引っ越し(オフィスの)
数年前、数人で会社をつくったことがある。
最初は個人事業主がまとまった、ただの集い。
集いがやがてチームとなり、チームは会社となった。
それほど立派なものではなかったが。
仕事上の不便がたたって、
やがてオフィスをもうけた。小さな部屋。
大学時代に住んでいたワンルームマンションに似ている。
オフィスというか、事務所だ。
しかしながら、これは大きな一歩なのだ。
そもそも、その前はオフィスがなかったのだから。
ノマド。
そんなかっこいいものじゃない。
住所不定のワーカー。そんなかんじだった。
ふらふらとあてもなく、
作業ができそうな場所を求めてさ迷う日々。
それは一見自由なようで、じつはかなり落ち着かないものだ。
なんていうか、いつも入れるグループを探してるかんじ。
なんだか、さみしい。
そんな僕たちにも、オフィスができた。
やったぜと胸を張って、意気揚々とIKEAへ向かう。
当時、関東近辺のIKEAは港北と船橋、
それから新三郷にあって、距離的にちかい船橋に行った。
個人的には、以前上海に住んでいた際に
かなりIKEAを活用していたため、
なんだかあのロゴ自体にノスタルジックな印象がある。
しかしながら、
IKEAが北欧の会社で、
かつそこが船橋であり、
自分が抱いてるのは上海への望郷であることを考えると、
もうよじれて戻れないほど複雑な感情だなあと
ぼんやり思っていたりした。
パソコンさえあれば、
オフィスなんて、あっさりと格安でつくれる。
たしか、全部でかかったのは数万円。
しっかり機能するちゃんとしたオフィスが完成した。満足。
もろもろの買い物をしたあとで、
IKEA内にあるレストランに行った。
平日の昼間、お客さんは少ない。
窓際の高いカウンターテーブルに数人、
一人客が座っていた。
やけに大きいミートボールをほおばりながらそれを見ていると、
その中の一人、仕立ての良いジャケットを着た青年が、
macを開いて仕事をしている。
パチパチと銀色のパソコンに何かを打ち込んで、
時おりiPhoneを手にとり、企画に関する会話をしていた。
そこには不思議と、さみしさのようなものはなかった。
というより、ちょっとカッコいいぞ。
あれが、ノマドなんだろう。
似ているようで、住所不定とはやはりちがうのだ。