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自然体でつながる:テクニックを超えたコミュニケーションの力

はじめに

私たちが日々直面するコミュニケーションの課題は、技術が進歩するにつれて、ますます複雑化しています。実際に筆者が支援している企業様からも、業務の生産性向上に関わる技術的な話以外に、「メンバー同士が会話していない」「情報伝達がうまくいっていない」「チームがまとまっていない」など、メンバー間や経営者―従業員間のコミュニケーションに関する相談が多いです。しかし、コミュニケーションの本質は変わらないと考えています。それは、人と人とのつながりを深め、理解し合うことと理解しています。このシンプルだけど根本的な真実から離れることなく、私たちはもう一度、コミュニケーションの「本質」に立ち返る必要があるのではないかと思い至りました。

この記事では、テクニックや方法論を超えた、人との深いつながりを築くためのコミュニケーションの力に焦点を当てます。多くのコミュニケーション書やコーチングスキルなどが技術やスキルの向上に注力している中で、敢えて自然体でいることの重要性に言及していきます。自分自身と相手を真に理解し、受け入れることから始まる、本質的なつながりを深める方法を、筆者なりの理解で紹介します。

コーチングスキルでは有名な「ミラーリング」「ペーシング」「バックトラッキング」といった技術も有用かもしれません。しかしながら、それらのスキルを意図的に使ってしまうことで却って相手の心が離れてしまうこともあります。それらスキルを適切に活用するには、まず自分自身が自然体でいることが基盤となるのではないでしょうか。この記事を通じて、技術を超えた自然体でのコミュニケーションの美しさと、それが私たちの人間関係や社会にもたらすポジティブな影響も考えてみたいです。

日常生活での対話から職場でのやり取り、さらには困難な状況でのコミュニケーションに至るまで、この記事が皆さんのガイドとなり、より豊かで意味のある人間関係を築くための一助となれば幸いです。

ちなみに、この記事の元になっているのは筆者自身の体験です。仕事がなく困っていったときにセールスのセミナーを受講しました。そこで、これらコミュニケーションスキルを学んだのですが、それはどこか本質的でなく表面的なテクニックであって、実際に練習で講師にこのテクニックを使われてみて不快に思った経験があります。それ以来ずっと、コミュニケーションはテクニックではないと確信し、その本質は何かをずっと考えてきました。そうした背景もご理解いただけるとありがたいです。


第1章:コミュニケーションの「本質」に戻ろう

まず、コミュニケーションの技術やテクニックに頼ることの落とし穴を詳しく探り、自然体でいることの重要性と人とのつながりを深める本質的な方法を掘り下げます。技術やテクニックの適切な使用がコミュニケーションを豊かにする一方で、自然体でいることの本質的な価値と、人との深いつながりを築くための基本的な方法を一緒に考えてみましょう。

コミュニケーション技術の落とし穴

たとえば、ミーティングで意見を述べる際に、「影響力のある話し方」のテクニックを用いることがあります。声を張る、腹式呼吸でお腹から声を出すなどがそれです。しかし、このテクニックを使おうとするあまり、伝えたい言葉や自分の想いとは別のニュアンスで伝わってしまったり、自分らしさが失われてしまったり、自分の本心から離れた発言をしてしまうなど、結果的に同僚から信頼を失う原因にもなりかねません。
また、面談などの場面でも使えるテクニックとして紹介されているものとして、45度の位置に座って相対しないとか、話を引き出すとかも同様です。結局そうしたテクニックを使うことで言いたいことが伝えられなくなったり、聞きたいことが聞けなくなるなんて本末転倒です。
これはほんの一例ですが、テクニックに頼りすぎると自分の意見や感情が正直に伝わらず、人との本質的なつながりが損なわれる可能性があります。

