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書籍【GAFAMのエンジニア思考】読了


https://booklog.jp/users/ogawakoichi/archives/1/B09G2ZJY6C

◎タイトル:GAFAMのエンジニア思考
◎著者:アレックス・カントロウィッツ、小川彩子(訳)
◎出版社:かんき出版


タイトルこそ「エンジニア思考」だが、そんな単純な話ではない。各企業文化がこんなにも異なるのは発見だ。
それぞれの企業について、特徴を詳細に記載しだしたら、とても本1冊では足りないだろう。
むしろ企業ごとの特徴については情報量を少なくし、横並びで比較することを目的にした点がよかったのかもしれない。
各企業の特徴的な部分に的を絞り対比することで、今後の成長ストーリーについても勝手ながら想像が出来た。
私もGAFAM各企業の解説本については、よく読んでいるつもりだ。
創業者の苦労話やサクセスストーリーも面白いし、客観的な解説はよく調べられていて、非常にためになる。
それだけに、すでに知っている内容がほとんどだった章もあった。
そういう意味では、個人的な興味の影響が大きいAMAZONに関することは、過去に他の本で読んでほとんど知っている内容だった。
Facebookについては、報道で問題視されていた企業文化の課題が記載されていて、CEOザッカーバーグ氏の思考回路について考えさせられた部分だ。
彼はトップダウンですべて一人だけで決めているように見えるが、実は様々な人にフィードバックを求め、話を聞くようにしているという。
しかしながら、大問題に発展した「フィード上に流れる情報の取り扱い」には耳を貸せなかったと言うことか。
米大統領選挙でのロシアの介入や、ヘイトスピーチの扱い、政治的に偏った思想をそのままフィード上に書き込むことや、犯罪や自殺をライブ配信してしまう問題。
SNSという他人と簡単に繋がりができるという便利な面がある一方で、そこに記載された情報の信憑性は一体誰が責任を取るのか。
自分の性格と似た人と繋がる傾向にあるのはSNSの特徴だが、そうなると偏った情報ばかりが目につき、思想すらも偏向していきかねない。(正にエコーチェンバーである)
悪意があれば、他人を偏った思想に染めていくことが容易な訳であるが、それもSNSだからこその機能と言える。
これらを解決することは、そんなに単純な話ではない。
すべての書き込みをもしFacebookが検閲するならば、それはユーザーの言論の自由を奪うことにつながる。
それでは、何でもかんでも自由に投稿させ、Facebook側は一切関与しないという今の姿勢は、果たして今後も世間が許していくのだろうか?
つまりFacebookの今の姿勢では済まなくなったのが、今回の一連の流れである。
なぜFacebookはこんなにもバッシングされたのだろうか?
もし仮にこれがFacebookではなかったら?
例えば、個人の犯罪行為をiPhoneで撮影したとしたら、メーカーであるAppleは世間から責められただろうか?
もしかすると、そういう可能性だってあり得たかもしれない。
様々な考え方があると思うが、GAFAMだから最強で万能ということはなく、その判断は紙一重ということではないだろうか。
思いもよらぬ死角から責められることは、いつでもあり得る話なのだ。
ここまで複雑化した社会で、何が正解で何が間違っているのかは、本当に線引きが出来ないと思う。
自社内の規律規範が、現時点の世間の認識と本当に合致しているのか。
常にリアルタイムで監査していかないといけないのだろうが、これは本当に難しい。
ザッカーバーグ氏が社員に対してフィードバックを求めるのは、認識にズレがないか常に確認したいということの表れなのだろう。
似たような事象についての話が、Googleの章でも出てきた。
Googleについては、創業時からのサーゲイ・ブリン氏とラリー・ペイジ氏そしてエリック・シュミット氏との物語を読んだことがある。
しかし、今Googleを率いているのはサンダー・ピチャイ氏だ。
彼の代になってからのGoogleの物語は、私自身あまり追いかけてなかった。
今回本書でわずかながら触れただけだが、彼の人柄が垣間見えたのは発見だった。
ピチャイ氏はとにかく社員の話をよく聞くのだという。
他人からフィードバックを求めるザッカーバーグ氏と似ている部分でもあるが、本書を読むとピチャイ氏は「傾聴」に特に力を入れていると感じる。
社員の話を積極的に聞くということは、相手との関係性をフラットにしようとする意思に他ならない。
Googleでは社内情報を基本的にフルオープンにするそうだが、こういう細かな点で企業文化の姿勢が見えてくる。
「すべての情報を整理し、誰でもアクセスできるようにする」は、Googleの基本的な社是でもあるから、当然と言えば当然であるが、それを全社挙げて実践することに意味があるのだろう。
この前提があるからこそ、他者とコラボレーションし、それぞれ議論しながら進める文化が構築できているのだ。
ピチャイ氏は社員に対し、基本的に押し付けることをしないらしい。
AIやジェンダーに対するGoogle社員(グーグラー)の反応は素晴らしいと思う。
