分析工程で言語化した記号を、さらに精度の高い言語化を行って長期記憶へと定着させる必要がある。分析サイクルで勉強したての記号は、まだ閃きや保留といった中途半端な理解しか得られていない。完全な言語化を施すには実体験(手続き記憶・エピソード記憶)として思考して、その知識を脳内で体系化しなくてはならない。これまでの情報量による勉強ではなく、情報の質による勉強。ただ手本から学ぶのではなく、自身の思考のみでそれらの知識を運用してみる。そうすることで自分言語に翻訳して長期記憶へ定着させやすくなる。それが「カテゴライズ - 知識体系 - 映像記憶」という流れの記憶工程。

 3.4 集中工程

どれだけ完璧に暗記しても、その知識が必要なときに役に立たなければ意味がない。また、脳はハイスペックで容量は膨大だが、その全体を確実に検索するスペックは持ち合わせていない。記憶を検索するにはGoogleでキーワード検索するように、何かしらのきっかけを与えて関連付けなくてはならない。しかし脳のスペックではキーワード検索はできないため、長期記憶をダイレクトに思い出すことはできない。

これまでは長期記憶以外にもエピソード記憶や手続き記憶を使い、ここではさらにプライミング記憶(先入観の誘引)をも利用して知識の想起効率を最大限に引き出すのが「印象抽出 - 連想・反復 - 知識体系」という流れの集中工程。

知識だけでなくモチベーションも活性化しなくては発揮できない。気分を高揚させる何かに集中することでメンタルマップを再認識または再構築することで、絵を描くのに適した精神統一が行える。メンタルマップは自身の願望や意識の方向性のことで、作品構想などもここに構築される。さらに絵が上達したらやりたいこともモチベーションの源泉となり、これを自我関与という。

 3.5 製造工程

これは単純に脳内イメージを線画としてレンダリングした後の仕上げ工程のこと。どのような色塗りをするか、線画の密度やタッチは、アナログかデジタルか、イラストか漫画かアニメかゲームか。主に道具の使い方に終始する。ここからはその絵をどう運用するかで完全に方法が別れる。それが「線画 - 仕上げ - 作品」という流れの製造工程。

4 2つの領域 ~現象と言語~

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認識は2つの領域で行われている。まず目の前にある現象を視覚的に映像として認識する「具象領域」。一方で、記憶から想起される映像の認識は、映像記憶はそれ単体で映像として認識できるほど精密なものではなく、映像をイメージしながら言語的に答え合わせする程度の「抽象領域」がある。視覚による現象の認識と、言語による映像記憶の構築、この2つがお絵描き中に起きている認知活動

これらの領域は、手本を観察して模写し、そこで学んだことを知識体系に組み込む際に言語化するという流れで2つの領域を交互に行き来することになる。それぞれで思考の焦点の合わせ方が異なるので、練習中の自分が具象領域と抽象領域のどちらにいるのかを把握しておく。

 4.1 具象領域

物理的に存在するもの、視認できるもの、言い表すまでもないこと、言語化できていないもの。分析工程では具象的なものを観察して抽象的な言語に変換する。また、想起工程では言語化して長期記憶に蓄えられていた知識や、リアルタイムで考えている作品イメージを紙に書き付けて具象化する。これを「お絵描き」という。

 4.2 抽象領域

具象的なものを言語化したもの、物理的に具現化できていないもの、脳内に浮かんでいるイメージなど。知識体系の保管場所は抽象領域にある。文書化して外部記録としても保管できるように思えるが、結局は視覚で文字を読んで抽象領域に言語として置き換える手間がかかる上、外部記録にある以上は「思い出す」ということができないため非推奨

 4.3 言語化フィルタ

実写や絵を見てその形状やアングルを言葉で表すといった、観察によって一定の法則性を見出して描画作業に利用するための機能。お絵描きのメカニズムでは哲学者カントの『純粋理性批判』にある感性、悟性、理性という3段階のフィルターとして組み込んでいる(現時点では)。感性により被写体の形状と位置を「知覚」し、悟性により知覚したものがどの知識に分類されるか「判断」し、理性によってその知識の有用性を「評価」する、という具合。

