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2.0ではなく、1.0へ

皆さんこんばんは。パコラです。

2020-2021シーズンもいよいよ最終局面を迎え、絶賛Finalsの真っ只中です。

この時期は当然のことながら最後に残った2チーム間の1試合しかないので、どうしても「試合のない日」が発生します。1年間で多くても7回しかないNBA Finals。見てるこっちも1つのポゼッションごとに気合が入る試合を見た合間の「試合のない日」は抜け殻のようになります。

そんな日は何してるかって、今年は運良く我がPistonsがドラフト1巡目1位指名権をゲットしたので、カレッジの選手を見て過ごしています。カニングハム上手いね。

ただカレッジの話をすると恐ろしいほど長くなるので、また次回にしようかと思います。カレッジスポーツは沼。

なので、今回は「2020-2021シーズン振り返りツアー」の第一弾をします。題名からわかる通り最初の話題はAtlanta Hawksです。

え?「わかんない」って?

よっしゃ、最後には納得させてやるから。最後まで読めよ。

では、寝る前の睡眠導入剤レベルで、お付き合いください。

今シーズンのHawksはイーストの「隠れた強豪チーム」でした。俺自身もイースタン・カンファレンスの注目ポイントとしてHawksを候補にさせていただきました。

事実、シーズン中はTrust The Process最終章へ安定した強さを見せた76ersや、予想外の快進撃でニューヨークに熱狂を取り戻したKnicks、スーパースター銀河系軍団を結成したNets、悲願のリングへ次こそ負けられないBucksなどに注目が集まり、イーストで5位の高順位につけたにも関わらずPOへの下馬評は低いものでした。ちなみにオールスターまでに17勝20敗と負け越していました。

しかし、POの舞台で誰よりも輝いたのはHawksの若手たち、ヤングコア・メンバーズであったことは間違いないと思います。

3年目にして「勝てるチームのエース」に成長したヤング、強固なペイントエリアを誇る76ersとKnicksを相手に一歩も引かなかったコリンズ、76ersとのGame 7ではヤング不調のなかチームを救ったハーター、勝つためにチームが獲得したボグダノヴィッチ、怪我に悩まされながらも短い時間で将来を感じさせたハンターとレディッシュ。気づけばペイントエリアのファイターとして信頼を獲得していったオコング、誰一人余すことなく、Hawksにとって実りの多い18試合となりました。

では、ここまでHawksが辿ってきた足跡を、少し時計を巻き戻して見ていきたいと思います。とりあえずトレイ・ヤングをドラフト指名した2018年から。

トレイ・ヤングは高校時代から地元オクラホマ州では名の知られた優秀なプレイヤーでした。今でもYoutubeやInstagramでハイライトを見ることができますが、同年代の中では頭一つ飛び抜けて「巧い」選手でした。オクラホマ大学に進学するとカレッジでは一年生にして得点王とアシスト王を同時受賞。2018年ドラフトのスター選手の一人として、全体5位でMavsに指名されます。

この直後にHawksが3位で指名したドンチッチと将来のドラフト1順目とともにトレードされ、Hawksでキャリアをスタートさせます。ちなみにこの時に19位で指名したのがハーターで、この「将来の1順目」は後のレディッシュです。

この頃から、ヤングは比較対象としてステフィン・カリーの名前が挙げらるようになりました。身長はなくとも相手ディフェンダーを出し抜くハンドリングスキルと、何よりもハーフライン近くも射程距離に納めるロングレンジ・プルアップにカリーの姿を重ねる人は少なくありませんでした。

さらに、同期でドラフトしたハーターはメリーランド大学での2年時に41.7%の3P成功率を残し、ちょうどスプラッシュ・ブラザーズの相棒であるクレイ・トンプソンのような存在を期待しての指名と多くの人が予想しました。また、30位でヴィラノバ大学出身のシューター型ビッグマンであるオマリ・スペルマンも指名していたので、ファンは期待の意味も込めていつしか

「Warriors 2.0」

と、その将来を夢見ていました。

ヤングは1年目から不安定ながらも平均19得点をマークし、2年目にはそこからさらに10点近く上乗せする29.6得点を稼ぎ、早くも最初のオールスター・ゲームに出場します。

