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【年末年始おすすめ】マーケター向け書籍10選(マーケティング・サイエンス)

(株)秤代表取締役社長/(株)カーツメディアワークス  シニアコンサルタントの小川と申します。企業のマーケティング支援と書籍「Excelでできるデータドリブン・マーケティング」出版や宣伝会議「マーケティング分析講座」講師など、マーケターに分析ノウハウを共有する活動をしています。共有するノウハウのテーマは確からしい戦略を導くためのマーケティング・サイエンスです。

年末年始おすすめのマーケティング書籍10選をまとめました。戦略を導くマーケターを目指すかたへ、まず1冊目はコレを、2冊目はコレを。と考えたオススメ順番①~⑩で紹介します。選定基準は主観です。私は独学から書籍を出版するまでに至りました。何から学べば良いかすら分からずに浪費した時間は1,000時間はくだらないので、みなさんには、そうした無駄をなくして頂きたい、そうした視点から厳選した10冊です。

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4象限のマッピングの縦軸は上部が網羅的で、下部が専門的(1冊で扱うテーマが限定的)としました。横軸は右側を「心理または定性」とし、左側を「数字または定量」としました。マーケティングは消費者や顧客の心を読み解く右脳的な側面と数字(データ)を元に客観的に判断する左脳的な側面、双方の思考と視点を必要とします。オレンジ色の囲みは、少し難しい書籍、赤色の囲みは難しい書籍です。

※本noteは拙書及び、マーケティング分析講座の宣伝告知を兼ねる内容です。あらかじめご承知おきください。

①USJを劇的に変えた、たった1つの考え方 成功を引き寄せるマーケティング入門

1冊目は間違えなくコレをオススメします。日本を代表するマーケターの森岡 毅氏が8年に渡って低迷していたユニバーサル・スタジオ・ジャパンのV字回復を成し遂げた軌跡について紹介された書籍です。伝説と言えるマーケティング成功の意思決定を数理確率モデルを駆使した確からしい根拠を元に行い、組織を変えていった実体験が語られており、マーケティングに必用な「戦略」とは?「戦況分析とは?」マーケターに必要な気構えとは?といったことを知ることができます。唯一この書籍はマーケティング・サイエンスのノウハウの解説はありませんが、次に紹介する②とセットで読むことで威力を発揮します。

②確率思考の戦略論 USJでも実証された数学マーケティングの力

②は①と対になる内容です。森岡 毅氏と、高度な数理モデルを用いた需要予測の専門家の今西 聖貴氏との共著です。ユニバーサル・スタジオ・ジャパンの再生に向けた戦略を導いた方法論として、消費者の購買の回数の分布において、確立的に共通する「法則」があり、それを用いる方法を数式付で丁寧に解説したものです。市場構造の核となる需要を定量的に予測または把握ができる「ガンマ・ポアソン・リーセンシー・モデル」など、具体的な活用例が紹介されています。マーケティング戦略を確からしく導くための戦況分析に用いる需要予測や消費者調査のやり方を知ることができます。

書籍を実務に活かす為に

①②は、20万部を超える販売を記録した大ヒットシリーズです。私は書籍を実務に活かすために、大事な箇所に折り目をつけるだけでなく、エクセルで目次を作っています。

【①②Excel索引 ※参考】

実務に活かしたいと考えた書籍は、講演や商談時のトークやnoteや提案書で参照したり、実際に分析したりします。一回読んだくらいでは生きた知識にできません。これぞという書籍は何度も何度も咀嚼して自分のものにしていきます。そのための方法のひとつがExcel索引です。

また、②で紹介された「ガンマ・ポアソン・リーセンシー・モデル」を活用するために、書籍で紹介されていた数式を元にExcelで分析する方法をnoteで紹介しました。

③統計学が最強の学問である

統計家・西内 啓氏の著書で2013年に発売されビジネス書大賞2014に選ばれました。そのキャッチーなタイトルで、多くのビジネスマンに対して「統計学」への興味を醸成し、「統計学」ブームの礎を気付きました。2018年時点のシリーズ累計販売50万部を超えた大ヒットシリーズです。かねてより重視されていた「論理的思考」のうち、2つの対立する論理がある場合に大きな力を発揮していたのが、「話者の大物感」や「弁の達者さ」でしたが、それを吹き飛ばすパワフルなものが「エビデンス」や「科学的根拠」と呼ばれるものであり、そのうち最も大きな比重を占めるものが統計学的な実証研究である。だから「統計学が最強」であるというテーマです。最新の事例と研究結果をもとにした統計学の主要6分野(社会調査法/疫学・生物統計学/心理統計学/データマイニング/◎テキストマイニング/計量経済学統計学)の基礎知識や事例が示されています。

マーケターの業務に置きかえると、組織の中で権限や声が大きい人の経験と勘は力を持つ場合が多いが、数字(データ)に裏打ちされた根拠(エビデンス)が最強だ。といったところでしょうか?

