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100年前に書かれたクソデカ感情百合小説『返らぬ日』

先日、本屋をうろうろしていたら、素敵な表紙が目に留まりました。

河出書房新社より引用https://www.kawade.co.jp/img/cover_l/9784309419732.jpg

読んでみると、以下の書き出しが目に留まります。

鐘ひびきてー
放課後の音ーそれは一時間ごとに鳴るものながら、かつみは、わけても終りの鐘の音を哀れ深い余韻に思わずには居られない。

返らぬ日p.1

いささかの戸惑いを覚えつつ奥付を見ると初単行本が昭和2年とあります。
今から100年前に書かれた小説だったのです。帯の推薦文には
「これは、百合がまだ徒花であった頃の、傑作少女小説である。」
と書いてあります。百合というジャンルが定着するずっと前に書かれていた女性同士の関係性を書いた小説だということをこの推薦文があらわしているのです。
当たり前なのですが、仮名遣いが現代人にはなじみがなく読みやすいとはいいがたいです。しかし、少女のうつろげで目がくらむような感性がキャプチャされており少しも古臭くは感じません。

白眉というべきは主人公のかつみが1つ年上である彌生に一目ぼれする描写です。

かつみは今輝ける女人像の前にひれ伏す≪女性美≫への礼賛者であった。此の世では実現しあたわぬと思いしほどの思慕の焔と恋情の血潮の沸(たぎ)りを弥生によって完全に与えられ尽したのはかつみだった。
いっそー死んでしまうー
かつみは弥生に逢い初めた日頃、こんなに切ない気持だった。

返らぬ日p.16-17

かつみの心情がこんなにも力強く、それでいてなんとも危うく表現されているのです。
現代だと「尊い」や「クソデカ感情」のようなスラングであらわされるような強い気持ちが100年前に鮮やかに表現されていたことに驚きを覚えます。
そのみずみずしさは現代人にもしっかりと届くのではないでしょうか。気になった方はぜひお手に取ってみてください。

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