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「認知症だ」そのときまでに家族が知っておくべきこと~詳しい解説だがこれくらいの知識は必要

 


認知症の症状は徐々に現れてきて、少しずつ、しかし確実に悪化していきます。それまでできていたことができなくなったり、ミスが増えたり、常識的には取るはずがない行動を取ってしまったりします。

そのとき頼りになるのが家族です。家族が認知症患者さんの症状をみつければ、早期に治療に取り組むことができます。そして早期治療によって、認知症の症状を和らげたり病気の進行を遅らせたりできることがわかっています。

したがって家族の方々が認知症の症状とその対処法を知っておくことは、認知症治療や認知症患者さんへのケアにおいてとても重要になります。 

認知症の症状の基本的な理解|何が起こっているのか

まずは認知症の基本を理解していきましょう。

認知症は病名ではなく症状の名称です。つまり、ある病気を発症してその症状の一つが認知症になるわけです。ただし医療や介護の現場では認知症を病名のように使ったほうが便利なことがあります。

認知症を引き起こす「ある病気」とは脳に関する病気です。その病気は複数あるのですが、いずれも脳細胞にダメージを与えたり脳細胞の働きを阻害したり脳細胞を死滅させたりします。

認知症の定義と主なタイプ

認知症は次のように定義されます。

●さまざまな原因で脳細胞に支障が起きて、記憶力や判断力などの認知機能が低下したり機能しなくなったりして、社会生活に著しい支障をきたすようになる状態

また、認知機能の低下や社会生活への支障が6カ月以上継続して改善する見込みがないことも定義に加わります。

認知症は元となる病気によってタイプわけされています。

アルツハイマー型認知症はアルツハイマー病が原因となって発症する認知症で、最も症例が多いものです。アルツハイマー病の患者さんの脳には、アミロイドβやリン酸化タウというタンパク質が溜まっていることから、これが脳細胞を障害していると考えられています。

 レビー小体型認知症は、脳にαシヌクレインというタンパク質が溜まって発症するレビー小体病が原因となる認知症です。

 前頭側頭葉変性症(FTD)は脳の前頭葉という部分と側頭葉という部分が萎縮して血流が低下して発症します。指定難病に認定されていて、その症状の一つに認知症があります。

 血管性認知症は脳の血管にかかる病気がきっかけとなって発症する認知症です。脳の血管の病気には脳梗塞や脳出血などがあります。脳に栄養や酸素がいかなくなり、脳細胞が死滅して認知症を引き起こします。 

早期発見のために知っておくべき認知症の症状

認知症は徐々に進行します。つまり小さい症状から中くらいの症状に移行して、最終的に重い症状を引き起こします。

認知症は不治の病と思っている方がいると思いますが、確かに悪化した認知症を治す方法はないのですが、症状の進行を遅らせたり、若干ではありますが治療やケアによって症状を改善させたりすることも不可能ではありません。

そのため認知症もそのほかの病気と同様に、早くみつけて早く治療に取りかかったほうがよいのです。

そのため家族は認知症の進み方を把握しておき、早期発見につなげるようにしてください。

初期の認知症の症状

初期の認知症患者さんには、記憶が障害される、日常生活が困難になる、言語が不自由になる、といった症状がみられます。

記憶障害といっても、知っている人の名前が出てこないといったことや、財布を忘れてしまうといったことは単なる物忘れのことが多く、それは認知症の症状ではありません。認知症による記憶障害は、たった今終えたばかりの作業を覚えていない、といったような、周囲の人が少し驚くレベルのものです。さっき言ったことをまったく覚えていないこともあります。

このような記憶障害は日常生活にも支障を及ぼし始めます。家族が「認知症かもしれない」と気づかないと、言った言わないの喧嘩になってしまうこともあるでしょう。

さらに、計画を立てて行動する、ということができなくなります。例えば買い物に行く場合、着替えて、必要な商品を考えて、財布とエコバッグと自動車の鍵を持って家を出て、車を運転してスーパーマーケットに行って、必要な商品を買い物かごに入れてレジでお金を支払って、車を運転して帰宅する、という段取りが必要ですが、健常者はこれをほぼ無意識に計画することができます。しかし認知症を発症すると、これらの計画が立てられなくなるのでミスが多発します。

