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冒険研究所書店4ヶ月を振り返る

5月24日に冒険研究所書店をオープンさせた。

もともと、私が事務所として借りていた物件を「書店」にしようと思い立ったのが今年1月末ごろ。それから4ヶ月後にはオープンし、営業が始まった。

書店で働いた経験もなく、特に興味関心を持っていた分野でもなかった書店を始めるにあたり、どうやって本を仕入れるか?どうやって集客していくか?全てが未知だった。今でも未知のど真ん中だけど笑

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オンラインストアも動いていますので、見てくださいねー。

開店するまでや、開店直後のことはこれまでにも書いてきたので、この4ヶ月を振り返ってみようと思う。

やりたいと思いながら、できていないこと

①書店を始める際の、クラウドファンディングのページに書いたが「書棚のライブカメラ」というのができていない。

これは、媒体はなんでも良いのだが例えばYouTubeライブなどで店内の書棚が「ライブ」で延々放映されている、というもの。書店はどうしてもそこに行かないとどんな本があるか分からない。足を運ぶことが楽しみの一つである一方、コロナのご時世で移動を控える人たちや、遠方で物理的に来るのが難しいという方にも、どんな本が並んでいるのかを見れるように、という狙いでのライブカメラだった。

だが、思いついては見たものの、実際にやろうと思うとなかなかハードルが高い。

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まずは、書棚全体を一冊ごとの背表紙が読めるほどの解像度で映すというのが難しい。カメラを何台も用意することになるし、それをどこに設置して、どうスイッチさせながら映すか?など考えていくと、うーん、これは難解だ。

そしてライブカメラのもう一点の問題が、どうしてもお客さんも映り込んでしまう、ということ。書棚「だけ」を映し続けるというのが難しい。お客さんは当然のこととして、書棚の前に立つ。当然映る。うーーーん、最大の難題がここ。棚の上から足元を見下ろすように書棚を映しても、背表紙は見えにくいし。

いや、書棚を写真に撮って毎日アップすれば良いんじゃないの?と言う意見もあるが、いや「ライブカメラ」が良いのだよ!笑

どなたか、良いアイデアあれば教えてください。

②「旅をする本」の棚を作る、というのがこれから。

冒険研究所に設置されている「旅をする本棚」に自分の本を一冊持ってきて、旅立たせる本を置きながら、誰かが置いた本を一冊持って旅に出る。その本は旅先で誰かに手渡してもいいし、また持って帰ってきて「旅をする本棚」に置いて、別の本を持って行っても良いし。そんな本棚を作りたい。それは、これから作ります。

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始めてみてから気づいたこと

①冒険研究所書店は、古本と新刊を揃えている。古本8割、新刊2割というところだ。

壁を埋める古本の書棚は、全く整理していない。並べていない。つまり、ジャンルごと、出版社ごと、著者のあいうえお順、など一切無視して、ランダムに置いている。同じ著者の本でもバラバラなこともよくある。

5月24日の開店の際に、その日の朝まで壁を塗っていたり棚を作っていたり、準備が間に合わずに「とりあえず段ボールの中の本を書棚に収めて、作業スペース作ろう」ということで、後から棚の編集をしようと思いながらもその状態のままである、ということだ。

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で、実際にそれで始まって数日そのランダム書棚で営業開始してみると、来るお客さんの反応がすこぶる良い。「棚を見ていくと、次にどんな本が並んでいるか予想できないので、見ていて楽しい」と言う。「人の家の本棚を見てるみたい」「急に読んだことのある本が目に飛び込んできたり、知らない本が急にやってくるので、脳がすごい動く」という好反応の一方で「欲しい本が全く探せない」「見るのに時間がかかる」という声もある。実際、営業している私自身も困ることがある。お客さんと話していて「あ!そう言えばおすすめの本ありますよー」と思いつくのだが、次の瞬間には「はて?そう言えばその本はどこにあったかな…」とお客さんと延々探す、みたいなことがよくある。

デメリットもある一方で、やはり最大のメリットは「お客さんが見知らぬ本との出会いを誘発できる」という点にある。ジャンルごとに区分けすると、どうしても自分の興味の対象外の棚は素通りしてしまう。でも、ランダムに置くことで一冊ずつ見て行ったときに、目に留まって気になり手に取ったその本は、いつもなら素通りしている棚に並んでいる本かもしれない。そういうことが、この4ヶ月でたくさん起きている。

もう一つのメリットが、狭い本屋が広くなる、ということだ。

3000冊ほどの本を並べているが、書棚全てを見て行くお客さんもたくさんいる。人によっては、それを2〜3周して「あれ?さっき見た時は気付かなかったけど、こんな本あったんだ」と手に取ることもある。

例えば10万冊を揃える大型書店に行っても、背表紙を3000冊見るということはあまりないのではないだろうか?綺麗にジャンルで区切られ、自分の興味がある棚を見て、次の棚を見て、ということをすると、そもそも興味の対象外の本は「存在していない」のと同じだ。