これだけ多様性を認める文化が出来上がり、自由であることを何よりも大切な価値観としている企業は、逆に経営の難しさを物語っている。
何をもって正しいかは、その時代の価値観によって決まる訳だが、必ずしも経営者の価値観と、グーグラーの価値観とが常に一致する訳ではない。
その中で経営は舵取りをしていくのである。
例えば、自分たちが開発したAIなどの技術が、軍の兵器として殺人の道具に使われたら社員はどう思うだろうか。
もちろんそこだけ切り取れば、嫌な気持ちになるだろう。
しかし、もし敵国から攻められたら、そんなことを言ってられるだろうか?
「自分の価値観として許せないからまったく対処しない」ということは現実的にあり得るのだろうか?
優れたAIを開発し続けることは、間違いなく国防の一端である。
これは経営としては正解を簡単に見つけられない、非常に大きな難問だ。
「国家を守る必要はあるが、自分が殺人の道具に関与するのは嫌だ」となれば、グーグラーたちは国外逃亡するかもしれない。
世界のどこに居ても変わらずに仕事ができる彼らはそれが出来る。
嫌な仕事を無理に押し付けられるより、安全な国に逃げ、そこで仕事をするという選択をするかもしれない。
何が唯一の正解ということはなく、難しい課題に経営者はどう対処していくのか。
ピチャイ氏の調和調整能力は突出していると思う。
こういうリーダーシップが今の時代に必要なのだろう。
才能あふれる部下たちがいるのであれば、極端な権限委譲をし、後はトップとして責任を持つ。
もし、問題があった場合は、その都度速やかに軌道修正をする。
確かにGoogleにはこれまで幾度となく危機が訪れてきたが、その都度難関をクリアしてきたのは事実だ。
ブラウザ開発でIEから締め出された際は、ツールバーを開発し、Chromeを開発して乗り切った。その指揮をしたのがピチャイ氏本人だった。
2022年に登場した生成AIは、Google検索の牙城を崩していくだろう。
今後、検索シェアの大部分を、生成AIを搭載したBingに奪われてしまうかもしれない。
こういう点でも、Googleがこれからどうなっていくのかが要注目である。
そしてAppleだ。
これだけの各企業の話の後に、Appleの企業文化の話は意外だった。
ジョブズ氏亡き後のAppleを支えたのが、現CEOのティム・クック氏。
ジョブズ氏がワンマン経営だったことは想像できるが、実はクック氏もワンマンのトップダウン型だったとは驚きだった。
さらに社内も超秘密主義文化のため、組織のサイロ化が進んでいるという。
GAFAMの中でも、Appleこそ先進的な企業と思っていたが、内情はまったくの真逆。
確かにジョブズ氏亡き後のAppleで、真にイノベーティブな製品が出ていないのは確かだ。
Apple社内では、大企業病の官僚主義が蔓延しているのだという。
Googleのピチャイ氏やFacebookのザッカーバーグ氏に対しては、社員から気軽に話しかけることができるため、現場からの提案も上がってくることが多いという。
そもそもGoogleでは、定期的にTGIF(金曜日の経営陣からの説明&質問会・食事会)を開催し、直接トップに質問や意見が言える場を設けているくらいだ。
こういう姿勢は、企業経営にとって非常に大事なのではないだろうか。
Appleでは、現場からティム・クック氏に直接提案が上がることはあり得ないという。
さらに廊下で挨拶をしても「話しかけるな」オーラが常に出ているという記載すらある。
これではAppleの未来は厳しいかもしれない。
確かにHomePod(ホームボッド)も、Appleカー(自動運転車)も開発は上手くいっていないと聞く。
デザイン至上主義が行き過ぎていて、エンジニアリングが後回しにされているのだという。
両者で歩み寄って協力すれば良いだけの話であるが、サイロ化の社内文化がそれを阻んでいる。
この状況で、画期的な新製品を生み出すことができるのだろうか?
iPhoneはすでに機能として十分な域まで達してしまっている。
次の世代のバージョンになっても、革新的な機能とは言えず、すでに私自身もSE3を約3年使用していて生活に全く不便を感じていない。
もはやずっとこの機種で充分とさえ思ってしまっている。
この状況で、次のAppleの施策はどうなっていくのだろうか。
結局、天才が一人だけ居ても、今後の時代を生き抜くのは厳しいということなのだ。
周囲の人とコラボレーションし、それぞれの能力を引き出し、質の高いアウトプットをする。
正解が一つではない世界の中で、顧客が本当に欲しいものをどう定義し実現するのか。
そういうことを実行できない会社は生き残れないということか。
GAFAMと言われるテックジャイアントを横並びで見るだけで、こんなにも違いがあることに気付かされる。
だからこそ、我々はどうするのか?
官僚主義に陥らないためにはどうすればよいのか?
果たしてAMAZONやGoogleのような企業文化を構築していけるだろうか?
巨大企業の足元にも及ばない事は承知であるが、未来を生き延びるためには、もっともっと真剣に考える必要があるのだ。
そして愚直に実行する。心掛けていきたいところだ。
(2023/7/6木)



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