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【無料公開】なぜウォルマートで自撮りをする? 変容するα世代の消費行動【Off Topic Ep149】

アメリカを中心に最新テクノロジーやスタートアップビジネス情報を広く深堀りしながら紹介するポッドキャスト「Off Topic」。このnoteでは、番組のエピソードからトピックをピックアップして再編集したものをお届けする。

今回は「#149 クリエイターブランドの未来」から、YouTuberをはじめとしたクリエイターファーストなブランドを支持するα世代の消費行動と、クローズドコミュニティを構築するマイクロなブランドについて。強力な影響力をもつYouTuber、ローガン・ポールのドリンクブランド「Prime」やSNSもウェブサイトも持たないUK発のヴィンテージウェアブランド「Stocked」、一風変わったバーガーショップ「Shy’s Burgers」の例から掘り下げていく。

α世代とその親が、なぜウォルマートで自撮りをするか

YouTuberやTIkTokerなどのクリエイターブランドの主な購買層であるミレニアル世代/Z世代/α世代、特に2010年以降に生まれたα世代(〜13歳)の消費行動とコミュニティ形成が大いに変化し始めている。

α世代はYouTube/YouTuberを介して商品をブランドを知り、それをきっかけに消費行動を起こす傾向が強い。そんな彼らが支持するYouTuberを見てみると、「Ryan's World」のキッズYouTuberであるライアン・カジのブランドライセンスを使用したグッズやおもちゃは、2019年に約2000万ドル(約260億円)の売り上げを達成している。また、子ども向けYouTubeチャンネル「Cocomelon(ココメロン)」の制作を手掛ける「Moonbug(ムーンバグ)」を買収した、元ディズニー幹部のケビン・メイヤーとトム・スタッグスによるメディア企業「キャンドルメディア」は同ブランドのグッズ/おもちゃを制作し、昨年約10億ドル(約1300億円)以上の売り上げている。そのほか、キッズYouTuber「Vlad and Niki(ウラドとニキ)」や視聴者の7割を8〜16歳の男の子が占める「MrBeast」のおもちゃなど様々だ。

Blaster Hub

YouTuberなどのクリエイターファーストなブランドを好むα世代、そしてZ世代とα世代の中間層と言われている「Zα(ゼットアルファ)」の世代の行動として興味深いのは、SNSの使い方である。Z世代のもっとも若い層とα世代の年長層である子どもたち(10〜15歳)は徐々にSNSを使い出し、自分でアカウントを所有していない場合は親にSNSに投稿してもらう。そんな彼ら/彼女らのソーシャルの投稿で目にするのは、アメリカのスーパーマーケット「ウォルマート」での自撮り、あるいは親が撮影しポストしたものである。ウォルマートで写真を撮るのは、YouTuberのローガン・ポールとKSIによるエナジードリンクブランド「Prime」やMrBeastによるお菓子ブランド「Feastables」の商品とともに映るためである。これは、一世代前でいえばストリートウェアブランドのショップで若者が写真を撮る行動に近いかもしれない。

Andrea Hernandez Twitter

これらの商品は品薄になりがちでなかなか手に入らず、子どもたちの親は「『Prime』見つけられなくてごめんね」とウォルマートで投稿し、逆に見つけたときには「見つけてくれてありがとう」と子どもが投稿したりもする。アメリカのどこにでもある、とりわけソーシャル映えするわけでもないウォルマートをロケーションに、約2ドルの商品の写真を撮る。これはコカ・コーラでは起きない現象であり、レガシーブランドが焦り始めているのは、子どもたちのこうした行動を目の当たりにしているからでもある。

「Prime」の驚異的な伸びと、クリエイターならではの戦略

在庫がある場所をトラッキングしてSNSに投稿する者もいるほどの需要をもつこれらの商品だが、ブランド側は商品の流通を意図的にコントロールすることで、需要を高めようとしている。Primeはオンラインサイトでは基本的に常に品切れとなっており、かたや全米最大のスーパーマーケットチェーンに卸している。オンライン上で常に在庫切れにしておき、店舗に直接足を運んで商品を見つけたときの喜びを、顧客はSNSに投稿する。同ブランドはそのことを非常に理解している。イギリスのとあるショップはPrimeを大量購入して約10倍の価格で売り始めるなど、「もっていることの価値」が約2ドルの商品に対して膨れ上がる現象は、新しい種類のラグジュアリーともいえる。

