【前編】吉田恭大と東京の上のほうを遊ぶ(お酒はずっと飲んでる)

相田奈緒と睦月都が、好きな歌人といっしょに好きなことをして遊ぶ企画です。第二回のゲストは吉田恭大さん。今年刊行予定の第一歌集『光と私語』のことを聞いたり聞かなかったり、短歌の話をしたりしなかったりしながら、だいたいずっとお酒を飲んでます。(2018年6月中旬収録、全3回予定)

***


吉田:あ、振ってる、手振ってる。

吉田:……ああいう仕事がしたいんですよ。
相田・睦月:(笑)
相田:みんなに毎日手を。
睦月:手を振る……
相田:憧れのお仕事……

船内アナウンス:♪♪♪本日は、東京水辺ラインをご利用いただき、誠にありがとうございます。この船は、小豆沢を出ますと、折り返し隅田川を下ってまいります。次は、神谷に停まります―――

吉田:この船の見どころとしてはー……

吉田:今日乗ってるのが「江戸東京ぶらり旅」っていうラインなんですけど、小豆沢から神谷、荒川遊園、千住と通るので……あ、荒川遊園は観覧車見えますよ。あとはねえ、ポイントは千住大橋ですね。
睦月:千住大橋を、くぐる。
吉田:くぐる。
相田:よいですねえ。
吉田:私、水上バス好きでよく乗るんですけど、前に北赤羽のあたりに住んでた頃は「船で通勤できないか?」って調べたことがあって……。結局、本数少ないんで諦めたんですけども。
睦月:ああ、私も画策したことがあります。お金持ちになったら、勝どきとか月島とか、あのへんのタワーマンションに住んで……
相田:ええー……。私は水上バス、乗るのはじめてです。
吉田:水上バスはよいのですよ……

吉田:……では、お酒を飲みまーす。
相田:お酒~
睦月:そういえばさっきコンビニでなんかいろいろ買ってましたね……って、多い、多い

(写真左から相田奈緒、吉田恭大)

吉田:えー、ではかんぱーい!
全員:かんぱーい!
睦月:金曜日の午前中からこんなことを!
相田:はっ、そう、今日は金曜日……!!(幸せを噛みしめる)
吉田:お二人は今日は休みで?
相田:私は溜まった休日出勤の代休を。
睦月:私は、今日にあわせて有給を。
吉田:それはそれはありがとうございます~
睦月:えー、では本日の計画ですが、だやさんといえば北区とお酒、北区とお酒といえばだやさんということで、北区周辺を船に乗ったりお散歩したりしながらお酒を飲みましょう、ついでに今年刊行予定の第一歌集『光と私語』のことなんかをお聞きしましょう~、という企画です。
吉田・相田:(ぱちぱちぱち)
睦月:この船含め、ルートを全部だやさんにおまかせしてしまってますけど、よいですか。
相田:お酒を飲むこと以外、なにも決まってない(笑)。
吉田:よいですよいです、ゆっくり行きましょ~
睦月:……よく見ると、周りもみんななんか、酒飲みに来てる感じの人ばっかりですね。
吉田:ええ!そういう船なんです!(胸を張って)
睦月:なんてわれわれ向きの船なんだ……

睦月:デッキ出たい……、写真撮ってきていいですか?
吉田:上ちょっと出てみますか。

(写真左から吉田恭大、睦月都)

アナウンス:新河岸川は、東京の北端、板橋区と北区を流れ、川越市・伊佐沼を水源として、南東に。板橋区の各部を経て、北区・志茂で、隅田川に合流します。全長は二十六キロメートル……
睦月:さわやか!
相田:さわやか〜!