自然体でいることの重要性

自然体でいることの重要性を示す具体例として、友人や家族との関係が挙げられます。親しい人との会話では、自分を飾ることなく、ありのままの自分をさらけ出すことができます。このような関係では、相手も自分もお互いを深く理解し合うことができ、より強固な信頼関係が築かれています。このコミュニケーションにはテクニックなんて存在していません。職場でも、この「自然体」の姿勢を取り入れることで、より真実味のある関係を築くことができるはずなのです。

人とのつながりを深める本質的な方法

人とのつながりを深める方法として、「アクティブリスニング」があります。このアクティブリスニングというのは、相手の話を注意深く聞き、理解しようとする姿勢を示すことです。たとえば、相手が悩みを打ち明けたとき、ただ解決策を提示するのではなく、「それは大変だったね」とまず共感を示すことで、相手は自分が理解され、受け入れられていると感じます。このような共感的な聞き方は、人との間に深い信頼とつながりを築く基礎となります。「共感してほしかっただけなのに解決策を押し付けられて嫌な気分になった」というようなことは日常的に起きてしまっていますね。

第2章:ミラーリングとペーシングの真実

この章では、コミュニケーションスキルとして知られるミラーリングとペーシングの概念をしっかりと理解していきます。その上で、それらの実践における基本原則と限界を明らかにし、自然な関係構築におけるこれらの技術の誤解を紐解いていければと思います。ミラーリングとペーシングが単なるテクニックではなく、深い人間関係を築くための基盤であることを理解し、これらの技術を自然体で、心からの理解と共感をもって用いる方法のヒントにします。

ミラーリングとペーシングの基本と限界

ミラーリングは、相手の身体言語や話し方を微妙に模倣することで、相手との共感や信頼を築く技術です。極端な例ですが、相手が手を上げたら手を上げたり、頭を掻いたら頭を掻き、足を組んだら足を組むなどの動作として鏡に映したように動くことです。
ペーシングは、相手の感情や思考のペースに合わせることで、深い理解と同調を生み出すプロセスです。相手が落ち込んでいたら落ち込み、相手が第三者に対して怒っていたら一緒に怒り、涙を流したら一緒に涙を流すなど、感情を合わせていくことです。
しかし、これらの技術は、やりすぎると不自然さや操られている感覚を相手に与え、逆効果になることがあります。本当の信頼関係や理解を築くには、これらの技術を自然に、そして適切なバランスで用いることが重要なのです。

自然な関係構築への誤解を解く

多くの人がミラーリングやペーシングを単なるテクニックと見なしています。特に、駆け出しのコーチやキャリアコンサルタントなどの方々も、面談時のテクニックとして理解し使おうとする人が多くいます。しかしながら、これらのテクニックは深い人間理解と共感に基づいたものでなければなりません。
たとえば、友人が困難な時期を経験しているときに、その感情を真に理解し、共感を示すことがこの技術の真髄です。言い換えれば、感情を真に理解し、共感したときには、テクニックを意識することなく自然とこのテクニックが示すことをできてしまうのです。自然な関係構築では、技術的な側面よりも人間としての対話を優先することの方がよっぽど重要です。

人間関係における自然な同調の力

真の同調は、人間関係において最も強力な結びつきを生み出します。親しい友人同士が自然に似た言葉遣いやジェスチャーを使うようになるのがその良い例です。この無意識の同調は、深い信頼感と安心感を生み出し、人間関係をより強くします。実生活でこの力を活用するには、相手に真の興味を持ち、共感し、理解しようとする姿勢が必要です。繰り返しになりますが、表面的なテクニックではこの人間関係は構築できないと確信しています。

第3章:バックトラッキングとラポール構築の誤解

この章では、第2章と同じくコミュニケーションスキルであるバックトラッキングと、ラポールと呼ばれるコミュニケーションの重要な要素について触れていきます。やはりテクニックだけではコミュニケーションの本質にはたどり着けないのではないでしょうか。一緒に考えていきましょう。

バックトラッキングの効果とは?