しかし、スター街道に足を踏み入れたヤングとは対象的にチームは低調で、レギュラー・シーズンはイースタン・カンファレンス14位の時点でリーグが中断。再開したバブルでのゲームにも参加できませんでした。

と言っても、過去2シーズンは大ベテランのヴィンス・カーターを除けば、ほぼ若手のみのチームで、スタート5人の述べNBA経験年数が10年に満たないなんてこともありました。ちなみに、このシーズンにロケッツからカペラを獲得しています

そして3年目のシーズンを前にHawksは「勝ちに行く」路線へ舵を切ります。Kingsと Bucksが契約のルールでもたついている間にボグダノヴィッチを獲得するとベテランのガリナリもチームに加わり、ロンドとのトレードでシーズン途中にはルー・ウィリアムスも帰郷しました。

ヘッドコーチがロイド・ピアースからネイト・マクミランに代わった3月1日以降は少しずつ安定した勝ち方も出来てきました。

ここで面白いスタッツが一つ。ヤングのシュート成功率がHC交代のタイミングで変化しています。

ロイド・ピアース時代 36.8%

マクミラン時代 31.4%

意外なことに悪化しています。アテンプトはどちらも6本ほどで大きな変化はないので、単純にシュート成功率のみが5%ほど低下しました。アシスト数も今シーズンは約9本と安定しており、「マクミラン以降よくなった」チーム状況とは裏腹にヤング最大の武器であったはずの3P成功率は低下しました。なおかつ、6本近くアテンプトのあるPGが31.4%の成功率はかなり厳しい数字です。

ここまで書くと単純に「カリーほどのシュート力じゃない」という話で終わりそうですが、また違った話がありますので、もう少しお付き合いください。

では、カリーとヤングをシュートの種類から簡単に比べてみましょう。折角なのでカリーが大活躍した2015年と今シーズンのヤングを比較として用います。

カリーが2014-2015シーズンに最も多投したショットはジャンプショットで、80試合で561本のアテンプトがありました。この「ジャンプショット」はキャッチ&シュートという捉え方になります。

ついで、プルアップシュート(260本)、ステップバック(102本)、ドライビング・レイアップ(96本)、レイアップ(65本)と続きます。

では今年のヤングはと言うと、最多のアテンプトはドライブからのフローティング・ショットで306本でした。試合数が63試合と少ないので正確な比較にはなりませんが、こちらも「上位のショット=よく使うショット」を並べると次のようになります。

プルアップ・シュート(219本)、ジャンプショット(169本)、ドライビング・レイアップ(129本)、ステップ・バック(98本)となります。

この数字からは、以下の見識を得られます。

「カリーはドライブを使わないショットが上位5タイプのうち2つ(ジャンプ・ショット、レイアップショット)を占め、なおかつジャンプ・ショットの割合が圧倒的に多い」

「逆にヤングはジャンプ・ショットのみしか上位5タイプに入らず、カリーと比較してその割合も多くない」

この2つによって「カリーはオフボールで、ヤングはオンボールでのプレイを好む」という違いが見えてきます。よりボールを持ち、自分のドライブからのプレイメークを好むヤングとは対象的に、カリーはシュート力を武器にオフボールで動き回り、スクリーンを使うゲームメイクを得意とします。

これはカリーのハイライトをみても一目瞭然で、チーム全体としてパスワークからのバックドアと3Pが武器だったGSWとヤングのP&Rを起点とするHawksの違いでもあります。ここは半分くらいドレイモンドのおかげです。

クレイとハーターも簡単に比較すると、クレイは2014-2015シーズンに3Pアテンプトが7.1本になると、以降のシーズンを8.1⇨8.3⇨7.1⇨7.7本と推移します。成功率も全てのシーズンで40%を超えています。ヤバい。

ハーターは3年目までで4.7⇨6.0⇨5.6となっています。成功率は出場時間の関係もあるので一概には言えませんが、どちらかと言うとシューターに特化しているような雰囲気ではありません。成功率は安定して36〜38%をキープしていますが、クレイのような「シューティング・マシーン」とは違うようです。実際、チームとしてもハーターをあまりシューターとして認識してしていないようで、76ersとのゲームではハーターとセス・カリーのマッチアップを多用しました。そしてハーターがペリメーターのオフェンスにおいてカリーを制したことが勝因の一つになったと言えます。

