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仕事が好きでも、好きでなくても。

「好きを仕事にしよう!」とかなんとか、人はよく言うけれど、現実は、もともと興味があったわけではない仕事に就いて、粛々と働いている人が大多数なのだと思う。そういう人たちが、「好きを仕事にする」ための転職をはかるよりも、今、手の中にあるその仕事をゆかいにすることの方が先なんじゃないかと、私なんかは思っている。

 その仕事が嫌いで嫌いで、毎朝気が重くて重くて、這うようにして職場に通っているなら別である。でももし、その仕事が、興味があるわけではないけれど「苦ではない」程度であれば、続けてみてもいいんじゃないかなと思うのだ。

 少し前に、NHKの朝ドラ「スカーレット」で、こんなひと幕があった。大阪の小さな下宿屋さんに、家事雑用をしにやってきたヒロイン戸田恵梨香に、そこのおかみさんが言うのだ。

「この仕事は、おうちの手伝いとは違う。家事はおおかた、誰にでもできると思われてるさかい、どんなに心をこめても、誰もほめてくれへんのやで!」

 そう聞いて、戸田恵梨香はひと晩考える。そして言うのだ。

「大久保さん(←そのおかみさん)は『誰にでもできる』と言うけれど、ほんまにそやろか。大久保さんが作るごはんは、大久保さんにしかでけへんのとちゃうやろか」

 それだ!!と私は膝を打った。私の周りには、こなしてるタスクはとんでもなく超人的なのに、「家事なんて誰にもできるから……」とか「みんなやってることだから……」って、自分のことをうまくほめてやれない母親たちがいっぱいいるのだ。母親業だけではない。一般企業で、社会の一部をしっかり支えながら、「大した仕事じゃないから……」って謙遜してる仕事人がなんと多いことか。

 「あなたにしかできない仕事」。それは、職種の珍しさで決まるものではない。発想の突飛さで決まるものでもない。今、その手の中にある仕事に、あなたが、他ならぬあなたとして、いきいきと携わったかどうか。それがすべてなんじゃないかと、最近コールセンターで電話を取りながら思うのだ。無機質に、決められたせりふだけを繰り返していると、そのやりとりからはわりと何も生まれない。けれどほがらかに、自分まる出しで応対すると、「ありがとう」とか「がんばってね」が返ってきたりする。

 「誰にでもできる仕事」に辟易する前に。自分にしかできない芸当を、今日これから、この場所で、やらかしてやろうじゃないか。(2019/11/28)

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