 4.4 言語操作フィルタ

想起工程では脳内の映像記憶の印象抽出が行われるが、映像記憶は不安定で曖昧なためコントロールが難しい。基本的には言語で管理された知識によって映像記憶に影響を与える。逆に、絵を描くために最適化された知識によって脳内に浮かんだ映像記憶を即座に言語化して保存することで、できる限り忘却されないうちに映像記憶から印象抽出を行う。理想は脳内に浮かぶ映像記憶自体が絵の記号によって構築されるようになれば、想像したイメージと描画する絵の誤差が小さくなる。

 4.5 外部記録

資料、好きな絵、作品、メモなど。知識体系は想起するために常に脳内に保管されている必要があるが、資料や覚書などは脳内に保管することは不可能または不合理。つまり完全に言語化された知識以外のものは全て外部記録化すべき。

 4.6 知識体系と映像記憶

知識体系とはいつでも知識を想起できるアイドリング状態を維持するのに不可欠。書籍やメモのような外部記録にも知識は保管できるが、想起という過程を経るには一度脳内にインプットする必要があるため、そういうものは知識体系には含めない。

映像記憶とは思考から生み出されたイメージのこと。思考から生み出されるからには言語による意味付けが必ずある。ほとんどの場合の映像記憶のきっかけは、何気ない閃きや、直前に視覚によって知覚した刺激などの影響を受けている。そこで知識体系の言語によってイメージに影響を与えることで任意の映像記憶を生み出し、そこから印象抽出して絵を描く。これを言語操作という。

5 4つの練習タイプ ~目的意識を持った練習~

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練習の課題は画力レベルによって変化する。練習の内容は大きく分けて、手本の「転写」、上手い絵の「真似」、習得した記号で上手い絵を「再構築」、絵を描く瞬間に知識や妄想の「活性化」、この4つに分類できる。

それぞれ画力レベルによって取り組むべきタイミングがあり、練習なのか作品制作なのかによっても練習タイプを選ぶ必要がある。各タイプの特性を理解してピンポイントに練習できる。

 5.1 練習タイプ1(転写)

外部記録から選び出した実写資料や上手い絵の手本をドットレベルで転写することで、これまで描いたことのない被写体の形状をじっくり観察する機会を設ける練習方法。主に知ることが目的。絵を記号化するための原石である素材を採集する作業もこれに含まれる。

これをやっていて悩んだとき、それがそのまま課題となる。その課題をできるかぎり言語化し、知らないなりでもその課題を解決する仮説を立てて分析し、言語化フィルタを通した結果できた記号が当面の分析対象となる。

 5.2 練習タイプ2(真似)

上手い絵を転写するのではなく、その絵を上手いと思わせている記号の機能を解析する練習方法。主に上手い絵の作者の思考を深読みして「解釈」することが目的。

 5.3 練習タイプ3(再構築)

練習タイプ2(真似)で学び取った絵の記号を使って本当に上手い絵が再現できるかどうか検証し、間違いないことを確認して知識体系に組み込む練習。主に知識のカテゴリーの構築やアップデートと、学び取った記号がカテゴリーと合致するかを検証してより具体的に言語化して「理解」して覚えることが目的。バラバラで学んだ記号をまとめ上げて上手い絵に仕上げる構成力を鍛える練習。

試し描きしてみて思ったより下手だった場合、スキームエラーが起きる。イメージしていた動作ができなかったことをフィードバックし、添削してもう一度試し描きする。これは練習タイプ3だけでなく、全ての練習タイプで行う添削で言えること。

 5.4 練習タイプ4(活性化)

練習タイプ3(再構築)で身につけた知識が、実際に絵を描く瞬間に想起できるか、また、創作意欲と結びつけて絵として描き出すことができるか、といったデリケートな変換を行う練習方法。主に知識をより実際的な作業に運用して新たなもの(オリジナル作品)を生み出す「転用」が目的。

メンタルマップを再認識するためにも役立つ。これはモチベーションを高めるために必要。「練習タイプ4(活性化)」は「集中工程」とほぼ同義。

6 6つの絵の記号 ~上手い絵の構造を分解~

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絵を絵たらしめるものは何かと考えると、シルエット、シェーディング、立体感、空間、比率、ポーズ、デザインなどといった要素にいきつく。なぜなら絵に描く被写体は鑑賞者の知っているもの、理解の及ぶものであり、つまり実在感をもってして絵となるから。結局は、人間が物体を視認するときの認知活動を紐解いて、その活動を満たす記号で被写体を構築すればいい。その認知活動と記号に当てはまるカテゴリーで絵の構造を分解していく。すると6つの絵の記号があれば上手い絵が描けるという結論になった。