④「欲しい」の本質 人を動かす隠れた心理「インサイト」の見つけ方

現代は、消費者に直接聞くことで分かるニーズは、既に多くの商品・サービスによって充たされています。誰もが明確に欲しいものがなく、なんとなく良いと思う商品を購入しています。そんな中、消費者に直接聞いても分からない人を動かす隠れた心理となるインサイトを発掘するリサーチを軸としたコンサルティング支援を行う株式会社デコムの代表取締役の大松 孝弘氏と同社パートナー(元執行役員※刊行当時のプロフィール)波田 浩之氏の共著です。書籍の冒頭で紹介されたエピソードに(原田CEOの頃の)マクドナルドが、顧客に欲しい商品を聞いたら「ヘルシーな商品が欲しい」という声が多く、それに応えた商品を作っても売れなかったにも関わらず「クォーターパウンダー」や「メガマック」など、ヘルシーと真逆の商品は売れた事例があります。マクドナルドの本質的なインサイトは「分厚い食べ応えのありそうな肉を見せられるとガブリつきたくなる」でした。こうしたインサイトは直接消費者に聞いて出てくるようなものではないため、洞察していく方法やフレームワークなど、インサイト発掘のための方策が紹介されています。


⑤マーケティングリサーチ入門

正しい顧客理解やマーケティング施策の立案・評価を行うリサーチの方法と実務の勘所を学ぶことができる書籍です。マーケティング・統計解析・因果推論・行動経済学(等)の専門家である慶應義塾大学経済学部教授の星野 崇宏氏と早稲田大学理工学術院教授の上田 雅夫氏が執筆したマーケティングリサーチの入門書です。入門書とありますが、実務でマーケティングリサーチを行ってきた方でも「え、これ入門?」と思う内容も多いと思います。調査の時に発生する様々なバイアスなど、本来マーケターが考慮すべき視点について網羅的に説明してくれています。

⑥「原因と結果」の経済学―――データから真実を見抜く思考法

医療政策学、医療経済学の専門家のUCLA医学部・医療政策学部 助教授の津川 友介氏と、経済学者(教育経済学の専門家)の中室 牧子氏の共著で、ビジネスマン向けに「因果推論」の基礎知識と分析のデザインを紹介したものです。③の著者 西内 啓氏の推薦書籍です。週刊ダイヤモンド2017「ベスト経済書」第1位です。Amazonの紹介ページには「私たちがいかに思い込みに左右されているかを教えてくれます」という池上 彰氏のコメントもあります。

相関と因果は別物です。因果関係を考察する場合にはより慎重な考察が求められますが、そのために必用な因果推論の知識が知られていません。マーケティング業界でも同様です。同書は政治や経済の意思決定やニュースなど、多くの因果関係のはき違えが蔓延していることを指摘しながら、2つのことがらが本当に「原因と結果」の関係にあるのかどうかを正しく見抜くための方法を数式を使わずにやさしく解説してくれています。

⑦岩波データサイエンス Vol.3

岩波データサイエンスは統計科学や機械学習など、データを扱うさまざまな分野について、多様な視点からの情報を提供することをめざしたシリーズです。専門書の中では比較的間口を広めた書き方をしていますが、マーケターにとっては少し難しい文章かもしれません。 Vol.3は「因果推論」の特集です。

⑥の著者の津川 友介氏による「準実験のデザイン―観察データからいかに因果関係を導き出すか」や⑤の著者の星野 崇宏氏の「統計的因果効果の基礎―特に傾向スコアと操作変数を用いて」や「因果効果推定の応用―CM接触の因果効果と調整効果」(加藤諒・星野崇宏)といったいくつかの記事で構成されています。

「因果効果推定の応用―CM接触の因果効果と調整効果」では「i-SSP(インテージシングルソースパネル)」を用いたゲームアプリのCM効果検証の事例があります。そこで示された例を元にして図にまとめました。

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TVCMに当たった介入群と当たっていない対照群を単純集計し、比較すると介入群のほうがゲームアプリで遊ぶ回数が少なく、時間も短くなっています。TVCMはマイナス効果!?これは、介入群はTVの視聴時間が長いのでTVCMに接触しやすいがゲームをしない傾向があり、対照群はTVCMに接触しづらいがゲームをよくする傾向にあることによる偏りです。こうしたバイアスを「交絡」といいます。因果関係を明らかにしたい、原因と結果の双方に影響がある第3の変数を「交絡因子」といいます。交絡因子があると、本来知りたい原因と結果の因果関係を導き辛くなります。交絡因子はひとつではないことがほとんどです。その影響を考慮し補正する方法が「傾向スコア」分析です。TVCMへの当たりやすさ(介入群に割り付けられる確率)を0~1までの値をとる傾向スコアとして算出し、その値をもとに重みづけ補正することで、TVCM接触による平均介入効果(ATT)などを導くことができます。