吉田:あっち側の鉄橋が京浜東北線で、赤羽から、川口、西川口のほうに行く――あ、この辺はよく、市民ランナーが走ってますねー。近所の銭湯が、マラソンお疲れセットみたいなのやってて。
相田:へー。あ〜、でもいいですね、これは。晴れてよかった。
あ、ここ桜並木ですか?春に来たらよさそう。
吉田:春先すごいですよ、ほんと花筏って感じで。
相田:あー。いいなあー。
吉田:河川敷見てると必ず一日中座ってるおっさんがいますね。インドかここは、って。
相田:(笑)

相田:あ、なんか、テニスの人たちが。
睦月:テニスコート……
相田:テニスコート。
吉田:実はあれも一度、歌会のためにおさえようとしたことがあって。でもテニスコートで歌会してたら顰蹙買うな思って……
睦月:(笑)
相田:確かに(笑)
睦月:場所的にはすごいいいですけどね。川も流れてるし……。
吉田:コート、無駄遣いしたいじゃん。車座になってみんな(歌会)やってる。
睦月:テニスをしろよ(笑)。

相田:あっ。
吉田:あ、いい。
睦月:すごい、かっこいい。
アナウンス:左手に見えるのが、岩淵水門です。荒川と隅田川の分岐点にある水門で、通常は隅田川に水を流していますが、増水時には水門を閉めて荒川に流すことによって、下流の地域を水害から守る役割を果たしています――

相田:水門、かっこいいですよねー。
睦月:水門、いいですよねー。
吉田:これだけ見に来たことありますよ。
睦月:うんうんうん。
相田:かっこいー。

吉田:(デッキの上から)ちょ、ちょ、上来て上来て!
相田・睦月:?


吉田:遠足の子どもたちが!ぼくらに!手を振って!
相田:ほんとだ!(笑)
睦月:たくさんいる!たくさん!

吉田:まあ、だいたい、手を振ってくれるのは子供か酔っぱらいっていうね。
睦月:あっ、あそこの釣りのおじちゃんがめちゃめちゃ手振ってくれてる!
吉田:発泡酒持ってますよ。
睦月:あはは(笑)

吉田:……はー、楽しかった。船室戻りますか。
睦月:今日いちテンションあがっちゃったな。これ以上はもうないかもしれない。
相田:始まったばかりなのに!

***

吉田:や、水上バス、よいアトラクションでしょう。
睦月:やー、よいですねえー。船は、定期的に乗っていかないといけない。
吉田:そう。道頓堀川のほうの遊覧船も乗ったことあるんだけど……
睦月:道頓堀! 道頓堀、遊覧船あるんですか。
吉田:そう、グリコの看板の下とか。
「御舟かもめ」って言って、十人乗りくらいのちっちゃい船で。冬はこたつ出してたりとか、朝ごはんクルーズがあったりとか、色々、良い船なんですよ。そこで歌会やりたいんですよね。
睦月:うん。やりたい。
吉田:前に千種(創一)さんとふたりで乗りに行ったことがあって。
大阪の人はほんとにノリがよかったです 。もう、岸の人みんな手を振ってくれるみたいな。写メ撮ってくれるみたいな。
相田・睦月:(笑)
吉田:すげー、優勝パレードだね、って(笑)。


睦月:大学でスキューバダイビングのサークルに入ってたんですけど、夏とかによく八丈島に行っていて。当時八丈島に行くときに使ってたのが「かめりあ丸」っていう大型客船だったんですけど。かめりあ丸は数年前に廃船されてしまったらしくて、いまは違う船が……
吉田:えっ、ていうか、ダイビングのサークルとか入ってたんですか?
睦月:えっ、知らない……?
吉田:あれ、知っ、した、この話聞いたかしら……
睦月:絶対何度かしてるし、そのたびにこの反応きてる気がする(笑)。たぶん定着しないタイプの知識なんだな、これ。
相田:意外過ぎて(笑)
吉田:うん、毎回たぶん聞くたびに、「えっ、ちがわん?」って思う、って感じの(笑)。
相田・睦月:(笑)
吉田:そのまま一瞬で忘れていくみたいな(笑)
睦月:(笑)。海が好きなんですよね。海水浴も好きなんですけど、泳ぐだけだと、表面しか行けないじゃないですか。でも潜るって、Y軸方向の動きを得ると、世界が、なんかもう一個開くみたいなのがあって。空間を増やしたい。潜ると、地球上の可動域いっこ増えるな、と。
吉田:潜っていこう、と。
相田:地球上の可動域?かんがえたことない(笑)

