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【第28話】逃走アニキの逃走劇

以前紹介した、父に飛び蹴りされた逃走アニキ。今日は、彼が本当に逃走した時のことをお話しようと思う。

*読む時のお願い*
このエッセイは「自分の経験・目線・記憶”のみ”」で構成されています。家族のことを恨むとか悲観するのではなく、私なりの情をもって、自分の中で区切りをつけるたに書いています。先にわかって欲しいのは、私は家族の誰も恨んでいないということ。だから、もしも辛いエピソードが出てきても、誰も責めないでください。私を可哀想と思わないでください。もし当人たちが誰か分かっても、流してほしいです。できれば”そういう読み物”として楽しんで読んでください。そうすれば私の体験全部、まるっと報われると思うんです。どうぞよろしくお願いします。

*読む時の注意*
このエッセイには、少々刺激が強かったり、R指定だったり、警察沙汰だったりする内容が含まれる可能性があります。ただし、本内容に、登場人物に責任を追求する意図は全くありません。事実に基づいてはいますが、作者の判断で公表が難しいと思われる事柄については脚色をしたりぼかして表現しています。また、予告なく変更・修正・削除する場合があります。ご了承ください。

逃走アニキは、せっかく入った高校を中退している。いつの間にか学校に行かず、ひがな1日漫画喫茶で時間を潰していたそうだ。両親の勧めで塾にも行っていたのだが、気づけばそちらも全く行っていなかったようだ。

高校を中退した上に、塾のお金が無駄になったと父は激怒。その怒りをぶつけられ、兄は父と喧嘩しては、家中の壁に穴を開けまくって暴れていた(どう考えても自業自得なのだが…)。

夜中には家をこっそり抜け出して、彼女の家に行っていたことがよくあった。

その当時中学生だった私は、逃走アニキと仲が悪かった。気に食わないことがあると、八つ当たり矛先はいつも私。悪びれもなくパシリに使われ、きっかけがある度に喧嘩し合う毎日。だから、彼が彼女に会いにこっそり家を抜け出した時は、父に告げ口して日頃の鬱憤を晴らしていた。今となっては、我ながら性格の悪いことだと思えるが、当時はそんなことでしか仕返しができないくらいに、精神的に抑えつけられていたのだ。

例のボロ屋に住んでいた間は、逃走アニキとは同室だった。狭い部屋だ。彼がいないことなんて、すぐに分かる。大きなクマのぬいぐるみを身代わりに布団にもぐりこませて、ベランダから抜け出すのだ。マンガのようだが、本人は至ってガチだ。子供だましもいいところ。私はすぐさま父の元に走っていく。

 「お父さ〜ん!お兄ちゃんが、また抜け出したよ〜!」
 「何やて!?また、あいつ…!」

飼い犬が脱走したかのような言い草を残しながら、父は車の鍵を握って家を出ていく。もちろん、兄を連れ戻すためだ。

…しばらくして。

父に連れ戻され、帰ってくるや否や、兄は私をにらみつける。

 「お前、オヤジにチクったやろ?」
 「うん!」
 「ふざけんなよ!お前のせいで、連れ戻されたやんけ!」
 「お兄ちゃんが悪いんやん。しかも、カモフラージュ下手すぎやし。そりゃバレるやろ。」

こんなやりとりを経て、私に告げ口さるとわかっても、彼はその後も懲りずに家を抜け出していた。幸い彼は、私に手をあげてくることはなかった。それは救いだったと思う。

ちなみに私はあるタイミングから、告げ口をやめた。理由は、簡単。逃走アニキが(何故か突然)私にプリペイド携帯を買ってくれたからだ。いくら親に頼んでも買ってもらえなかった携帯。唯一友達とつながる手段。それを与えてくれた彼の株は、私の中で一気に跳ね上がった。

物で釣られたかたちにはなったが、結果的にこれはウィン・ウィンな出来事だった。私は携帯をゲット。逃走アニキは私が告げ口を止めたことで、心置きなく彼女の家に行けた。もしかしたらそれが狙いの”投資”だったのかもしれないが。

結果的に、逃走アニキは私よりも早い段階でバッタモン家族を抜け出した。というより、いつの間にやら、彼はどこかに逃げ去っていたのだ。いつの間にか、学校を辞めていたように。いつの間にか、クマのぬいぐるみを身代わりに家を抜け出していたように。

現在彼は行方不明。最後に確認した彼の所在は、私の実母の住んでいた県にいたはずだが…生きているとは思うが、いったいどこまで逃走したのだろうか。

いくらバッタモン家族だとは言え、元気にしているといいのだが。


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