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2023年の「地方自治体キャッシュレス」事情


地方自治体がキャッシュレス決済に力を入れています。

自治体が住民に行政サービスを提供すると、住民は代金を支払うわけですが、このときキャッシュレスで支払えるようにしているのです。

 

自治体によるキャッシュレス化はこれまでも進められていて、2023年はさらにその動きが加速しそうです。

キャッシュレスは金融とITが融合したものなので、自治体キャッシュレスは地方経済の活性化にも寄与するはずです。

6つの事例を紹介します。データや情報は2023年2月現在のものです。

 

高知市は住民票と納税証明書でキャッシュレス

 

最初に紹介するのは自治体キャッシュレスの典型例ともいえる高知市の事例です。

高知市は2023年1月に、市役所本庁舎の中央窓口センターと資産税課の会計窓口の2カ所にキャッシュレスを導入しました(※1)。

導入したのはキャッシュレス決済機能付きレジで、非接触型なのでコロナ対策にもなっています。

これにより住民は、戸籍謄本、身分証明書、住民票の写し、印鑑登録証明書、収入・所得証明書、納税証明書、土地・家屋課税台帳の写しなどをキャッシュレスで購入することができます。

 ※1:https://www.city.kochi.kochi.jp/soshiki/18/cashless-regi.html

 

クレカ、電子マネー、交通系も

 

2つの窓口で使えるキャッシュレスは次のとおり。

 

主なキャッシュレスは使えます。また、北海道がメインのKitacaや愛知県や静岡県などで使えるICOCAや、福岡市地下鉄のはやかけんといったご当地交通系ICカードも扱っています。

 

ただし、まだ市役所本庁舎内の2つの窓口でしか使うことができず、地域の窓口センターではこれまでとおり現金で購入することになります。

 

もっと充実した甲府市

 

甲府市(山梨県)も2023年1月からキャッシュレス決済を導入しました(※2)。

その内容は高知市より充実したものとなっています。

 ※2:https://www.city.kofu.yamanashi.jp/joho/kyaxtushuresu/madoguchidounyuu.html

 

特殊な申請関係にも対応、本庁舎と地域10カ所に導入

 

住民票の写しや印鑑登録証明書、課税証明書、所得証明書だけでなく、飲食店営業許可申請、菓子製造の許可、美容所の検査、狂犬病予防注射でもキャッシュレス決済が使えます。

さらに市役所本庁舎だけでなく、市内10カ所の窓口センターなどにもキャッシュレスを導入しました。

 

甲府市で使えるキャッシュレスは以下のとおり。

 

使えるキャッシュレスも高知市より多く、さながら自治体キャッシュレス競争の様相を呈しています。

 

群馬県は33団体がキャッシュレス納付宣言

 

群馬県では33の団体が2023年1月に「群馬県キャッシュレス納付共同推進宣言」(以下、群馬宣言)を行いました(※3)。

33団体は、群馬県、群馬県市長会、群馬県町村会、日本銀行前橋支店、群馬銀行、地域の信用金庫・信用組合、群馬県酒造組合、前橋税務署などとなっています。

 ※3:https://www.boj.or.jp/note_tfjgs/kokko/elec/data/elec7.pdf

 

県や市町村も入っているが旗振り役は税務署

 

群馬宣言には自治体(群馬県、群馬県市長会、群馬県町村会)も入っていますが、旗振り役になったのは前橋税務署です。税務署の上部組織は国税庁なので、国の機関が群馬宣言を主導しました。

 

1つの県で国の機関、自治体、金融機関、民間団体が33も集まってキャッシュレス納付宣言をすることは珍しく日本経済新聞や読売新聞、地元群馬テレビがこの取り組みを報じたほどです(※4、5、6)。

 

※4:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC112SS0R10C23A1000000/

※5:https://www.yomiuri.co.jp/local/gunma/news/20230210-OYTNT50174/

※6:https://www.youtube.com/watch?v=6IGLuIbEtCk

 

「税金はキャッシュレスで納付しよう」キャンペーンの一環

 

群馬宣言の内容は、国税と地方税の納付手続きにおいてキャッシュレス納付の利用推進に取り組むというもの。33団体が広報活動を実施して、県内企業や県民にキャッシュレス納付の利用を促します。

 

国税庁が全国でキャッシュレス納付推進キャンペーンを展開しているので、群馬宣言はその地方版という位置づけになります。

キャッシュレス納付とは所得税などの国税を、口座振替やインターネットバンキングなどで納付する方法。非対面で行える納税方法です。

 

前橋税務署長は「国だけではキャッシュレスはなかなか進まない地方を含めて一体として進めたほうが普及しやすいと考えて進めた」と群馬宣言を取りまとめた動機を説明しています。