***

アナウンス:…さて、この神谷という地名、「神さまの谷」と書きますが、この由来が、大変おもしろい話があります…
相田:……おもしろい話!
睦月:おもしろい話が聞ける!(笑)
アナウンス:…その昔、このあたりには、蟹がたくさん生息しており、蟹の庭とも呼ばれていました…
相田:最初におもしろいって言うと…
吉田:ハードル上げてきたな(笑)
アナウンス:…そして、蟹の庭が「かにわ」となり、
吉田:地の文でハードル上げるってなかなかしないっすよねえ(笑)
睦月:(笑)
アナウンス:いつのまにか神谷と呼ばれるようになったと言われています。
相田:どうしよう、気が散ってぜんぜん聞いてなかった(笑)。
吉田:(笑)
睦月:蟹がなんとか……までしかわかんなかった(笑)


アナウンス:ご覧いただいている右手一帯には、豊島五丁目団地が広がっています。五千戸近い世帯数というこちらの団地は、日産化学工場、王子工場の跡地を利用したもので――
吉田:こっちのちょっと先にココキタっていう施設があって。廃校になった学校を、レジデンススペースみたいな感じで貸出ししてて。スタジオとか。
睦月:へえー。歌会できるんですか。
吉田:歌会できますねー。学校でできる。
睦月:ああ、いいですね。
吉田:学校で歌会できるスポットはいくつか押さえてるんですよ。まだ実現してないんですけど……。
相田:今、いろいろ歌会ありますけど、会場としてまだ意外に学校でやってるとこ聞かないですね。
吉田:そう、やってないのは……申請がね、めんどくさいんすよ。
睦月:あー。公共施設はそうですよね、その区の住民を何人以上集めて……とか。
吉田:そうそう。で、そのめんどくさい仕事はぼくの仕事なんで。
睦月:ああ(笑)
吉田:だから以前芸劇(東京芸術劇場)でもできるように、団体登録したんですよ。染野太朗代表で。
相田:染野さん代表なんだ(笑)。欠航歌会で使ってたところですよね。あそこよかった。

【注】欠航歌会……染野太朗さんがさいたま市の短歌講座で毎月関東に来られるのに合わせて開かれていた歌会。相田、睦月も参加していた時期がある。

吉田:染野代表、私幹事みたいな感じ。規約とかでっちあげて。
相田:あ、規約とかも提出しないと……
睦月:規約まで必要なんですね、あれ。
吉田:活動報告とか。
相田:それはもう、ちょっとした登録じゃないですね。
吉田:そう。割とね、ちゃんと書類書かなきゃいけなくて。もう私、仕事なんでやりますよって。
相田・睦月:へえー。
吉田:「会員間の短歌の、相互的な、あの、えー、活発な意見交換を……」とかそういうあれをでっちあげて。
睦月:でも、染野代表は福岡に行ってしまうし。
吉田:そうなんですよ。代表・染野太朗(福岡)、東京事務局・吉田恭大。
睦月:(笑)
吉田:なにそれ、っていう(笑)
睦月:全国団体なんだ(笑)
吉田:そうそう(笑)
相田・睦月:(笑)

アナウンス:左手には、首都高速中央環状線がご覧いただけます――

吉田:このへんの高速道路は構造が面白くって。王子駅前に北区の区役所があるんですよ。北とぴあっていう。あそこの上から見ると、どんだけウネウネしてるねんっていうのがよくわかって。
相田・睦月:へー。
吉田:あのー都電荒川線で吟行したときに……
睦月:あー。千種(創一)さんとやってたやつ。
相田:あっ、今話題の「東京さくらトラム」のことですね!?
吉田:とうきょうさくらとらむ……? 僕その名前知らないんですけど?
相田・睦月:(笑)
吉田:「荒川線」です!! 「アーバンパークライン」も「東京さくらトラム」も、僕は認めないんで!(笑)
睦月:禁句を出してしまったようで(笑)
吉田:なんか言いましたか? とうきょう……え? よく聞こえないんですけど……?(笑)

