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検索データで日本国民のコロナへの関心度を欧米と比較してみた結果。

自己紹介

株式会社秤 代表の小川と申します。セールスプロモーション業界で4年、電通グループなど広告会社の営業とプランナーとして10年、データ分析を軸にしたコンサルティング支援3年強。マーケティング戦略から戦術まで幅広く関わってきました。2018年11月に「Excelでできるデータドリブン・マーケティング」という書籍も出版しました。

宣伝会議のマーケティング分析講座の講師や企業向け研修も行っています。マーケターがデータドリブンな意思決定を行うことができるよう、マーケティングを科学するためのノウハウを共有する活動をしています。

(データを活用する)マーケターとして何かできないか?

ご存知のとおりですが、本note公開日(3月27日金曜日)の週末は東京都から外出の自粛要請がでており、神奈川・千葉・埼玉・山梨も同様の自粛を呼び掛けています。

3月27日付の下記ニュースでは、世界での感染者が50万人を超え、米国が約85,000人超え、中国は約82,000人、イタリアは約81,000人だそうです。※数字は下記記事より。


日本でも現実的なものとしてロックダウンが検討される局面となりました。われわれ日本人はこれまで国や地方自治体からの任意の要請に対して、各自が任意に判断し、自粛をしてきました。そうした国民性のおかげで欧米より感染者拡大を抑えられているのではないでしょうか?そんな考えから浮かんだ仮説を検証するために検索データ(GoogleトレンドとGoogleキーワードプランナー)を調べてみました。

この仮説の検証によって、コロナ疲れも出てきた時期にまだ頑張ろう!という活力を作れないかと思ったのが執筆のきっかけです。


【仮説】日本人は「コロナ」への問題意識が(米国やイタリアなど)と比較して高かったのではないか?

それが検索データにも反映されているのではないか?と考え、調べていきます。誰もが使えるGoogleトレンドで今年1月1日から現在(記事作成時点で集計可能な3月27日)までの「コロナ」と「ウイルス」に関連する検索数の日本での推移を調べてみました。2月27日がピークです。全国の小中高の休校要請が発表された日です。

日本グーグルトレンドpng



続いてイタリアです。(Googleトレンドは検索推移をリサーチする対象となる国を指定できます)イタリアの検索数のピークは2月23日です。それより前は殆ど検索されていません。2月23日はイタリアでの感染死亡者は3人が発表され、21日の感染者14人が22日で76人、23日での夜に155人と、3日間で世界で三番目に感染者が多い国になったことが発覚した日です。

イタリアグーグルトレンドpng



アメリカはどうでしょうか?日本とイタリアと比較すると検索数が増えるのが遅く、ピークは3月12日です。これは新型コロナウィルス感染について楽観的な見通しを発言し続けてきたトランプ大統領が大きな政策転換を示すテレビ演説を行った日の翌日です。

米国グーグルトレンドpng



イギリスも検索数の上昇がみられた時期が遅かったです。イギリスは集団で感染者が一気に増えることで免疫のある方を増やして収束を早めるという独自方針を打ち出してしていましたが、やはりそれは危険だと判断し、ジョンソン首相が国民に「不必要な接触」を避け、人混みや混雑した場所へ行くことを控えるように求めた日(3月16日)が検索数のピークです。

イギリスグーグルトレンドpng


中国は国の規制でGoogleが使えないので、代替として、米国での「冠状病毒(中国語でコロナウイルス)」の検索数の推移を調べてみました。米国に住む中国系アメリカ人のコロナへの関心度を示すデータとして代替します。

参照記事によると米国には中国系アメリカ人の方が約346万人住んでいるそうです。(参照)https://zuuonline.com/archives/141745

今回のウイルスは中国が発端でした。他の国と比べて検索数のピークは明らかに早い時期でした。

中国グーグルトレンドpng


Googleキーワードプランナーを併用して「検索実数」を推計

Googleトレンドは調査対象期間のうち、最も検索数が多かったピークを100とした「指数」データを得ることができますが、検索数の「実数」は分かりません。対して、Googleのリスティング広告を運用するアカウントで使える「キーワードプランナー」は対象とする検索語句(完全一致)の実数を把握することができます(粒度は月次のみ)執筆時点では3月のデータは取得できませんでしたが1月と2月のデータを取得できました。

キーワードプランナー1

Googleだけでなく、Yahoo!など他の検索エンジンでの検索数や、「コロナ」(完全一致)だけでなく、「コロナ ほにゃらら」または「ほにゃらら コロナ」など掛け合わせの検索クエリが多数あることを考慮し、およそ3倍を検索数の推計値としました。