Prime website

同ブランドを手がけるローガン・ポールなど、次世代のクリエイターのマーケティングは非常に抜かりなく計算されている。ローガン・ポールはほぼセレブリティに近いクリエイターであるが、そのときに避けられないのがパパラッチの存在である。そして、そのパパラッチさえもいかにうまく利用するかを考えているのが彼らである。ローガンポールがガールフレンドとNBAの試合を観戦しに行った際、多分に漏れずパパラッチが張っていた。そのときローガンは、借りたコップを逆さまにして、パパラッチがいる場所からでもロゴが写る角度でPrimeのドリンクを置いたのである。また同じ様に、ハーフタイム中に会場のスクリーンにセレブリティの自分が映し出されることを見越して、カメラに抜かれた瞬間にPrimeを飲み始めるのだ。

Primeは2021年の8月からの1年で約4000万ドル(約52億円)、現在では年間1億ドル(約130億円)を超えるペースまで売上を伸ばしている。アメリカでトップの飲料メーカーであるゲータレード(全体で年間約65億ドル)と比べればその差は歴然ではあるものの、Primeはスポーツドリンクのカテゴリーだけで見れば5番目か6番目ぐらい位置し、ローンチから2年足らずでのこの成長は驚異的である。

SNS/ウェブをもたない「Stocked」

α世代にみえる消費行動のもうひとつの変化は、アルゴリズムの影響を避け、クローズドなコミュニティを好む層が増えていることだ。チャットツールのDiscordやGeneva(ジェニーバ)、またiMessageなどでのグループテキストの利用が増加傾向にあり、アルゴリズムや広告の影響を受けずに純粋なソーシャル化をして楽しむことを望んでいると考えられる。

そうした考えにフィットするブランドの例がイギリスのストリートウェアブランド「Corteiz(コーテイズ)」である。フォロワー50万人を超える彼らのInstagramアカウントは一般公開されていないプライベートアカウントで、ウェブサイトにはロックがかかっており、そのパスワードはInstagramアカウントにアクセスできる者だけに与えられる。また、彼らのプロダクトのドロップの仕方は少し変わっており、時折スワップ(Swap/「交換」の意)という概念を取り入れている。TikTokなどのSNSで場所と時間を指定し、集まったユーザーはCorteizの新しいダウンジャケットと自分が持っているダウンジャケットを交換。Corteiz側は集めた衣服をホームレスのオープンキッチンに寄付する、というものである。このときはCorteizが準備したジャケット50枚に対して数百人の若者が集まり、その年齢層は12〜15歳であったという。

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また、ヴィンテージのストリートウェアをネット/ポップアップで販売するイギリスのブランド「Stocked」は、サイトもSNSアカウントも持っていない。ファウンダーたちの個人のTikTokアカウントがあるだけで、アイテムの撮影は自分の部屋で行っている。しかしながら、彼らのハッシュタグ付きのポストの再生回数は凄まじく、強力なコミュニティを作り出している。昨年のポップアップには13〜15歳の年齢層の若者が集まり、7時間待ちの列をつくった。売り上げは1回目のポップアップで約5万ドル(約650万円)、2回目は100万ドル(約1300万円)にのぼるというから驚きだ。

Financial Times

彼らのポップアップが面白いのは、7時間待ちの顧客に「遊び」を提供することだ。既存ブランドのように水を提供したり音楽をかけるのではなく、レース(つまり、かけっこ)やダンスバトル、クイズなどのレクリエーションを行う。クイズに正解するとTシャツを無料でもらえたりもするそうだ。これにはもちろん、顧客がブランドだけでなく一緒に並ぶ人と仲を深めることで、強いソーシャルコミュニティをつくるという意図があるだろう。

Financial Times

さらに、ニューヨークのバーガーショップ「Shy’s Burgers(シャイズバーカー)」のポップアップは、客が持参した物を鑑定士が「何バーガー分」といった具合に価値を計算し、ハンバーガーと物々交換する、というものだった。

Grub Street

アクセスするまでの摩擦も大きく、顧客にもブランドにもセンスが問われているけれども、だからこそコミュニティの仲間になることの喜びがあり、よりタイトなコミュニティになる。かつてはこのクローズドコミュニティが重要視され、時代とともにマスへ訴求していく(より多くの売り上げを出す)ことがブランドの解となっていた。しかし、よりソーシャルフォーカスな、強固なクローズドコミュニティを重要視するブランドが再び支持されていく可能性があるのではないだろうか。

さて、それによってクリエイターブランドはどのように変わっていくのか。Off Topic「#149 クリエイターブランドの未来」では、「アテンションエコノミーの分裂」と「サブカルの復権」という可能性を掘り下げていく。

(文・和田拓也

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