相田:だやさんと千種さんは、道頓堀川の船にも乗ってるし、東京さく…都電荒川線でも吟行してるし、仲良しですね。いま、(千種さんは)どこにいらっしゃるんですか?
吉田:中東の……(宙に地図を描いて)あのへんを、転々としてる。
相田:日本に、たまに帰っていらっしゃったりきたりはして……?
吉田:稀に。
相田:稀に。
吉田:こんど秋に帰る言うてたけどね。
相田:へえー。
吉田:で、帰ったら、とりあえず一緒に温泉とか行く、みたいな。
相田:え、私は千種さんにお会いしたことないんですけど、睦月さんは(千種さんに)会ったことある?
睦月:私もないんですよ。だやさんからいろいろ話を聞いてるだけで。
相田:あ、うんうん。
睦月:なにげに。
吉田:千種さんとは割とあちこち行ってて、杉並の時は詩歌館行ったりとか。で、そうすると、私が一方的にしゃべり続ける「ブラタモリ」みたいな感じになる。
睦月:そうなんだ(笑)
吉田:「あー、ここいい感じの暗渠ですねー」「ここのマンホール見てもらうと……」みたいな。
睦月:千種さんはそれに対してなんて言ってるの(笑)
吉田:あ、えー、よろこんでくれる(笑)。よろこんでくれてる……と、思ってることにするっていう(笑)


相田:はい、チーズ。
睦月:(笑)

吉田:桜の時季に、目黒川に子供たちの俳句・短歌が飾られるんですけど、それが超いいんですよ。
相田・睦月:へえー。
吉田:「なぜ人間は、結句五音にしがちなのか」っていう命題について、すごい考えさせられる。
睦月:五音?
相田:それは結句以外はどうなってるんですか。破調してる……?
吉田:わりときっちり(定型を)守る子でも、結句は五にする。で、それはなぜかっていうのを、音楽やってる友達と、桜を見ながら一時間くらい話したことがあって。結句五音っていう、「結句」っていう把握の仕方がお前ら(短歌に親しむ人)くらいなんだよ、っていう言われ方をしたんです。
相田:(笑)
睦月:どういうこと……?
吉田:ポップスとか歌謡曲で言うと、五(音)で収めるのは気持ちいい。でも短歌は結句七音じゃないですか。結句は本来七音であるべきだ、みたいな把握自体が、なにかしらそういう訓練しないとできない……んじゃないかって。
あっ、あれがあらかわ遊園でございます。
相田:おっ!

