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【無料公開】レコメンドは僕らから何を奪い、何をもたらすのか?【Off Topic Ep130】

宮武徹郎と草野美木が、アメリカを中心とした最新テクノロジーやスタートアップビジネスの情報を、広く掘り下げながら紹介するPodcast『Off Topic』。このnoteでは、番組のエピソードからトピックをピックアップして再構成したものをお届けする。

前回の「#129 インスタの短尺動画機能に隠されたメタの焦り、ソーシャルメディアの時代は終わったのか?」ではInstagramのTikTok化をはじめ、アルゴリズムによるレコメンデーションがカルチャーや社会に与える影響を論じた。「#130 本当に私はこれが好きなのか…?サブカルをコモディティ化するソーシャルメディアとモノカルチャー」では話を引き継ぎ、実際のユーザーに起きている変化と、その流れが進んだ先に交わる「コンテンツ生成AIとα世代」にまで視野を広げて、さらに深堀りをしていった。

レコメンデーションはあらゆる接点で浸透中

Off Topic「#129」でも語ったように、Meta(Facebook)は傘下のInstagramに「リールズ」機能を搭載し、言わば「TikTok化」へ踏み切った。直近四半期(2022年4〜6月)でリールズの利用時間は30%増、アプリ利用時間のうち約4分の1程度を占めるなど好評で、TikTokとは“真っ向勝負”の様相だ。

この背景には、ソーシャルグラフを活かしたネットワークの機能と、レコメンデーションメディアとしての機能を組み合わせることの重要性が挙げられる(この詳細は#129の記事を参照のこと)。これらの動きはTikTokやInstagramのみならず、FacebookやTwitterといったSNSにおいても、従来の時系列順に並ぶ表示(タイムライン式)から、次第に各々でアルゴリズムをベースとしたレコメンドを主体としてフィードへ切り替わりを見せている。

その動きはSNSだけではない。SpotifyやNetflixはパーソナライズされたホーム画面が採用されており、YouTubeは2018年の時点で総視聴時間の70%がレコメンド経由だ。Uber Eatsなどのフードデリバリーアプリのメニュー欄、Microsoft TeamsやGmailで見られる自動返信文といったところにもレコメンデーションは効いている。

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Save time with Smart Reply in Gmail

一方で「アルゴリズムを避けたい」という欲求を持つ人は、SlackやDiscordといったコミュニケーションツールで信頼できる人を集め、自分好みのコンテンツをキュレーションし合ってもいる。しかし、そこで紹介するコンテンツの発見先が既存のTwitterやFacebookだとすれば、結果的にはアルゴリズムに趣向性が影響されているともいえるだろう。

趣向性への関与という個人単位だけでなく、より引いた目で見れば、アルゴリズムがカルチャーに与えうる大きなインパクトがある。それは、象徴的なセレブリティやブランドといった、カルチャーアイコンを失いやすくなることだ。

「本当に私はこれが好きなのか?」

たとえば、TikTokはトレンドのサイクルが非常に早い。それこそ、今回のOff Topic「#130」収録時ではZ世代が快楽主義的な夜を楽しむ“night luxe”なるトレンドが注目を集めていたが「配信時にはすでに終わっているかもしれない」と思わせるほど、目まぐるしい。しかし、カルチャーアイコンとは言わば「伝統を作ること」に等しく、一定の時間が必要になる。

従来のサブカルチャーとは、メインストリームに対するカウンターとして生まれたものだった。前述の“night luxe”も、それまでのWellnessな趣向を好むZ世代に対するカウンター的な発想だったともいえる。しかし、TikTokなどのレコメンデーションメディアは、そのカウンター性を剥ぎ取って一つのフィードに流すことで、対称性や時系列といった関係性を見えにくくする。結果として、サブもメインも統制され、モノカルチャー化を招いてしまうのだ。さらに、メインユーザーであるZ世代やα世代から挙がる声にも、トレンドが次々に変わる影響が見て取れる。閲覧するコンテンツに対して「本当に自分が好きなのか、アルゴリズムが勧めたから好きなのか、わからなくなってきている」というのだ。もちろん、かつての雑誌やテレビしかり、トレンドに乗ること自体は批判されるものではなく、多くの人々の趣味趣向を象ってきたのも事実だ。

ただ、Z世代によってTikTokに火が付いた理由は、Instagramにはびこった“映え”に対するカウンターとして、より自由に自己表現しやすいプラットフォームとして受け入れられたからだった。ところが今や、TikTokでは誰もが気軽に「似たような」コンテンツを生み出せるクリエイターとなれ、モノカルチャーの発生源にもなりつつある。

果たしてこの状況は、本当に個々人にとっての「自己表現」といえるのだろうか?