もし10万冊の大型書店に行って、2000冊の背表紙を見て本を選んでいたとしたら、うちの方が1.5倍の広さを持つ書店である、という考え方もできる。

そしてこの書棚にランダムに本を置く、というのは小さい書店だからこそできることだろう。もし10万冊がランダムに置かれていたら、ひたすら混乱とカオスの渦で収拾がつかない。3000冊くらいだからできることだ。狭さを利点に、より棚が広くなるというのが「整理しない」という置き方。

これも、ある意味で「事故的」にできたことだ。狙ったというよりも、ランダムで始めてみたらその面白さに気がついた、ということである。

②近所の方の文化度が高い。

前にも書いた気がするが、書店の近隣に住んでいる方で文化度が高い方が多い気がした。本の買い取りも行っており、最近は自宅に伺って大量に本を買い取らせていただくことも増えてきた。

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そこで出会う本が、良い本が多い。そしてその良い本を、しっかり読んでいる方ばかりなのだ。2件続けて買い取りに伺ったご自宅に、同じトーマス・マンの全集が置いてあり、それぞれ読み込んだ形跡があったりすると、トーマス・マン流行ってるのか?と勘違いしてしまう。

ただこれも、年代で差があるのかもしれない。まだ開店4ヶ月なので、見えていない部分も多いはず。これからじっくり体験していきます。

③「桜ヶ丘」の土地

冒険研究所書店は、小田急江ノ島線の「桜ヶ丘駅」目の前にある。周囲は住宅街で、人口は多い。

ここで書店を始め、近所の方々が来られることも多いが、よく尋ねられるのは「なんで桜ヶ丘で始めたんですか?」ということだ。「桜ヶ丘なのに、なぜ?」というニュアンスだ。どこか桜ヶ丘という土地に対するネガティブな印象に裏付けされた言葉が多い。

駅前には商店街があるが、ほぼシャッターが閉まっている。ずいぶん昔は繁盛していたらしく、古くから住む方に話を聞くと「昔はこの商店街でなんでも揃った」と言う。が、今ではシャッター通りだ。いま、この桜ヶ丘に住む方達にとって、ここは家に帰ってくる場所であって、桜ヶ丘が何かの目的地であるという印象を持っていないようだ。桜ヶ丘は「行く」場所ではなく「帰る」場所。ここに住んで、出かける時には他の土地に行く。

私は、せっかく桜ヶ丘で書店を始めたのであれば、ここが目的地になるような土地にしたいと思っている。この4ヶ月で、冒険研究所書店に遠くからわざわざ来てくれる人がたくさんいる。きっと、その人たちは私が書店をやっていなければ桜ヶ丘に来ることはなかっただろう。まだ数は圧倒的に少ないが、桜ヶ丘を目的地として足を運んでくる人がいる。

そういう人を増やしたい。それは、書店一店舗だけでできることではないので、周囲のお店や活動とも連携しながら、みんなで街を盛り上げて行く必要がある。

全ては、書店を始める前には気付かなかったし、思いもしなかったことだ。

今後の展望

販売用ではない、閲覧用の旅の資料庫を作る。

40年以上の歴史を持つ「地平線会議」という旅の有志組織がある。気になる方は検索してください。

日本の旅、探検、冒険、に関わる第一線の人たちは、ほぼ全てなんらかの形で地平線会議につながっていると思う。その代表が江本さんという元新聞記者の方である。古くは田部井淳子さんのエベレスト女性初登頂を現場で取材したり、植村直己さんの北極点到達を取材したり、要は日本の冒険探検界の生き字引みたいな方である。

私もお世話になっているのだが、2ヶ月ほど前に江本さんから連絡いただき「荻田くんの書店に、僕の蔵書を全部寄贈するから、もし資料庫のような物を作るなら活用して」と言っていただき、段ボール100箱以上の蔵書を受け取ってきた。

チベット、ヒマラヤ、極地、といった江本さんの専門分野から、地平線会議で追いかけてきた40年間の日本の冒険の歴史が全て詰まった蔵書と資料だ。

それを、これから整理編集し、誰でも無料で資料として閲覧できるようにしたいと思っている。

また、そんなことを計画していたら、書店の近所にとんでもない方が住んでいらっしゃった。説明すると長くなるが、チベット関連の蔵書を大量にお持ちで、おそらく日本で手に入る洋書和書のチベット関係本は全て集めた、という方がいらっしゃった。

江本さんの蔵書を引き受けたことなどお話ししていたら、その方の2000冊以上のチベット関係書籍も、その資料庫に寄贈するとおっしゃっていただくではないか。

これはおそらく、とんでもない資料室の蔵書になってしまう。もはや、ここだけで置き切れる量でもない気がしてきた笑

という計画を進めている。書店という販売を主体とした場と、資料室という閲覧を主体とした場を共存させることで、広く「本」に触れ、「知」に出会う場を作っていく。

お知らせ

ということで、最後になりますが書店からのお知らせです。

10月からは、冒険研究所書店ギャラリーでは「角幡唯介 北極の10年」展を行います。

角幡展

これまで公開していなかった冒険映像の初公開や、スペシャルトークなどもありますので、ぜひご参加ください。


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