相田:……でもたしかに、五のつぎには七がくる、七のつぎには五がくる、っていうのがもともとの感覚なのかなあ。結句七音はそれをずらすからカタルシスみたいなのがあるのかな。
吉田:うーん。
睦月:なんか、なんですかね、もともとは長歌とか旋頭歌とか、いろいろあったけど。
吉田:5音・7音、あるいは7音・5音の連なりより、7音・7音の並び自体に短歌らしさが出現するのではないかと。
相田:たしかに。
睦月:下句七七はリフレインでもあるし。
吉田:うん。で、そういう風に把握できるように、遺伝子が組み替えられてしまったのが短歌屋さんやないんですかねえ、っていうのが、最近の自説。
睦月:七七が終止コドンとして機能してる。結句でちょきん、と歌一首を切り出す、みたいな感覚はあるかもしれないですね。
吉田:だから歌を作らない人間はそこで、「リズムいいな」と思いこそすれ、「短歌だな」って認識はそもそもしないわけですよ。
相田:ああー。
吉田:……っていうのはすごい、差としてある。逆に言うと、ある程度五七で把握できれば「短歌っぽい」っていう認識すらするんですよ。でも、それはただの五七か七五じゃないっていう話なんだけどね。
相田:一定の……リズムと関係なく、一定の長さの分量を「短歌だ」と認識しがち……間違って認識するみたいな。
吉田:そうそうそう。
睦月:それはありますね。
相田:なんかTwitterとかぼやっと見ていて、なんか、歌、完全に短歌だと思い込んで読んでて、これ、どこで切るんだろうって思ってて、うーん?いや、そもそも歌じゃない! みたいなことありますね。
睦月:ありますね。三十一音前後の……
吉田:このくらいの情報量の……
相田:でも、漢字とかひらがなとかあるから、単純に文字数じゃないはずなのに、なぜかふわっとした文字数……情報量で、「これは短歌だ」みたいに思い込むことがある。
睦月:あとなんか、字面の雰囲気とかもありますよね。歌っぽい雰囲気、みたいな。
相田:雰囲気とかある。歌っぽい雰囲気。
睦月:……(笑)なんかでももう、我々はもう、ある程度、何見ても歌に見えるぐらいの……生活をしてきたので、まあしょうがないとはいえ……
吉田:だからそう、たまに、「正気に戻れよ」っていう気がするんですよ(笑)
睦月:ほんとにね(笑)
相田:たしかに、その感覚も大事……正気の、感覚(笑)
吉田:「猫だと思ったらビニール袋だった」みたいな……そういう「感じ」自体を把握してるわけですよ。
相田・睦月:(笑)
相田:猫、猫を求めすぎてて(笑)
吉田:そう、で、我々は下手すると積極的に、ビニール袋を見て猫だと思い込もうとするわけだから。
相田:それはね、ちょっと……
吉田:で、それは、いいか悪いかは別として、それが病だってことは認識しといたほうがいいよね。っていう。

……一方で僕は、「秀歌性の強い写メ」を撮るのが好きなんですよ。
睦月:「秀歌性の強い写メ」(笑)
吉田:「秀歌性の強い写メ」です(笑)わりと定期的にTwitterに上げるんですけど……
睦月:あ、最近寝転がって撮ってるやつ、あれ?

吉田:「寝転んで撮る」シリーズは、ちょっと偏った秀歌観なのであれなんですけど。
相田:え、ちょっと見てみよう……(笑)
睦月:あれねえ、だから、秀歌っぽすぎて、いやなんですよ、見るの(笑)
吉田:短歌であざといことをするのはあれだけど、写真であざといことをするのは平気なんですよ。写真屋さんじゃないから(笑)
睦月:なるほど……なにをあざといことをしてるんだこいつはって思ってました……(笑)
相田:(笑)……(Twitterを見ながら)あ、ほんとだ。
吉田:写真は秀歌性が高い。
睦月:あんなに、歌のところでは秀歌性から逃れるやつをやっているのに……
吉田:そう……
相田:(Twitterを見ながら)ああー……(笑)
なんか、でも、「自分のジャンルじゃないから」ってありますよね、どうしても。
吉田:そうですね。もし僕が写真屋さんやったら、それは多分言えない……
相田:言えないかもしれない。
吉田:……し、もっとなんか、選ばなきゃいけないと思うんだけども、写真屋さんじゃないから、「ま、お遊びですからね」っていう。余業として、っていう意味で、無邪気にしゃべれる、と。
相田:たしかに。それを短歌でやってる、「いわゆる秀歌」っぽい歌を作る人もいますよね。
吉田:そういう人もいますよね。それはそれでまあ……なんだろな、「浄瑠璃が好きな旦那をもてなす」みたいなメンタルになるんですよ、その場合って。
相田・睦月:ああー。
吉田:「あら、ほんにお上手やわあ(裏声)」
相田・睦月:(笑)
吉田:「ほんと、素人さんには見えへんわあ(裏声)」って。「素人さんには見えへん」って言うことで素人扱いできるわけですよ、っていうことですね。
睦月:はいはいはい。
吉田:だからその、あの、「ガチ勢としての自負」みたいな、つまらないプライドが多分あるんですよね、言語化しにくい。短歌ガチ勢としては「いわゆる秀歌」は絶対にやらんぞっていう。でも、僕は写真屋さんじゃないから、秀歌っぽい写真は撮ってて楽しい(笑)。
相田:(笑)。でも短歌っておもしろいなーと思うのが、いつどの人がガチ勢になるのか読めないとこですね。プロパーとそうじゃない人って、簡単には分けられないかな。私もカルチャーセンターで短歌をはじめて、最初は習い事だったのが、いまこうして、謎の船に乗っているし……(笑)。