記号をカテゴライズしておくと、練習のときに学び取るべき範囲を区分できる。つまり観察に集中すべき範囲の限定による経験値の密度(観察力)が増す。

 6.1 構図デッサン

絵には必ず構図が存在する。全ての被写体の配置。描きたい絵の構想イメージを真っ先に紙の上に具現化するには、まずラフな構図を描けなくては作品制作が始まらない。構図デッサンするには2通りの思考がある。一つは、定番の構図を土台にして画面レイアウトを設計する思考。もう一つは、描こうとする構図に必要な描画手順を選択する思考。前者は「構図デッサン(設計)」、後者は「構図デッサン(分析)」とでも呼べば区別できる。「構図デッサン」という呼称は、「人物デッサン」「背景デッサン」と明確に区別するためにあえてそうした。

構図デッサン(分析)では、構図パターンを演出意図ではなく描画手順で条件分岐させて判別する。その構図のシーンにどのような演出意図があろうと、被写体の映り方のみにフォーカスして分類しているため、構図パターンを暗記せずその都度マニュアル通りに判別するという処理を行う。

一方、構図デッサン(設計)では演出意図や見栄えで構図パターンを分類するとするため、構図パターンとは人体素体のようなもの。描画のスタート地点を一瞬で用意でき、そこから相対的に微調整していくことで画作りしていくことができる。

 6.2 測定記号

構図はあくまで画面上の配置を平面的に、もしくは画面を占める面積比で試行錯誤する。そこからさらに絵の世界の実在感を付与していくには空間を描かなくてはならない。空間を描くのに最適な透視図法を応用して、これからデッサンしていく被写体の空間的な配置を割り出していく作業に測定記号が役立つ。

構図デッサン(分析)で分析するのは、その絵を描くために必要な測定記号を特定すること。場合によっては、絵の中に数値的寸法情報が存在しないため測定記号が必要ない絵もある。測定記号の対象は「空間の遠近感(位置)」「被写体の遠近感(方向・寸法)」なので、画面レイアウト上での見栄え重視の重ね遠近法の構図では測定記号は使わない。

 6.3 箱型素体

被写体のボリューム感や比率だけを情報として盛り込んだ、箱型もしくは直線的な素体。彫刻する前の木材のようなもので、そこから被写体のボリュームを切り出していく。人物画ではコントラポストとして機能する骨格や、比率を測りやすくするための棺桶などがよく使われる。被写体の遠近感をデッサンする際に役立つ

デッサンするときに人が認識する要素は「位置」と「形状」の2つ。箱型素体はそのうち「位置」のデッサンを補助する。画面内の空間に被写体を配置することはまさに「位置」の領分。

数ある記号のうち使用頻度の高いものを素体に盛り込んでおくと、本来なら長期記憶に保存されるために言語化された絵の記号を、ほとんどビジュアルに落とし込んだ状態で想起できる。覚えるべき情報(正中線・S字カーブ・コントラポスト・頭身など)をパッケージングして単純化している。たとえるなら、分厚い専門書を丁寧に読み込むのではなく、要約されたレビューを読むくらいには手間を省ける。

 6.4 流線型素体

被写体の形状やデザインを情報として盛り込んだ、複雑な形状の素体。3DCGのポリゴンやメッシュのようなもので、デッサンしたシルエットの立体感をスキャンするように表面に補助線を這わせるイメージ(断面・ひし形法・たすき掛けなど)。立体表面に這うものとして、SF作品に登場するパイロットスーツや、競泳水着などのように、体表面に密着する模様のある衣服が意外と役立つ。被写体の立体感をデッサンする際に役立つ。

 6.5 素材(デザイン)

被写体に付いているパーツの描き方をある程度まで言語化したとき、それは絵を描くための素材として記憶にとどまる。素体のように完全な再現性を獲得していなくとも、簡単なパーツであればなんとなくアドリブでデッサンし切れてしまうが、その全体のデザインを把握していなくてはディテールを最後まで描き切ることができない。そのために、一度は細部まで描き方を経験しておくといい。素材は練習「タイプ1(転写)」によって簡単に集められる