前橋税務署によると2021年度の群馬県内の国税納付件数は約63万件で、そのうちキャッシュレス納付は3割弱にとどまっています。

前橋税務署長は「キャッシュレス納付を使えば非常に便利であることがわかるので、ぜひ使ってみて欲しい」と話しています。

 

三重県の4町はデジタル通貨「美村ペイ」でリゾート活性化

 

三重県中部に位置する多気町、明和町、大台町、度会町、紀北町の5つの町は境界線を接していて「美村(びそん)」という自治体グループを結成しています(※7)。

このうち紀北町を除く多気町、明和町、大台町、度会町の4町が2023年1月に「美村ペイ」というデジタル地域通貨を始めました(※8)。

 

※7:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000017.000100235.html

※8:https://portal.mie-vison.org/visonpay_mie/

 

ホテルやマルシェ、農園があるヴィソンで使える

 

美村ペイの仕組みは電子マネーと同じで、スマホのアプリにお金をチャージするとその分の買い物を美村ペイ加盟店で使うことができます。

美村ペイの運営は株式会社三十三銀行が担当しています。

 

美村ペイの狙いは4町内での消費活動を活性化して、経済循環を促進することです。また、美村ペイのシステムを使ってユーザーに観光情報などを発信します。

 

美村ペイのもう1つの重要な目的は、多気町にある巨大リゾート「ヴィソン」の集客です。ヴィソンは、東京ドーム24個分に相当する54ヘクタールの敷地に、リゾートホテルや地元の食材が購入できるマルシェ、カカオ農園とイチゴ農園を併設したレストラン、ロート製薬と共同で開発した薬草湯が楽しめる温浴施設、芸術性の高い調理器具を展示した博物館などを展開しています。

美村ペイはヴィソン内の64店舗で使うことができます(※9、10、11)

 

※9:https://www.kankomie.or.jp/report/847

※10:https://vison.jp/

※11:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000017.000100235.html

 

富士市は物価高対策でキャッシュレス

 

富士市(静岡県)のキャッシュレス戦略はその他の自治体のものと毛色が違います。物価高対策としてキャッシュレスを利用し、しかもあのペイペイを使いました(※12、13)。

 

※12:https://www.city.fuji.shizuoka.jp/page/rn2ola0000046fly.html

※13:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC192O90Z11C22A0000000/

 

市民がペイペイで支払うと20%還元

 

すでにこのキャンペーンは終了しているのですが、富士市の市民が2022年11月の1カ月間、富士市内の登録店舗でペイペイで支払うと、その20%がポイントで還元される仕組みでした。

 

つまり自治体である富士市が、市民のペイペイでの買い物を20%分だけ補助した形になります。補助額は1人最大5,000円。

富士市が買い物補助をしたのは、物価高の影響で市民の家計が打撃を受けていたからです。またコロナ禍で打撃を受けた地元商店の支援策も兼ねています。

 

自治体がペイペイだけを「ひいき」して問題ないのか

 

自治体が市民の家計や地元商店を支援することは政策として問題ないとしても、自治体が1つのキャッシュレスを優遇することに問題はないのでしょうか。

富士市は行政サービスのデジタル化を進めるデジタル変革宣言を打ち出していて、ペイペイを運営するペイペイ株式会社と包括連携協定を結んでいます。

行政サービスのデジタル化は自治体だけでは実現できないので、フィンテック企業のペイペイ株式会社のサポートを受けることにしたのです。

それでペイペイを使った物価高対策を打ち出したのです。

 

ペイペイを利用した政策は富士吉田市でも

 

同様の取り組みは富士吉田市(山梨県)も実施しています。2023年2、3月の2カ月間にわたって、市民が市内の対象店舗でペイペイで買い物をすると20%がポイント還元されます(※14)。

 

自治体がこれまでの手法で市民の家計や地元店舗を支援しようとすると、相当の手間と相当のコストがかかり、それを負担するのは結局市民です。しかし「ペイペイを使うだけ」なら、手間もコストもそれほどかからず、しかもすぐに実施できます。

政策利用は、キャッシュレスの新たな使い方として注目できるはずです。

 

※14:https://www.city.fujiyoshida.yamanashi.jp/info/4431

 

まとめに代えて~目指せ完全キャッシュレス自治体

 

東京都も負けていません。

墨田区は2023年度から、住民票の写しや戸籍証明書などの郵送請求にキャッシュレス決済を使います(※15)。

クレジットカードを使った支払いができることで手続きが簡便化されてスピーディーになるので、請求から交付までの時間を短縮できるといいます。

 これは非常に小さな取り組みですが、だからこそ意義深いといえそうです。自治体関連のすべての支払いを細部に至るまでキャッシュレス化できれば、完全なキャッシュレス自治体ができるからです。

 

※15:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC30B8U0Q3A130C2000000/


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