吉田:御茶ノ水駅の、工事……あそこずっと工事してるんですけど、川の上で工事してた時期が、すごくかっこよくて……
睦月:あ、わかる!
相田:わかります。
吉田:あの、ほんとに(笑)
睦月:みんな御茶ノ水を知ってるから(笑)
相田:めっちゃかっこよかったですよね。
吉田:水上の基地みたいなのができてて。
睦月:そう、めっちゃかっこよかったね。
吉田:ガン!ガン!ゴン! みたいな(笑)
睦月:あとあれの、やってる時期に、桜の時季がかぶってたときが……
吉田:ああ! すごかったすごかった!
睦月:花筏が! 流れてて! 最高でしたね、あれ。
吉田:その辺の時期、溶接とかも結構バチバチやってて。夜も明るかった。
相田:けっこう夜も、工事やってましたよね。
吉田:そうそうそう。だからあの、丸ノ内線で過ぎる一瞬とかに、あれがチラッと見えた時に、……僕もがんばろう、みたいな……
相田:(笑)
睦月:丸ノ内線、地下から一瞬だけ出ますね、あそこ。あそこと四ツ谷で一瞬、外に出て。
吉田:山崎聡子さんの歌でさ、あの……、「四谷って…
睦月:…いつでも風が…
吉田:…つよく吹く」
吉田・睦月:(笑)

「四谷っていつでも風が強く吹く」黒角砂糖たたき割る姉は 山崎聡子『手のひらの花火』

睦月:JRかな、丸の内線かな。丸の内線は四ツ谷駅とかあと御茶ノ水のところとか、地上に出る瞬間が好きで……
相田:私、丸の内線を毎日使うので……
吉田:あ、そうですよね。
相田:最高です。
睦月:岡野大嗣さんに、〈そうだとは知らずに乗った地下鉄が外へ出てゆく瞬間がすき 『サイレンと犀』〉という歌がありますね。丸の内線はまさにこれって感じ。
吉田:自分の歌ですけど、〈丸ノ内線に光が差すたびに意識の上では目を覚ますけど『光と私語』〉っていう。
相田:そっか、あそこ、歌枕だったんですね。
睦月:歌枕(笑)
吉田:あれは歌枕ですよ(笑)
相田:私も、〈おろしがねのような夜川を渡るとき私は減少する、御茶ノ水〉と、〈目を閉じていても明るい地下鉄に揺すられながら川を渡った〉って二首ある。
睦月:私もどこにも出してないけど作ったことある。〈トンネルを抜けてまばゆき遠景に夏の列車は息継ぎをせり〉って。
相田:現代歌枕(笑)
睦月:現代歌枕(笑)
吉田:丸の内線が御茶ノ水で一瞬地上にでるとこ、あそこを「御茶ノ水グランドクロス」って呼ぶんですよ。
睦月:なになに?
相田:グランドクロス……?
吉田:グランドクロス。中央線と総武線と、それから下の丸ノ内線と。その3路線が交差する瞬間が一日に何回かあるんですよ、ダイヤグラム的に。
相田・睦月:へえー。
睦月:なるほど、それがグランドクロス。
吉田:そう。惑星直列みたいな。
相田・睦月:(笑)
吉田:あれも歌枕ですよ、やっぱり。
相田:すごい。平成……
吉田:平成歌枕。
睦月:平成歌枕。
吉田:一気にどっかの総合誌の企画感が!
睦月:よせ!(笑)
一同:(笑)
吉田:いやでもあの、「秀歌性のある写メ」じゃないけども、「ここにあるな」みたいな、「ポエジー埋まってんな」みたいな、まあ、あるじゃないですか。
相田:ありますね。
睦月:うん。
相田:あるから避ける、みたいなのもあるし……
吉田:ありますね。でも、俺が掘る仕事じゃない! みたいな。
相田:(笑)
吉田:俺が掘ったら負けだと思う、みたいな。「千種さーん、このへんあるよー」みたいな。
相田:千種さんは掘ってくれる?(笑)
吉田:千種さんは掘ってくれる(笑)
睦月:(笑)
相田:しかもちゃんと、うまく掘ってくれる人がいいですよね。
吉田:濫掘や盗掘じゃだめなんですよ。

