見出し画像

赤提灯にあこがれて。

お酒がめっぽう弱い。ちょっと強がってしまった。正しくは、今はまったく呑めない。昔からお酒に弱く、一番体に合うワインでも呑めて1杯。酔って楽しくなる瞬間が来る前に、顔は茹でダコになり、鼓動が暴れ、悲しくも突っ伏してしまうのだ。

憎いことに、お酒の美味しさがわかってしまう。とくに日本酒の憎いことときたら、もう。久保田の萬寿を初めて呑んだときには、お腹の底からぽわぽわと幸せがわき上がるのがわかった。

「お酒が呑めたらなあ」

あぁ、何度思ったことか。大学の部活で、海外旅行で、お客さんとの接待で、初めてのデートで。お酒すごく弱いんです、と申し訳なさそうな笑顔の下で、グラスを握る手にググッと力が入っていた。

まっすぐ帰りたくない夜が、ことさらタチ悪い。家と会社を往復するだけの、代わり映えのない日々。お酒が呑めれば今日はいつものお店に顔だそう、なんてことができるものの。あまりのお酒の弱さにこんな低単価な客、かえってお店に申し訳なく思い、気になるお店をガラスごしに眺めながら帰宅するのであった。

画像1

夜な夜な、酒場放浪記を見ながら、赤提灯に思いを馳せることも。叶うなら女版酒場放浪記の倉本康子さんのように渋い赤提灯の居酒屋にも、すん、と馴染めるような女に生まれたかった。

「とりあえず、生ひとつ」

言いたい。死ぬまでに一度でいいから言ってみたい。

「そろそろ日本酒いこうかな〜。
お父さん、おすすめあります?」

カウンターに座って、頑固そうな大将をお父さんと呼びたい。

「は〜、もう、なんでもいいや〜!」

酔っ払って気持ちよくなって、地上から1cm浮いたころ合いに出そうな言葉。この瞬間、ストレスがす〜っと体から抜け出しているに違いない。

妄想はつきない。お酒が弱いから、体が弱いから、を言い訳に、近ごろあまりにも多くのことを諦めてしまったように思う。note酒場も、文字を見た瞬間、超絶に憧れたが呑めないしなあ、そもそも遠いしなあ、と一歩引くことしかできなかった。

本当は呑めるか呑めないかなんてたいした問題じゃない。腰をひかずに、ずん、と前のめりになれるかどうか、だけだと思う。とはいいつつも、叶うなら残りの人生うまい酒にうまい肴、乾杯のある人生を楽しめますように。なむなむ。

追記。夫は酔っ払って道端で寝て、一文無しで朝を迎え、そのまま海外出張へ向かうようなテキトー人間。それでもなんとかなったから、大抵のことはなんとかなるのだろう。

身体弱ヨワ系のみなさんの、お力になれますように。