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Love小諸酒(Scene7)

「千葉酒をメインでやっております。」
そうは言っていても、全部が全部千葉のお酒だけと言うわけでもない。千葉以外のお酒も一定割合用意するようにはしている。だいたい千葉酒8:その他2というくらいだろうか。

 千葉酒以外はどんなお酒があるのかと言うと、その殆どは僕達が旅先で出会ったお酒だったりする。僕は山登りが趣味ということもあって、出先に酒蔵があると入らずにはいられないし、買って飲んでみずにはいられない。必然、所謂“山の酒”の割合は多いような気がする。山とお酒は切っても切れない関係だから、山に行けば酒はある。飲み屋の立場からしたら実益を兼ねた趣味である。

 今回は山岳会の研修山行で、長野県は小諸に行く機会があった。小諸城といえば個人的に好きな戦国武将の仙石秀忠で知られるているが、調べてみるとやはり酒蔵もあった。大塚酒造さんという蔵。これは言ってみたいと直感し、研修前に早入りして酒蔵に訪れたのだった。



酒蔵正面から

大塚酒造について

 創業天保2年(1831年)、180年続く歴史ある酒蔵は、小諸駅の北側、北国街道の宿場街として栄えた風情ある街並みの一角に佇む。信州の酒造好適米と、浅間山系の伏流水で醸される小さな蔵である。吹きすさぶ寒風は“浅間おろし”と呼ばれるようで、訪れた日も風の冷たさが印象的だった。つい先日降った雪がまだ道にも残っている。静かな場所だ。

 大塚酒造のホームページによれば、酒造りの特色はやはり“硬水仕込み”にある。信州は水が豊かだ。各山岳から流れて来る伏流水にはそれぞれ違いがあるようだが、全体的に長野県の酒造りは軟水主体だと思っていた。それどころか「軟水しか無い」と思い込んでいた。だから、調べてみて浅間山系の水は硬度が高いと言うことがわかった時は驚いた。大塚酒造は、そんな信州でも珍しい醸造環境にある。

蔵内訪問時は、蔵人さんが醸造器具の清掃を
行っているところにお邪魔してしまった。

 千葉県の水質も中硬水が一般的である。平均硬度を見れば全国二位という環境だから、日頃から親しんだ水と似ているといえば似ている。そもそも水量は圧倒的に違うので「似ている」という言葉が適切かどうかは疑問だが、硬水で仕込んだ日本酒は個人的に肌に合う。

蔵内で浅間嶽が買える。

 ミネラル豊富な硬水で仕込む酒は一般的に味に輪郭のあるキレの良い酒になるというが、大塚酒造はそこに控えめな香りと瑞々しいコク、飽きない呑み口を意識するそうだ。
 ちなみに、佐久水道企業団によれば浅間山系の水質は、平均硬度は150mg/L〜200mg/Lになる。八ヶ岳山系の水質は平均硬度20mg/L~60mg/Lというから、同じ県内でも水質の幅が大きい。必然的に、仕上がる酒のバリエーションも様々になるのか。長野県という日本酒先進県の酒は統一感のある印象ばかりがあったが、改めて勉強しないといけないなと反省した。山好きだったらなおさらだ。


大塚酒造のお酒をいくつか買って、後日飲んでみた。まだ全てを飲みきった訳では無いが、どれも非常に美味しかったので備忘録として残しておこう。

①浅間嶽 純米生酒 献寿

使用米:長野県産美山錦
精米歩合:59%
アルコール度数:16%
口当たりから濃醇さを感じる。甘旨な感じだなと思いきや、後口のキレが良いので辛口が好きな人もハマる。生酒らしいボリューム感があって、醤油系の料理にめちゃくちゃよく合った。

②純米吟醸 無濾過生原酒

使用米:長野県産ひとごこち
精米歩合:55%
アルコール度数:17%

浅間嶽で一番最初に開けたのがこれだったが、衝撃を受けた。旨いなぁ。甘旨に柑橘系の酸味にほろ苦さがある。HP紹介にグレープフルーツの様なという表記があったけど凄く納得する。ミネラル感とフレッシュさにあふれて、思わず笑みが溢れてしまう。

③純米吟醸 山恵錦

使用米:長野県産山恵錦
精米歩合:55%
アルコール度数:16%
「ごめんやっぱ長野すげぇわ。」と言いたくなる。山恵錦は2017年に品種登録された長野県のオリジナル酒米。山田錦に並ぶ酒米を作るという県の覚悟を感じる。山恵錦を使った浅間嶽は今回購入した他商品と少し毛色の違う仕上がり。清涼感と硬水由来の苦味を併せ持つスッキリとしたタイプ。
長野県の酒も常に進化していくんだなと、認識を改めなければならないと思わせてくれた一本。

④本醸造

使用米:長野県産ひとごこち
精米歩合:70%
アルコール度数:15%

「こういうのでいいんだよ…」とHPで紹介されている。飲んでみて納得。温度を選ばず、どう飲んだって美味しい。程よい熟成感が小諸の古き良き町並みを想い起こさせるザ•クラシック。


⑤普通酒

使用米:長野県産風さやか
精米歩合:70%
アルコール度数:15%

開栓と同時にお燗のおかわりをねだるお客さん続出のインパクト。キレよく体に染み込んでいく、これはどう考えても進むよな…。昔から地元の人達にも親しまれた歴史ある普通酒。個人的には蔵元のInstagramの投稿にあった社長の「普通酒が旨く造れなくて酒蔵とかたれるか」という一言がめっちゃ沁みる。

⑥純米酒

使用米:長野県産美山錦
精米歩合:59%
アルコール度数:15%


先ほどの献寿の火入れバージョン。少し落ち着いた純米は「お米感」たっぷりだなと思う。飲み飽きせず、一杯の満足感もあるお酒。好きだなぁ。

⑦純米吟醸 辛口

使用米:長野県産ひとごこち
精米歩合:59%
アルコール度数:16%

 個人的には、浅間山系の水を最大限体現したお酒だと思う。ミネラル豊富な硬水は酵母の発酵を促して、しっかり発酵させたお酒は甘みの少ない辛口になる。甘みの少なさに、硬水由来の優しい苦味が合わさった味わいは「ドライ」と表現するにふさわしく、これを飲んだ時に小諸の街を歩いた時に吹いた冷たい風、浅間おろしを思い出した。冷やして飲めばドライ、少し温めれば旨辛と、多彩な表情に惚れてしまう…なぁ


まだまだ飲むほどに感想が湧いてきそうなお酒を前に、また素晴らしいお酒に出会ってしまったと嬉しくなる。小諸の街を、今度は妻と歩いてみたい。浅間山を眼前に臨む黒斑山を、今度は仲間と訪れてみたい。お酒や歴史を通してまた行きたい土地が出来ることは、この上ない幸せだ。


黒斑山の向こうに顔をのぞかせた浅間山


一部引用
【大塚酒造】https://www.asamadake.com/
【佐久水道企業団】https://www.sakusuidou.or.jp/?page_id=28#:~:text=%E7%A1%AC%E5%BA%A6%E3%81%A8%E3%81%AF%E3%80%81%E3%82%AB%E3%83%AB%E3%82%B7%E3%82%A6%E3%83%A0%E3%82%84,L%E3%81%A8%E3%81%AA%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82

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