なお、それでもハーターは2Pアテンプトの方が少ないので、ここもGSWとHawksの違いのような気もします。クレイはバックドアやミドルレンジのジャンプ・ショットも多い選手です。

以上のことから、「ヤングの得意なオフェンス」と「相棒のハーターの役割」から、

「Hawksは『Warriors 2.0』という未来を予想させたが、選手個人の得意なプレイはWarriorsとは違った。」

という結論を導き出せます。そんなにGSWは楽じゃない。

しかし、これが結果的にプラスに働いた面もあります。

FAで獲得したボグダノヴィッチはHCがマクミランに交代したとほぼ同時期に復帰すると、45%を超える3Pシュートを武器に第二のボールハンドラーとして活躍し、POでも膝の怪我に苦しみながら全試合に先発しました。

オフボールでのアリウープやインサイドでのコンビプレイが強烈なコリンズはヤングのパスアウト先として信頼度が高く、ハーデンとのP&Rを経験したカペラはヤングのプレイメイクに欠かせないビッグマンでした。

ガリナリもコートにスペースを生み出すシューターからチームが停滞した時のポストアップに仕事を移すと、チームのゲームプランをベテランらしい活躍で支えました。事実、76ersは最後までガリナリに対する明確な答えを生み出せませんでした。ベンチから相変わらずのインスタントスコアラーぶりを発揮したルーも、ゲームメイクのレベルを落とさない貴重なピースとして活躍しました。

また、マクミランを暫定HCに昇格させたのも功を奏しました。マクミランはPacersで去年までHCとして指揮をとり、エースであったオラディポ離脱以降も全員バスケで粘り強く戦い、サボニスやウォレンなど新たなるエースを生み出しつつ、チームは安定した強さでイーストの上位に位置し続けました。

特に、昨シーズンは勝ったゲームでのヤングのFG%は48.4%、負けたゲームでのFG%は41.5%と「とにかくヤングへの依存度が高い」チームにとっては最適とも言える人選であり、それが最初に述べた「ヤングの3P成功率の低下に反して、チームは好調」という現象に繋がったと推測できます。

「トレイ・ヤングはチームのエースで間違いないが、トレイ・ヤングでないと勝てないチームではない」

この違いは大きく、特に徹底的なマークに合うことが予想されたPOの場面で生きることとなりました。

では、Hawksの未来はどうなるのでしょうか?

Hawksは昨シーズン、ジョン・コリンズが薬物規定に抵触し、25試合を欠場。その間に10連敗と7連敗を喫しています。また、今シーズンはレディッシュとハンターがシーズンを通して怪我がちで、POでは結局最後まで同時出場は叶いませんでした。また、ヤング自身もPOでアクシデントとはいえ怪我をしており、ボグダノヴィッチも来シーズンまでに膝を全快の状態に持ってこれるか、不明なところがあります。

Hawksのヤングコアは未だに「全員が健康体で出揃った」ことが殆どないのです。

これを「来シーズンへのプラス材料」と捉えるか、チームバランスの崩壊をもたらす「未知なる危険」と捉えるかは人それぞれですし、ここがマクミランHCの腕の見せ所にもなります。

なんにせよ、Hawksの2020-2021シーズンは結果で見れば大成功、内容でも今後トレイ・ヤング中心のチーム方針を明確にする大きな成果が得られるものとなりました。

ヤングコアを中心に勝ち上がり、脇を固めるベテランで安定感を得て、POでは経験とともに成長をとげ、来期以降に大きな期待を抱かせる。まさに理想的な強豪への変貌を遂げました。

彼らは「Warriors 2.0」になれないかもしれません。

でも、「Hawks 1.0」として新たな王朝をジョージアの土地に築く未来は、そう遠くないことでしょう。


ここまで読んでくれて本当にありがとう。長ったるいうえに数字が多くて読みにくかったよな。申し訳ない。

ちなみに「2020-2021シーズン振り返りツアー」は戦術だけじゃなくてトレード話とか、チームエピソードとか、好評なら続けていきたいと思ってます。

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