認知症の言葉が不自由になる症状では、あたかも思考が停止したかのように言葉がまったく出てこない状態に陥ります。これは言葉を司る脳の部分が障害されているため、言葉が使えなくなっているからです。 

進行する認知症の症状

認知症が進行すると、行動や気分が著しく変化したり、混乱や失認を引き起こしたり、身体的な変化が起きたりします。

行動の著しい変化には、異常行動や徘徊などがあります。気分の著しい変化には、認知症を発症する前はおとなしい性格だったのに、突然怒り出すようになる、といった症状があります。異常に焦ったり、異常に興奮したりといった症状もみられます。

健常者であれば混乱するようなシーンではないのに混乱してしまうこともあります。失認とは五感による認識を働かせられない状態のことです。例えば食事のときに、目の前にマヨネーズがあり、それが見えているはずなのに「マヨネーズがない」と言ったりします。これは目がとらえた視覚情報を脳が解釈できないことで起きます。見えていないわけではなく、見えているものが理解できないのです。

身体的変化には、例えば筋肉や関節に異常がないのに服を脱いだり着たりすることができなくなる、といった症状があります。また精神上の不具合と合わせて、外出好きだった人がめっきり外に出なくなる、といった行動に代わることがあります。 

認知症の症状を医療機関で診断する方法

家族が「うちの人は認知症かもしれない」と感じたら、医療機関にかかることになります。では認知症疑いの人が医療機関にかかったら、どのように診断していくのでしょうか。

認知症の症状を医療機関で診断する方法を紹介します。

認知症の診断プロセス

医療機関の医師は、家族や本人から「認知症かもしれない」「認知症の症状に似た症状を起こしている」という訴えを聞いたら、本当に認知症なのかどうか、それとも別の病気がその症状を引き起こしているのかどうか、といったことを確認します。

例えば、アルツハイマー型認知症にも鬱病にも、気持ちの落ち込みや記憶障害がみられます。そのため気持ちの落ち込みや記憶障害だけではどちらの病気を発症しているのかわかりません。しかしアルツハイマー型認知症の患者さんは、記憶障害が起きているのにつじつまを合わせようとする傾向が顕著にみられます。一方で鬱病の患者さんは、医師が記憶について尋ねても「わからない」といったように否定的に答える傾向があります。

認知症患者さんを多く診ている医師はその特徴をよく知っているので、患者さんを詳しく問診することで認知症かどうかの「当たり」をつけます。

認知機能テストと役割

患者さんを詳細に問診したり家族から話を聞いたりするだけでも、医師はかなり高い確率で認知症かどうかを見極めることができますが、しかし診断を確定させるには客観的な情報(エビデンス)が必要になります。そこで認知症が強く疑われる患者さんには、認知機能テストを受けたもらうことがあります。

最もよく行われるのは「改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)」という認知機能テストです。患者さんに単純な計算をしてもらったり、日付や場所を尋ねたりして認知機能を点数化します。点数が一定水準より低いと認知症の疑いが高いとみなされます。

画像診断の重要性

認知症の疑いが濃厚になると、医師は患者さんに脳の画像検査を受けてもらうはずです。CTやMRIを使って脳の形状をみます。これで脳が萎縮しているかどうかや、脳の血流の状態などをみるのです。

脳の画像検査で認知症かどうかの診断がくだります。さらにどのタイプの認知症なのかもこの段階で判明します。 

認知症の症状に対処する|家族ができるサポートとケア

家族は認知症と診断された患者さんに対して、さまざまなサポートやケアを提供することができます。ここでは日常生活のサポートと医療的な対処のほか、家族自身の心のケアについて解説します。

日常生活でのサポート

 家族による日常生活でのサポートでは、できないことだけを支援してあげる、できることはこれまでとおりしてもらう、というスタンスが重要になります。それというのも、認知症の診断が下っても、その人はできることは健常者と同じようにできるからです。できないことだけをそっとサポートしてあげることで、患者さんの自尊心を守ってあげることができます。

日常生活のサポートでもう一つ注意したいのは、安全の確保です。認知症を発症すると興奮してしまい、足腰が悪くて激しく歩くと転倒するリスクが高いのに歩き回ってしまうことがあります。それは危険なので、家族は興奮をなだめて安全を確保してあげる必要があります。