 6.6 印象記号

まだ言語化できていない絵の記号は全てこれに該当する。見栄えのいい絵というのは必ずしも写実的ではなく、どこかデフォルメを加えて認知心理に訴える要素がある。たとえば黄金比による画面の安定であったり、あえて余計な情報を省いて鑑賞者の意識を誘導したり。科学的根拠のないものだと、キャラの顔の作風による印象の違いであったり、見応えのある構図であったり。こういった絵を描く上で重要でありながら、具体的な言語化がされていないため絵を描く瞬間に思い出しにくい類の知識は、印象記号に分類して解明を後回しにする。

感覚で描くときにはほぼ印象記号のみで描画することになる。描いてみて、評価して、修正して、いい感じに仕上がるまでそれを繰り返す。この方法だと勉強が不要な上、気軽に楽しく描ける。しかしそれをいくら積み重ねても上達しにくいという欠点がある。いずれは言語化して素体や素材に昇華しなくてはならない。

7 絵の記号のセグメント ~絵の記号を用途別に分類~

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絵の記号のカテゴライズは、人の認知の枠組みで考えていた。しかし、それは知識として学び取るため、覚えるための枠組み。実際に絵を描く瞬間には想起の枠組みが必要。それが用途別に分類した絵の記号のセグメント。

今描こうとしているものが被写体のアングルなのか、ディテールなのか、写実的なのか、デフォルメなのか、といった用途や作風を基準にして絵の記号を選択できる必要がある。その分類基準として「遠近感」「立体感」「理屈」「印象」の4つで絵の記号のスペックを判別しておく。

 7.1 遠近感と立体感

物を認識するとき、位置(距離)、形状(方向)、大きさ(量)、などが判断材料としてある。位置はパースによって描き分け、形状はシルエットや陰影で描き分け、大きさは面積で描き分ける。このうち位置と形状は適当に描いてしまっては違和感が発生してしまう。上手い絵とは鑑賞者が実在感を覚えるもので、実在感を邪魔する違和感を排除することが必須。よって絵の記号のスペック評価として「遠近感」と「立体感」を基準に置くことは妥当。

 7.2 理屈と印象

絵はなんとなくの感覚で描くことができる。しかし上手い絵を描くには実在感を再現しなくてはならない。実在感をデッサンするには現実世界を観察して捻出した法則によって再現するのが効率的。解剖学や透視図法は実物を紙の上に再現するために編み出された学問や手法なので、実在感を損なわずに絵を描くときは理屈を重視する。

一方、理屈に縛られて作品イメージや構想に異を唱えてしまうとき、理屈を重視し続けると作品イメージが崩壊して絵が描けなくなる。そんなときは最終的な見栄えを基準に据えた印象を重視する。理論化されていなくとも、作風の傾向データなどはある程度蓄積されているはずなので、それを参考にしたり、自身の感性によって編み出したりする。

8 お絵描き機械化計画

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お絵描きのメカニズムの目指す場所は、まず自分が楽に絵を描けるようになること。また、誰でも絵が描ける理論を普及させてみんなを感動させたいということ。この理論を他分野(作曲・工作・料理など)に転用して創作行為を一般的なものにしてみたいということ。これらを実現させたい。

誰でも絵が描けるということは、言葉で表現できない微妙なニュアンスを伝えられたり、言語より伝達効率の高い絵や図式によってテンポのいいコミュニケーションができたり(アスキーアート・LINEスタンプなど)、絵が描けることによって脳内の映像記憶の強度も上がって思考能力が向上したり、といったメリットがある。幼い頃からピアノを習っていると絶対音感が身に付くのと同じように、幼い頃から適切に段階的なお絵描きをしていると脳のスペックが向上するかもしれない。

そして何より求められているのは、やはり劣等感や妬みの解消。漫画を描きたいのに絵の練習で挫折、勿体無い。絵を仕事にしたいのに入門方法が分からなくて断念、勿体無い。上手い絵描きから学べることがたくさんあるのに「上手い」「すごい」しか言語化できない、勿体無い。この鬱憤が作者に向くと不毛な心理に陥る。相当な器の大きさを持ち合わせていない限りこの苦しみに覚えがあるはず。それらに明確な方向性を与えるだけで絵の上達が約束されるとしたら素晴らしいことだと思う。

お絵描きのメカニズムver1.0は、そんな理論があったらいいなと思っていたかつての自分が喜ぶような理論に仕上がったと思う。さらに具体的な実用性を検証して、本当に理屈で絵が描けることを証明できるようにverアップしていく予定。


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