睦月:そろそろ着く?
吉田:うん、くらいの感じやね。あそこが船着き場かな。
相田:あ、もう降りる?
睦月:もうすこし。
吉田:(ワイン)いる?
相田:あ、じゃあちょっとだけ。ふふ。
(ワインを紙コップにそそぐ)
相田:昼から……。ありがとうございます。もうだいぶ酔っている(笑)
睦月・相田:(笑)

船員さん:次は千住に停止いたしまーす。

睦月:いいなあ。昼酒を、金曜日に、みんなお休みで。
相田:そして、岸辺の人に手を振って。最高ですね。
睦月:遠足の子どもたちも手を振ってくれて。
吉田:でもあの……船に乗るというのは秀歌性が高いんですよ。
相田:たしかに(笑)
睦月:船はねえ。そうなんです。
吉田:秀歌性が高いんですよ。そもそも。
相田:「水上バス」とかいうワード。
睦月:でも、船に乗らないと生きていけない部分があるので、「いわゆる秀歌性」になってしまってもそこは……
相田:大丈夫。生きていく。乗らなくても(笑)
睦月:だ、大丈夫?生きていける?(笑) でもなんか、生きのびる時間の合間合間に水上バスみたいなものを埋めていかないと死んでしまう我々の心みたいなものが……それが秀歌になってしまう……?だめだ、なに言ってんのか全然わからなくなってきた(笑)
吉田:〈今後とも乗ることはないだろうけどしばらく視界にある飛行船『光と私語』〉とか、〈人々がみんな帽子や手を振って見送るようなものに乗りたい『わたしと鈴木たちのほとり』〉とか、千種さんと吟行するときにもいつも思うんだけど、もう彼と一緒に旅行に行く時点である程度秀歌性の高い行為なんですよ。
睦月:ああもう、その二首聞いただけで、どっちも「(秀歌性を)見ながら避けてる」みたいな(笑)
吉田:そうそうそうそう。なんか、作品化することじゃなくって、「秀歌体験」をすること、ポエみのある行動をすることが、我々にとっての一番のレジャーなんじゃないか、みたいな、
睦月:ポエみ。
吉田:ポエみ。
睦月:ポエみ!?(笑)
吉田:ポエみの高い行動……たとえば、金曜にこうやって飲むこととか、水上バスに乗ることとか……
睦月:……高いですね、ポエみ(?)。
吉田:……ポエみが高いじゃーん。
睦月:「ポエみ高い」ってまた、汎用性の高い語が出てきてしまった(笑)
相田:(笑)
睦月:ポエみ……(ツボに入る)
吉田:今日はもう、キラーワードをガンガン言ってくんで。
相田:ちょっとかわいい(笑)ポエみ(笑)
吉田:そう、だからあの、ポエみの高い写真やポエみの高い飲み会があれば、むしろもうなんか、作る方の苦しさから目を背けてもいいかな、みたいな……そういう風になっちゃうのがよくない!(笑)
睦月:作ろう! 作ろうね、ちゃんと歌も!(笑)
吉田:そう、よくないんですよ。
睦月:いやでも、わかる。なんかここ一週間くらい、ほとんどいつも誰かしらと飲んでて。
吉田:じぶんの肝臓を試してるの?
睦月:それもある(笑)いやそうじゃなくて……そうしてるとねえ、作品のテンションがぶれそうになるんですよね。実は今日〆切の連作があって、これはもう出すだけなんですけど、この連作を作りはじめたときが六月の最初くらいで、この頃はもうほんと、精神がものすごい荒廃してた時期で、「私は私の歌をよすがにこの世を生きるぞ……」くらいの気持ちだったんですよ。信じられるものは自分の歌しかない、みたいな。で、わりと荒廃したまま連作を八割くらい構成して、そこからさあ仕上げだってときに、ポエい飲み会を何回もしちゃって、なんか、だめだなって……(笑)。
