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ボルダリングのすごさって何ですか?

手書きマンガ

まずはこちらをご覧ください。

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スポーツクライミングとロッククライミングの難しさの違い

スポーツクライミングは、「順位」という明確な指標があるので、クライミングを知らない方にも、〇〇大会で何位になったと言えばある程度その選手の凄さが伝わります。

ロッククライミングには、登る岩のラインに難しさが数値化されています。
日本式では‥3級、2級、1級、初段、二段‥
アメリカ式ではV1、V2、V3‥
フレンチ式では‥6a、6a+、6b、6b+、6c、6c+、7a‥

経験者には難易度がわかるので、数字を伝えればすごさがわかりますが、クライミングをやったことのない方に
三段登りました、四段登りました、と言っても分かりにくいという現状があります。

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※きっちり比較できるものではありません。ある程度対応のグラデーションがあります。

10数年前の日本のボルダリング

このマンガで描かれたのは10数年前のお話です。
私がクライミングを始めたのは2000年、まだ、ボルダリングという名称すら世に知られておらず、
日本にはリードの大会はありましたが、ボルダリングの大会はありませんでした。そんな時代です。

日本人女子でボルダリング選手として海外の大会に参加するのは、私一人という時が大半でした。強豪国は、フランス、イタリア。ほぼ全てのW杯がヨーロッパで開催されていたので、たましか出場しませんでしたがアメリカの選手がやってくれば、優勝をさらって行くといった感じでした。

日本人は、リードで男子選手の平山ユージさんや小山田大さんが既に決勝進出して、ユージさんは優勝も手にしていましたが、

リード女子とボルダリング男女は、決勝に残ればすごい!
と選手たちの間では思っていました。

リードとボルダリングの違いもよく伝わっていない時代。これが世間と選手にギャップがあったのだと思ったりします。


見た目のすごさと実際登るすごさは違う

これは、私が出演したテレビ番組でも出題させていただいたクイズです。

以下の写真をご覧ください。
①②③
の写真を難易度が高い順に並べてみてください。いずれも命綱はつけていません。

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ボルダリングをやったことがない、そのアナウンサーの回答はこのようなものでした。

③が一番難しい。
理由:傾斜がきつくて、地面が写ってないので比較的高いところを登っていて、落ちたら死にそう。
②がその次に難しい。
理由:かなり高いけれど、傾斜も緩く凸凹していて持つところがまだありそうだから。
①が一番やさしい。
理由:低くて、傾斜もないしすぐ登れてしまいそう。

しかし、実際の難易度はこうなっています。上から順番に、

①が一番難しい・・・初段
②がその次に難しい・・・3級(V3)
③が一番優しい・・・5級(V1)

見事に全く逆の回答をしたのです。

つまり、どんなに難しい岩を登ったぞ!と写真で伝えたとしても、その苦労や価値をボルダリングを知らない人に伝えるのは、とても大変だということです。

岩の難しさは「高さ」や「傾斜」だけで決まるものではないといことです。

ちなみに③は、地面が写っていませんが、ちょうど見切れているだけで、このまま足を下ろせば地面なのです。
写真の撮り方ひとつで、難しそうにもやさしそうにも見えてしまうのです。

また①の難しいさは、低くて傾斜がありませんが、つるつるで凹みや突起など持つところや足場がほとんどなく、登るのが難しくなっています。

わかりやすいボルダリングの難しさの伝え方

ラジオや講演会などで、お客さんに画像や動画を見せることができないとき、言葉だけで登った岩のすごさを伝えるのが非常に難しいと感じました。

私が200校以上小学校の講演にいって、子供たちに今までで一番苦労して難しかった岩を、以前はこのように説明していました。

「トンネルになった岩の天井を5メートル登って、そのあと8メートルほど垂直の部分を登っていきます。この岩を登るのに3年間かかりました。一番難しかった場所は、180度の天井に指の第一関節もかからない、割りばしくらいの厚さしかない隙間に指を3本だけひっかけ、ペットボトルの蓋くらいしかない小さな足場に片足だけおいて、次の凹みまで手を伸ばして掴む場所です。次凹みも3本の指先しか入りません。そこを攻略するのに、3年間で700回もかかりました。つまり、1階の教室の天井に割りばし2本とペットボトルの蓋を1つ付けて、教室の端から端まで登っていくとします。蛍光灯やエアコンの隙間をつかんでスパイダーマンのように張り付いた登っていき、途中でその割りばしの難しいところを攻略していきます。教室の端まで行ったら、窓から校舎の外を登って3階の教室まで行きます。それくらいの難しさです。」

どうでしょうか。私が登った岩のイメージが湧きましたか(笑)?

言葉でボルダリングのすごさをわかりやすく伝えることの難しさが、わかっていただけたらと思います。

上記で説明した岩の動画がYouTubeにあげてあるので、ぜひ答え合わせをしてみてください。

↓下の写真:割りばしくらいの凹みから次の凹みが取れたところ。

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本当の「すごさ」とは何か?

のべ数千人の小学生の前で講演し、その後に感想文をもらってお返事をしていました。10年前の子どもたちは見たことのない競技ですので、私は上記のように頑張って頑張って、なるべく具体的に説明をしたつもりでいました。しかし、ほとんどの子どもたちからは

「3年間で700回もあきらめずに頑張って登れたのがすごかった」

という感想が返ってきました。

「あんなに小さいところを持って天井に張り付いて登っていたのがすごかった」

のような感想を返してくれる子は一人もいませんでした。

つまり、どんなに一生懸命、わかりすく岩の形状、傾斜や持ち具合の難しさや大変さを説明しても、ボルダリングやクライミングを知らない人には、その岩を登ことのすごさが全くと言っていいほど伝わらないということに気が付きました。

どれだけ自分は頑張ったか?こんなに頑張って、あきらめそうになったけど登れた!それを伝えた方が、人の心が動いて、すごさが伝わるんだ、ということに気が付いたのです。

きっとボルダリングだけでなく、どんな分野においても、同じことが言えるのではないかと思います。本当の「すごさ」とは、その登れた岩の難易度や表面的なスペックのすごさでなく、

「困難と思われたものを、あきらめずにどれだけ挑戦し続けて、成し遂げたか」

これに尽きると思っています。

私のこれからの人生も、ずっとそうであり続けたいと思っています。数値化されたものだけがボルダリングのすごさではないと思っています。







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