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ATT=Average Treatment Effect on the Treated(介入群における平均介入効果)と言います。他にもATE(Average Treatment Effect/母集団全て(介入群&対照群)に対する平均介入効果)やATU(Average Treatment Effect on the Untreated/対照群における平均介入効果)という指標があります。

⑧Excelでできるデータドリブン・マーケティング

拙書「Excelでできるデータドリブン・マーケティング」は③の著者 西内啓氏の推薦で「これからのマーケターは、グラフの見た目よりも『因果推論』に注意すべきである」というコメントを頂きました。

扱っている主な内容は、時系列データ解析によってTVCMやインターネット広告などのマーケティング施策の効果を定量化し、最適な予算配分を試算するマーケティング・ミックス・モデリングという分析です。それをExcelで実行する演習を行いながら、統計や多変量解析、因果推論の基礎知識を学ぶ構成です。1章までnoteで無料公開しています。演習のボリュームが多く、難易度は少し高いです。

⑨消費者行動の実証研究

消費者行動の実証研究に関連する理論や分析手法を整理し、今後の研究の方向を考察する一冊です。内容はやや専門的です。下記が章立てです。

序 章 消費者行動の実証研究に関する現状整理と課題(守口 剛)
第1章 消費者行動と情報探索(奥瀬喜之)
第2章 消費者行動と情報処理(金子 充)
第3章 クチコミ発生の要因とオンラインのクチコミについて(臼井浩子)
第4章 顧客との継続的な関係とその構築(八島明朗)
第5章 企業経営レベルで活用できる消費者行動指標の研究―顧客満足度と企業価値の関係性についての実証研究から(重松 佳)
第6章 消費者行動研究における反応時間の測定の意義(上田雅夫)
第7章 ゲーミフィケーション活用サービスのユーザー心理(濱田俊也)
第8章 SNSが販売実績に及ぼす効果の測定とソーシャル・リスニングの意義(鶴見裕之)
第9章 アドテクノロジーの進化とインターネット広告の効果測定(本橋永至)

うち、第8章 「SNSが販売実績に及ぼす効果の測定とソーシャル・リスニングの意義(鶴見裕之)」では、SNSは売上にどう影響するのか?といった研究の成果と仮説が示されています。著者(鶴見 裕之氏)らの2013年の研究において、ビール系飲料の新商品を対象に、パス解析(共分散構造分析)を用いて、テレビ広告がツイッター上の書き込みを経由して、販売実績に与える間接効果を確認したことが紹介されています。販売実績が伸びるからツイートが増えるのか?ツイートが増えるから販売実績が増えるのか?これが分からなかったので、双方向で検証したところ、ツイートがのびると売上が増える。という関係を発見しました。直接TV広告が売上に影響があるか?という回帰分析も行ったそうですが、売上への直接の影響はみられなかったとのことです。

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「マーケティングにおけるSNS上のテキスト・データ活用の可能性と限界」論文より参照引用

2015年の研究では、特定保健用食品で同様の分析を行っており、テレビ広告に加え、テレビPRの変数も加えて分析したところ、ツイートがのびると売上が増え、テレビ広告とテレビPRによってツイートが増える関係、すなわちテレビ広告とテレビPRがツイッター上の書き込みを経由して、販売実績に与える間接効果を確認しました。

⑩購買心理を読み解く統計学―実例で見る心理・調査データ解析28

「買いたいココロ」を科学する方法として、企業や商品の「ブランド力」、お客さんの潜在的な「好み」、価格とニーズのバランス…多種多様なデータから直接測ることのできない、いろいろな「買いたいココロ」を心理統計学+マーケティング・サイエンスの第一人者が、28の分析法をもとに解き明かした書籍です。

紹介されている事例の中に、女子大生がバニラアイスクリームの何をおいしいかと感じるか?潜在クラス分析で調べた研究があります。あまりふわふわしていない食感と動物性脂肪や乳化剤安定剤、色素添加をおいしいと感じる方が(43%)で一番多く、植物性脂肪を好み、乳化剤・安定剤を嫌う 層、いわばヘルシーな嗜好を持つ方は(5%)だったようです。女子大生はヘルシーを好むイメージでしたが、④「欲しい」の本質 で紹介されていたマクドナルドの例のように、 ジャンクフードは、ジャンクなところが魅力というのが消費者のホンネなのでしょうか?この書籍は2006年初版で事例は若干古いのですが、分析手法は、今でもマーケターが十分活用できる内容ばかりです。