また、コミュニケーションの取り方も工夫したいものです。認知症によって「できないこと」や「してしまうこと」は、本人では改善のしようがありません。そのため認知症患者さんのミスを叱ることはまったく意味がありません。叱ってしまうとむしろ心を閉ざしてしまうかもしれません。

そのため家族は、認知症患者さんがミスをしても、または問題のある行動を起こしても「いいんだよ」という態度で接してあげるとよいでしょう。 

医療的な対処法と治療

 認知症患者さんへの治療では、医療従事者だけでなく家族も加わると効果が高まることがあります。例えば認知症の薬が処方されても、認知症患者さん本人は飲み忘れてしまうかもしれません。その場合、家族がきちんと薬を飲ませてあげることが治療になります。

また脳を活性化させると、脳に残っている機能が維持されることがあります。そこで家族が外出やデイサービスを促すことは、認知症の症状緩和につながる可能性があります。これは非薬物的な治療になり、そして家族にしかできない治療になります。 

家族自身の心のケア 

認知症患者さんをサポートする家族が介護疲れを起こしてしまったら、いわゆる「共倒れ」になってしまいます。そのため認知症患者さんの家族は自分自身を癒すセルフケアを心がけてください。介護サービスを使うことで家族は自由時間を確保でき、遊びに行くことができます。認知症患者さんのサポートでは優しさが最も重要になりますが、自分に余裕が生まれると人に優しくできるようになります。

そしてセルフケアがうまく機能しなかったら、サポートグループやカウンセリングを利用してみてください。日頃の愚痴やつらいこと、困っていることを吐露するだけでも気持ちが楽になることがあります。そしてカウンセラーは適切なアドバイスをしてくれるでしょう。そこに救いがあることがあります。 

認知症の症状を予防する|健康的な生活習慣の重要性

ここまで家族と認知症患者さんとの関わりについて解説してきましたが、この章では自分自身で認知症を予防する方法を紹介します。

認知症予防といっても難しいことはなく、最も重要なことは健康的な生活習慣を身につけることです。

食生活に気をつけて認知症予防

アルツハイマー型認知症や血管性認知症は、高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病によって発症リスクが高まることがわかっています。

そして生活習慣病を予防するには、食生活を改善する必要があります。血圧や血糖値、中性脂肪などを上げない食事を心がけましょう。

運動で認知症予防

運動は肥満を予防して、それは生活習慣病の予防につながります。そのため運動も認知症予防になります。

また運動すると筋力がつくので、外出が面倒になりません。そのため運動している人は外から刺激を受けやすくなり、それは脳を活性化させます。

社会的なつながりが認知症予防に

脳を活性化させるには、社会とのつながりをしっかり持っていることも大切です。仕事を引退すると急に人と会わなくなることがありますが、それは社会的なつながりを弱めてしまいます。

近所づきあいや友人との交流、趣味を増やすといったことに取り組むだけで社会とのつながりは強固になっていきます。 

まとめ

 家族が認知症患者さんにしてあげられることはたくさんあります。そして家族にしかできないこともたくさんあります。

認知症は、自分の意思で自分の生活を決めることができなくなる病気です。したがって必ず誰かのサポートが必要になります。医療機関と介護と家族が協力して認知症患者さんをサポートすることで、家族も患者さん本人も、少しでも普段の生活に近い生活を取り戻すことができます。

 

【参考サイト】

https://anshinkaigo.asahi-life.co.jp/activity/ninchisho/column2/

https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201308/1.html

https://kaigo.homes.co.jp/manual/dementia/symptom/

https://www.taiyo-seimei.co.jp/net_lineup/colum/ninchi/003.html

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https://nishiharu-clinic.com/2022/06/21/2022-06-21/

https://medical.francebed.co.jp/special/column/16_dementia02.php

https://info.ninchisho.net/type/t40

https://www.tyojyu.or.jp/kankoubutsu/gyoseki/ninchisho-yobo-care/h30-3-1.html

https://www.asahi-life.co.jp/nethoken/howto/ninchisyo/dementia-testing-what-to-do.html

https://takanawa.jcho.go.jp/wp-content/uploads/2017/11/12-2_saitou.pdf

https://www.isshogaiine.com/treat/non-medicine.html

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