相田:だめなんですか(笑)
睦月:人と話すと楽しいじゃないですか。それで大丈夫になっちゃいそうになる。
吉田:あの、なんだろう、「設定だけ考えて満足しちゃう中二病」やと思うんですよね。
相田:(笑)
吉田:キャラの設定だけ考える、みたいな。要するに、ポエみのあるものを摂取するだけで、我々は満たされちゃうんですよ。だから出力しなくても。
相田:へえー。
吉田:でも、出力しないと、作品にならないわけですよ、っていう(笑)。
睦月:で、出力しなかったらしなかったですごく、なんか、キツいじゃないですか……。そっちで満たされちゃってることの怖さみたいなものが出てくるから、歌は作らないと無理ですね。
吉田:あー、なるほどね。僕はむしろ、イベントとして歌会を入れていくことによって、わりと自分の歌を作るサイクルを取り戻せたんですよ。
睦月:あー。そうかそうか。
相田:ふーん。
吉田:だからあの、染野さんの講座を職場でやるっていうのがなかったら、まがりなりにも、毎月結社に詠草出して、みたいなことは出来なかったと思う。
相田:ふーん。
吉田:その、ポエみのある飲み会があれば、わりと満たされて。「どうせ、新人賞出しても、ウケないしねー」、「最終選考止まりだしねー」みたいな、なんか、そういうダサい先輩として山階(基)に絡む、みたいな……
相田・睦月:(笑)
吉田:そういう感じのね……
睦月:そう、ポエみのある飲み会があるとよくないのは、評論がね、書く前に終わっちゃうんですよ。
吉田:あ、わかる。
相田:論のほうがけっこう……
睦月:論のほうがけっこう、ダイレクトに(影響を)受けますね。
相田:作品はまだ、内的な動機みたいなものがちょっと……
睦月:ですね……、歌は、がんばればどんな状態でも書けるけど、評論はなんかもっと単純に、書くべきことをわーって飲み会で発散して結局書かなくなっちゃう、みたいな。元々持ってた強い精神性みたいなものが、喋って共感を得ることで薄れちゃう。
吉田:だから、多分ね、査読的に使うのがいいと思うんですよ。こないだはなんか、飲みながらある先輩の評論を下読みする、っていうプレイがあったんですけど……
睦月:あーなんか前に、話してましたね。
吉田:あれやるとすごく頭が冴える!
睦月:ああー。
吉田:書く人にとってどうかはわかんないけども、そもそもそういう場だという風に、前提ありきで使っちゃったほうがいい気がするんだよね。
睦月:たしかに、うまくできればいいのかも。あと単純に、評論読みながら飲むの楽しいですよね。このあいだだやさんとか呼んで飲んだとき、最近の時評をコピーして参加者に配ったりして……

アナウンス:お待たせいたしました。千住に到着です……
相田:あ。千住に到着。
睦月:では、行きましょう~

***

前編・了。全3回を予定しています。中編の公開は9月中旬以降となる予定です。

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