パッシブな私たちの日常

TikTokなどレコメンデーションメディアの台頭による変化を見やすくする、一つのキーワードがある。それが「パッシブ(passive)」である。アクティブの対義語であり、「自分からは積極的に働きかけないさま」を表す。受動的あるいは消極的とも訳せるだろう。

一例として、世代間で異なる「YouTubeの使い方」を見てみる。ある一定層から上の世代ではYouTubeは「特定の観たいものと出会う場」として能動的に検索窓を使う。しかし、より若い層がYouTubeに求めるのは「何か面白いものが見たい」という受動的な願いであり、知らないものと出会えるセレンディピティへ身を委ねる。

YouTubeに限らず、エンタメの消費方法そのものが大きく変わっている。○○では、その変化を音楽リスナーにおける3つのタイプで分類して見せた。1:受動的(パッシブ)、2:補助的、3:意図的だ。1の受動的ならば音楽は「かかっていれば良い」と感じるくらいで、Spotifyのプレイリストを自動再生して気にも留めない、というのが近いだろう。

2の補助的とは「ある音楽が体験をより面白くする」と捉えて向き合う。映画のサウンドトラック、ジムのワークアウト中にテンションを高めるEDM、ヨガをする際のヒーリングミュージックなどがそうだ。3の意図的は「この新譜アルバムを全曲聴きたい」「自分だけのプレイリストをまとめたい」といった欲求を持つ。Spotifyのレコメンデーションは、主として1と2の人々のために機能し、3の人にとってはかえって不要ともいえる。

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この3つのタイプのうち、やはり1と2からは、ある種の「人間らしさ」が奪われているような反発心も出るものだが、ここで少し立ち止まってみたい。そもそも、「アルゴリズムによるレコメンデーションとは何なのか?」という問いである。こと音楽においては「友人からの勧めで全く知らなかった曲を聞いて好きになる」といった経験が起こりうるものだ。

この経験を機械的かつ効率的に置き換えたのがアルゴリズムだとすれば、そもそも人間は何かを選択する際に、自らが“意図的に”判断して選び取ったものばかりではないのである。あるいは、友人の代わりに「世論」や「ヒットチャート」がこの代わりを成すこともあるだろう。つまり、他者の行動が自分の意思決定に及ぼす影響は、アルゴリズムがこれほど浸透する前から大きなものだったはずだ。

元からパッシブな性質を持つ人間に、いかに選ばせるか/選ばれるか、という点が強調されているのが、現在のレコメンデーションメディアが置かれた現状になっている。ちなみに、Netflixは「アプリを起動してから90秒以内に見たいものが決まらないと、ユーザーはアプリを閉じてしまう」というデータを持ち、「サムネイルは平均1.8秒しか見られない」と知っているからこそ、テストを繰り返し、コンバージョンに心血を注ぐという。

α世代はAIのコンテンツ生成が当然の世界観に

では、レコメンデーションメディアやAIによるアルゴリズムの活用が進むと、SNSに起きる次なる進化とは一体何になるのだろう?

一つ考えられるのは、AIのコンテンツ生成によって生まれるカルチャーの形成だ。折しもTikTokは任意のテキストを入力すると動画の背景画像を自動で生成する「AIグリーンスクリーン」機能を搭載したが、画像生成の「DALL-E 2」や、テキスト生成の「GPT-3」など、さまざまなコンテンツ生成AIが進化を続けている。

しかし、あくまでAIは人間からのコマンドに結果を打ち返しているに過ぎず、その発動には人間からの入力が欠かせない。彼らだけで「新しいもの」を生み出すことができるのか否かは、まだわからない。異なる音楽が融合していった結果としてジャズが生まれ、それが認知されていったように、未知のジャンルそのものをAIが作り出せるのか。現状を見る限りでは難しいように思える。

一方で、あらゆるイノベーションは真似から始まる、という見方もある。1800年代のドイツはイギリスを模倣し、アメリカはヨーロッパのモノマネをし、日本も西洋文化を手本としてきた。10年以上前からは中国が、海外諸国のコピー品を乱造するところから、イノベーター大国になっていったばかりだ。AIも同様に、何かしらのイミテーションを生み出し続けるなかで、人間が思いつかないであろう融合やジャンルの生成を実現するかもしれない。

これらの環境に最も影響を受けるのは、Z世代より更に下のα世代だろう。ミレニアル世代がインターネットネイティブならば、Z世代はモバイルネイティブであり、α世代はメタバースネイティブ……と見ることに加え、α世代はAIによるコンテンツ生成が当然の世界観を生きる可能性が大いにある。彼らにとっては、AIへいかにコマンドを入力するか、どのようにAIと共創するのかといった観点はより自然に受け取られ、コンテンツの関係性や作り方も従来と圧倒的に変わっているかもしれないのだ。

それがいかにビジネス、テクノロジー、カルチャーに影響を与えるか。その行動やバリューについて、今後もOff Topicとしてはモニタリングしていく必要があると考えている。

今回のOff Topic「#130 本当に私はこれが好きなのか…?サブカルをコモディティ化するソーシャルメディアとモノカルチャー」ピックアップコンテンツでは、主としてアルゴリズムとレコメンデーションによる変化、パッシブを軸にしたコンテンツ消費のあり方、そしてコンテンツ生成AIとα世代という近未来像に絞ってまとめた。

Podcast本編では「映画や音楽におけるヒットチャートの変化」や「モノカルチャーとコレクション」といったトピックにも触れた。興味があればパッシブではいられない、そんな変化が日々起きている。

(文・長谷川賢人

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