10選のいくつかに共通する「因果推論」

津川 友介氏星野 崇宏氏が因果推論をテーマにした⑦岩波データサイエンスVol.3で共著されていたり、「統計学が最強の学問である」西内 啓氏が因果推論をやさしく解説した⑥「原因と結果」の経済学―――データから真実を見抜く思考法や、拙書⑧Excelでできるデータドリブン・マーケティングを推薦していたり、著名な研究者のかたがたが「因果推論」をテーマにした発信をなさっています。②の確立思考の戦略論の中でもハリーポッターのTVCMの効果を確認するための実験デザイン(ランダム化比較試験に近いもの)を行ったことが記載されていました。

④「欲しい」の本質 人を動かす隠れた心理「インサイト」の見つけ方 のデコム社のデータサイエンティスト松本 健太郎氏のnote「データデータデータデータデータデータって聞き飽きたのでなんとかしたい」は、ビッグデータ、データサイエンスそしてAIに対する世の中の高すぎる期待値に対して警鐘をならす論考で946ものスキがついています(本note公開時点)

同じような課題意識を持つマーケターやデータサイエンティストは多いようです。そのnoteの結びの文章で因果推論について言及されています。

(中略)数字の裏側にあるデータ、例えば数字では表現し切れない価値も含めて、データドリブンしないと知りたい結論に辿り着けないと思っています。データドリブンとは「定量(数字)」と「定性(価値、インサイト)」をもとに問題解決に挑む手法である。これが私なりの現時点での結論です。数字は「確からしい仮説」と「結論」を紐付けるための因果推論に依る検証のために使うべきではなかろうか…なんて考えています。

※氏はマーケティングセンスをもったデータサイエンティストであり稀有な存在です。インサイトやAIをテーマにしたnoteや寄稿、書籍を多数執筆されており、出版書籍は10冊を超えています。(下記はAmazonの出版一覧)

因果推論は(今はあまり浸透していませんが)マーケターが確からしい意思決定を導くためには必須の知識だと思います。実務者としての経験と視点を加え、マーケティングでの活用法を共有する活動をしていきたいと考えています。

告知「マーケティング分析講座」

Excelを使った基本的な分析として基本統計量や分布の確認(ヒストグラム作成)などを行った上で、ハイエンドな分析も体験できる宣伝会議「マーケティング分析講座」の講師を担当しています。

①~⑩の書籍のうち、意思決定に役立つマーケティング・サイエンスの分析(下記②⑦⑧⑨⑩)の体験ができます。

②確率思考の戦略論 USJでも実証された数学マーケティングの力 (ガンマ・ポアソン・リーセンシー・モデル)

⑦岩波データサイエンス Vol.3(傾向スコア分析)※難易度が高いため解説のみに変更する可能性あり

⑧Excelでできるデータドリブン・マーケティング(マーケティング・ミックス・モデリング)

⑨消費者行動の実証研究(共分散構造分析/パス解析) 

⑩購買心理を読み解く統計学―実例で見る心理・調査データ解析28(潜在クラス分析)

12月20日(金)から2月28日(金)までの全8回のカリキュラムとなります。

初回は残り7回のカリキュラムに向けた説明にしたので資料で捕捉できる内容です。来年1月10日(金)の2回目の講義からも参加可能とさせて頂きました。19時の講義開始前の18時から会場で初回の資料を配布し、私もその場に行き、ご質問の対応を致します。

2回目からのご参加、ぜひご検討頂ください!※定員までの数名の枠のみ募集中(本note公開時点)

講義内容については、私宛に株式会社秤の問い合わせフォームからお問合せ頂けます。ツイッターのDMもウェルカムです。

https://www.hakari-corp.com/


2020年に向けて

いよいよ東京オリンピックです。最大に盛り上がる時期に、因果効果を推計するために、あえて東京オリンピックの要素を入れないTVCMも放映し、計画的に効果検証の実験デザインを取り入れる企業は果たしてどれくらいいるでしょうか?次の戦略を導くための知見を得るために確からしく因果効果を推定することを重視するようなデータドリブンなカルチャーが浸透したマーケティング組織はまだまだ少ないです。それを1社でも増やしていけるように来年も活動を続けます。年末年始は家族や友人との時間以外はすべてマーケティング分析講座の講義資料作成に勤しみます。みなさま、良いお年をお過ごしくださいませ!

追加情報(2023年12月23日更新)

マーケティング・アナリストとして、どんな価値を提供しているのか?紹介しております。