推計の補正値と「3倍」とする根拠を精緻に説明することは今回は割愛します。今回キーワードプランナーは「Googleの検索パートナー(livedoorやBIGLOBEなど)」を含むという設定でデータを抽出しました。

グーグルトレンドで得られた指数データと、キーワードプランナーで得られた実数の推計値をマージし、各国のコロナ関連の検索実数の推計値の推移をプロットしたグラフを作りました。

本noteのタイトル画像と同じものです。

各国検索数

さらに、国民のコロナへの関心度を表す指標とすべく、検索実数の推計値を人口で割り戻してみました。先ほどのキーワードプランナーの表に、検索推計数を各人口で割った値(%)を検索率として追加しました。

中国人(アメリカ在住)や日本が欧米と比較して検索率が高いことがよく分かります。昨今、感染者数が1位となった米国は約3%です。中国人(アメリカ在住)の約6分の1です。

キーワードプランナー2

各国の人口数は以下記事を参照しました。(参照)https://www.globalnote.jp/post-1555.html


こうして導いた各国の検索率を週あたりで算出(検索推計数/人口数)して折れ線グラフにプロットしました。2月までは中国人(アメリカ在住)と日本人の検索率が高い状態です。2月23日からイタリアが伸び、日本も2月27日の休校要請があってから一気に高くなりました。米国とイギリスは、3月11日(トランプ大統領の演説)まで検索率は低くなっていました。


各国検索率

参考までに集計したデータと折れ線グラフのExcelを共有します。

検索率の低さはコロナに対する関心が低いことの現れであり、(あくまで仮説ですが)自粛行動とも関連があったのではないでしょうか?今回の分析だけでは、それを裏づけるエビデンスとはなりませんが、日本と比べ検索率が低かったイタリアと米国とイギリスは中国から遅れて感染者が急増し極端な規制を与儀なくされた状況はみなさんご存知の通りです。

私は疫学の知見はありませんので、コロナウイルスの流行予測などについて見解を示すことはできませんが、今回、検索データを使って欧米と比較したことで、コロナについての各国の関心度合を検索率の推移によって可視化することができました。


心理学用語で正常性バイアスという言葉があります。自分にとって都合の悪い情報を無視したり、過小評価したりしてしまう人の特性のことで、災害の時に「自分は大丈夫だろう」などタカをくくって逃げ遅れなどにつながる人間の特性です。われわれは正常性バイアスを理解しつつ、自らの行動を選択する時期ではないでしょうか?

正常性バイアスの存在を自ら認識した上で行動のコントロールに活かすことは有意義だと思います。(松本健太郎さんのnoteを参考まで)


購買行動の先行研究などを見ると、人間は論理的なようで、ほとんどが感情で意思決定しているのだと感じます。マーケターは人間の心理特性を踏まえた上で、客観的なデータと数字を活用し、消費者の動向や世の中の動きを的確に捉えて、確かな戦略や打ち手を見出す職業です。マーケターとしてできることがないか?そうした考えから、検索データを読み解き、浮かんだ仮説を数字にして整理してみました。日本人は欧米各国よりも早い段階でコロナに関心を持ててから、良い行動に移せていたのではないでしょうか?感染者数が爆増している欧米(アメリカ、イタリア、イギリス)と比較すると日本は現時点ではロックダウン発動やパニックとはなっていませんが、3月26日、27日と都内の感染者数は40名を超える急増で、油断ができない正念場であることに変わりはありません。正常性バイアスに注意して、引き続き、各自ができる適切な行動とは何かを考えて実践することだと思います。一人の日本人として、マーケターとして何が出来るかを考え、今後も行動していきたいと思います。

今日のTVのニュースを見ると、銀座や新橋は人通りがすくなっていたようですが、若者が集まる渋谷の人通りはそこまで減っていないようです。

大学生の娘に「友達とかってコロナの危機感ある?」と聞いたら「全然ないと思う」とのことでした。自分が20代前半の時を考えると、そーだろうなとは思いました。今回の分析で日本人は早い段階からコロナへの関心を持っていたことが分かりました。各自の任意の取り組みで感染爆発を抑えられていた面もあるのではないかと思います。だから各国のように外出を規制される事態に今はなっていないのではないでしょうか?今後も気を緩めずに頑張るきっかけになればと思って執筆させて頂きました。

追加情報(2023年12月18日更新)

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