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Ogen/blik Vol.3 出品者インタビュー第一回 : 大久保雅基(前編)

音楽、映像、サウンドパフォーマンスによるコンサートシリーズ、     " Ogen/blik [blink of eye=瞬き] "のVol.3の開催にあたり、出品者のインタビューを掲載していきます。第一回インタビューは作曲家の大久保雅基です。
(コンサートの詳細についてはこちらをごらんください。
特設ウェブサイト:https://ogenblik.cargocollective.com


大久保雅基   プロフィール
1988年宮城県仙台市出身。電子音響音楽、コンピュータ音楽、室内楽、インスタレーション、映像等、多岐に渡る表現手法で、音響技術と現実空間による表現を模索する。 洗足学園音楽大学 音楽・音響デザインコースを成績優秀者として卒業。
情報科学芸術大学院大学[IAMAS]メディア表現研究科 修士課程修了。 仙台にて現代音楽コンサート「絶頂」主宰。名古屋芸術大学デザイン領域、愛知淑徳大学人間情報学部非常勤講師。先端芸術音楽創作学会、日本電子音楽協会、日本AI音楽学会会員。

写真:嵯峨倫寛


(聞き手:牛島安希子)

ー大久保さんの活動は、楽譜を書いて演奏されるタイプの現代音楽からアクースマティック音楽や劇伴の作曲、コンサートの企画まで、多岐に渡ります。どのような経験から現在の活動に至ったのかお聞かせ願えますか?

 作曲を始めたのは高校からで、当時はトランスやハードハウスなどのダンス・ミュージックを作っていました。音大からはクラシックの基礎的な理論も学びつつガバやダブステップを作り、インプロヴィゼーション・パフォーマンスを行い、最終的にはそれらを包括的に表現できるアクースマティック音楽に向かいました。
 ダンス・ミュージックを作っていたころに、シンセサイザーを極端なパラメータにして変な音を作ったり、ヴィンテージ・シンセサイザーを取り入れたり、未知な音色表現を探求する欲求がありました。それまではシンセサイザーのパラメータで表現できることに収まっていたのですが、音大でCycling ‘74 Maxに出会ってからはパラメータの外にある音響処理を扱い表現するようになりました。このように電子音楽の様々な表現手法を探求してきたのですが、IAMASに入ってからは電子音楽と呼ばれる音楽そのものの枠組を広げることに興味を持つようになりました。

こちらのインタビューでは、「生の楽器や楽譜にテクノロジーを組み込んで、従来の生演奏を拡張する活動」が主たる活動と仰っていますね。電子音楽の枠組みを広げた結果にたどり着いた、生演奏のスタイルということですね。

一般的な電子音楽はスピーカーを使用して拡声することが前提となっています。音響処理をすると最終的に電気信号として出てくるため、スピーカーを使用しなければ音として聞こえません。様々な新しい音響を生み出してきた電子音楽は、スピーカーが表現のボトルネックになっていると考えています。電子音楽を奏でるには、演奏情報を元に電気信号を発生させスピーカーに拡声させることが一般的だと思います。このスピーカーに拡声させることを他の方法に置き換えることで、生演奏を電子音楽的に操作できるのではないかと、2つの方法を考えました。

1つは生楽器に振動スピーカーを取り付け、その楽器のサンプリング音に音響処理を施して再生する方法です。楽器の音は、発音の要因があり、それが本体に共鳴することで作られます。例えばスネアドラムでは膜をスティックで叩くことが発音の要因となります。その振動が胴体に共鳴することでスネアドラムの響きが作られます。つまりスティックで叩くのと同じ振動を膜に再現すれば同等の響きが得られます。また、ブラシで叩いたり指で擦った際もスネアドラムの音として認識できるように、振動スピーカーから再生された音もスネアドラムの音と捉えることができます。これによって、生楽器を拡張した響きを作ることができます。


【sd.mod.live】写真:羽鳥直志 提供:愛知県芸術劇場

もう1つの方法は楽器演奏者の楽譜を拡張することです。演奏家は五線記譜法で書かれた紙の楽譜の情報を元に演奏を行うことが一般的です。その紙の楽譜を電子媒体にすることで、リアルタイムに演奏情報を書き換えるなどの動的な表現が可能となります。例えばヘッドフォンを楽譜とした作品『どこかの日常』ではパフォーマーに聞こえてきた音を復唱してもらう指示をしています。リアルタイムに放送されているラジオの音声がソースとなっており、その場でサンプリングし、ループやタイムストレッチなどの処理を加えています。パフォーマーは客席の4隅に立っているのでサラウンド・スピーカーで聴く合唱作品のようになります。
 現在はこの2つの手法を使って作曲をしています。生演奏の音楽と電子音楽は異なる道を通ってきましたが、この手法を使うことでそれぞれの表現が融合される可能性を持っていると思います。

ーIAMASではアルゴリズミック・コンポジションも研究されたそうですが、アルゴリズミック・コンポジションというと、システムを構築するということにかなり重点が置かれるように思います。大久保さんの作品はシステムというより、作品のアイディアそのものの面白さが光っている気がします。

 ありがとうございます。アルゴリズミック・コンポジションのルーツは十二音技法などのセリー音楽にあると思いますが、それを扱っている作曲家もシステムの美しさではなく、そこからどのような音が出てくるかに着眼点があると思っています。アルゴリズムはアイディアを表現するためのツールでしかありませんが、不可欠になるようにはバランスをとっています。もしくは、そのアルゴリズムだからこそ生まれるアイディアは何かを考え創作しています。音響機器や楽器を用いた作品でも同様で、その機器を用いるからこそできる表現はないかに注意を払っています。現代社会の音楽とコンサート作品はどのような聴取の違いがあると考えています。


(次回、大久保雅基インタビュー中編は5/12に公開!)




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