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母体および臍帯血のSARS-CoV-2抗体と胎盤移行率の評価

抄読会準備のメモであるため、意訳、誤訳などあるかと思います。個人的な意見です。所属している団体などとは一切関係ありません。

「Assessment of Maternal and Neonatal Cord Blood SARS-CoV-2 Antibodies and Placental Transfer Ratios.」
 JAMA Pediatrics, 19107, 1–7. https://doi.org/10.1001/jamapediatrics.2021.0038
Flannery, D. D., Gouma, S., Dhudasia, M. B., Mukhopadhyay, S., Pfeifer, M. R., Woodford, E. C., Triebwasser, J. E., Gerber, J. S., Morris, J. S., Weirick, M. E., McAllister, C. M., Bolton, M. J., Arevalo, C. P., Anderson, E. M., Goodwin, E. C., Hensley, S. E., & Puopolo, K. M. (2021).


Abstract

importance
母体由来の抗体は新生児免疫の重要な様子である。
SARS-CoV-2に対する母体抗体の動きや経胎盤移行性について理解することで母体へのワクチン接種の必要性や新生児管理の理解につながる。
objective
母体と新生児のSARS-CoV-2特異的抗体濃度との関連性を評価した。
Design、Exposure、Mainoutcomes
米ペンシルベニア州の病院で、妊娠中の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染に対する母体の抗体応答と抗体の経胎盤移行の有無をコホート研究で検討。2020年4月9日-8月8日に出産した女性1714例(年齢中央値32歳)と新生児臍帯血の血清を入手し、ELISA法を用いてSARS-CoV-2スパイクタンパク質の受容体結合ドメインに対するIgG抗体とIgM抗体を測定、抗体濃度と胎盤移行比を人口統計学的データおよび臨床データと組み合わせて分析した。
引用:https://www.m3.com/clinical/journal/23624
Result
マッチさせた血清が得られた母親と新生児1471組のうち、出産時に1471例中83例(6%)の女性からSARS-CoV-2のIgG抗体またはIgM抗体あるいはその両方が検出され、83例中72例(87%)の新生児の臍帯血からIgG抗体が検出された。IgMはいずれの臍帯血からも検出されず、血清陰性の母親から生まれた児からは抗体は検出されなかった。血清陽性の母親から生まれた児のうち11例は血清陰性だった。(6例はIgMのみ陽性だった母親、5例はIgG陽性だがIgG値がとても低かった母親)
臍帯血のIgG濃度と母体のIgG濃度との間には正の相関が認められた(r=0.886、P<0.001)。
経胎盤移行率は無症状から重症にかかわらずすべてで1を超えた。
胎盤移行比は母体の感染から出産までの期間が長くなるに伴い上昇した。
引用:https://www.m3.com/clinical/journal/23624
conclusion
この研究ではSARS-CoV-2のIgG抗体は症状の有無にかかわらず胎盤を通過することが分かった。胎盤移行比は母体の感染から出産までの期間が長くなるに伴い上昇した。
母体由来のSARS-CoV-2特異的抗体は新生児がコロナにかかることを予防する可能性があることが分かった。

introduction

新生児の免疫において自然獲得免疫だけでなく、母体由来の抗体は重要な役割を担っている。
母体が妊娠期間中に獲得したSARS-CoV-2に対する抗体がどの程度胎盤を通過するかどうかは今後のワクチン接種戦略に必要だ。
コロナに対する抗体の胎盤移行性についての論文は症例報告や母体有症状のときのみである。
今回は2020.4.9-2020.8.8までの妊婦に対して母体内での抗体の動きや胎盤移行性について調べる。

Method

妊婦が入院時やCOVIDに暴露するまたは症状がでたときはPCR検査を行った。
また、出産時にはPRP検査のために母体は採血を行い、児は血液型検査のために採血をする。それらを匿名化した状態で使用した。
妊婦のCOVID-19感染の症状などについては米国疾病管理予防センターの基準に準じた。
①無症状:出産前から出産時まで症状がない
②mild:症状はあるものの呼吸困難はなく、酸素需要も画像所見も陰性
③moderate to critical:呼吸困難や画像所見があり、酸素需要があるものや人工呼吸器が必要となるものまで含めた
胎盤移行率は 胎児IgG濃度÷母体IgG濃度とした。

Result

figure1
1714例のうち母体決と胎児血がマッチしたものは1471例。そのうち母体の抗体検査が陽性だった例は83例でした。そのうち胎児が陽性となった事例は72例、陰性となったのは11例でした。母体の血清抗体が陰性であった児は全例抗体は陰性でした。

Table1
母体抗体陽性の83人について
・PCR検査陽性は44%のみであった。軽症以上ではほとんど陽性であるが、無症候性の検査ではPCR陽性となったのは31%のみでした。
・中等度以上の母体抗体濃度は無症候性、軽症の人と比べて高値を示していたが、統計学的な有意差は認めなかった。
・胎盤移行比については重症度による統計学的な有意差は認めなかった。

Table2
母体の背景と臍帯血清陽性状態との間に関連性は認められませんでした。

Table3
胎盤移行比と母体の抗体濃度や発症してからの日数についても検討したが有意差は認められなかった。

figure2
A 母体のIgG濃度と児のIgG濃度は正の相関があった。
B 母体のIgM濃度と児の抗体の有無には関連性は認められませんでした。
C 出産以前にPCR検査で陽性となっている軽症以上の症例では、PCR陽性となってから出産までの期間とIgG抗体濃度は正の相関を示した。
discussion
臍帯血からIgMを検出した症例はなかった。
⇒「COVID-19の経胎盤的感染は起こりうるが稀」という既知の研究結果と一致した。

百日咳、風疹、B型肝炎、およびインフルエンザに対する
ワクチン誘発抗体の経胎盤移行比と類似した結果であった。

早産症例が少なく、妊娠早期での抗体の動態については十分な検討ができなかった。

無症候性の症例が多いため罹患期間がわからず、有効なワクチン接種時期などについての考察はできなかった。

Strength
人種や症状によらず、出産を行ったすべての女性に対する大規
模コホートであること。

Limitation
単一施設、後方視的研究、退院後のフォローなし
早産例が少ない
⇒・在胎日数と胎盤移行比の関連を検討できなかった。
 ・特定の時期の感染と胎盤移行比の関連を否定できなかった

conclusion
母体由来のSARS-CoV-2特異的抗体は新生児がCOVID-19に罹患するのを予防する可能性があることが示された。
新生児管理のガイドライン作成や妊婦におけるワクチン戦略に対して手助けとなりうる。
SARS-CoV-2抗体が新生児感染を予防するかどうかを判断するにはさらなる研究が必要だ。




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