バックトラッキングは、コミュニケーションにおける重要なテクニックの一つとされています。これは、相手の言葉を繰り返し、確認することによって、相手が話した内容を正確に理解していることを示し、相手に対する理解と関心を深める手法です。いわゆる“オウム返し”ですね。しかし、バックトラッキングの効果は、ただ相手の言葉を反復するだけではなく、その過程で相手の感情や意図も理解し、共感することにあることをセットで理解している人が少ないのではないでしょうか。
筆者が関わった良い事例では、あるプロジェクトチームの会議で、チームリーダーがプロジェクトの遅れについて話しました。チームメンバーの一人がバックトラッキングを用い、「つまり、プロジェクトの遅れが主にリソースの不足によるもので、それがチーム全体のストレスにつながっているということですね?」と確認しました。この言葉がチーム内での現況の理解を深め、リーダーとメンバー間での共感も深まり、解決策を話し合う土台が作られましたことがあります。
しかしながら、この良い事例は、バックトラッキングを意図的に用いたわけではなく、純粋により確かに理解しようとした結果、バックトラッキングと呼ばれる方法を用いていたということであって、結果を求めてスキルを使ったわけではないのです。スキルだけを学んだなりたてのコーチの方などは、話されている内容の理解をしようとすることなく、ただ単にバックトラッキングを使用する人がいますが、それでは理解や共感が深まらないどころか、「ちゃんと聞いてろよ!」と怒りを買ってしまうことにもなりかねないでしょう。

ラポール構築の罠

ラポールとは、フランス語由来の言葉で、元々は「関係」や「つながり」といった意味を持っています。心の架け橋をイメージしてもらえると良いでしょう。心理学やコミュニケーションの分野では、人々の間における信頼と相互理解に基づくポジティブな関係性を指す用語として使われているものです。具体的には、相手との間に心地よい、信頼感や共感を感じさせる種類の関係を築くことを意味します。つまり、ラポールがあると人々は互いに安心感を持ち、オープンで誠実なコミュニケーションが可能になり、これは相手との共感や共通の理解を築くことによって達成されることが多く、人間関係の質を高め、効果的な対話を促進しうるものです。
このラポール構築は、誤解されがちな側面もあります。一部の人々は、ラポールを急速に構築しようとして、表面的な共通点を見つけ出し、それを過度に強調する傾向があります。これは、相手との深いつながりを作るよりも、むしろ距離を生むことがあります。「それは私と一緒ですね」とちょっと話しただけで表面的に言われてもピンとこないどころか軽く見られている印象になってしまいますよね。
たとえば、営業担当者が顧客との初対面で、顧客の趣味や関心事に無理やり同調しようとして、逆に顧客から疑念を持たれることもあります。顧客は、営業担当者が自分のことを本当に理解しようとしているのではなく、単に売り込みたいだけではないかと感じるかもしれませんし、今この記事をお読みの方にも心当たりがある方も多いのではないでしょうか。

真の信頼関係を築くために

真の信頼関係を築くためには、表面的なラポール構築を超え、相手の価値観や信念、感情に深く共感し、理解を示すことが重要です。これには、時間をかけ、相手の話に耳を傾け、相手の立場に立って物事を考える能力が必要ですが、決して表面的なスキルではなことはお伝えしておきたいと思います。
筆者の体験談ですが、ある企業のマネージャーは、部下の一人が最近パフォーマンスが落ちていることに気づきました。直接的な批判を避け、まずはその部下と個別に時間をとり、何が原因で悩んでいるのかをじっくりと聞き出しました。部下は家庭の問題を抱えていることを打ち明け、マネージャーは部下に対して理解とサポートを示し、残業が少なくなるようにする、あるいは出張を失くすなど、他のメンバーにも協力を仰ぐなどして対応しました。この経験は、二人の間の信頼関係を大きく深め、部下のモチベーション回復につながりましたが、時間をかけた対話がそのベースにあることは押さえておきたいポイントで、決して表面的なコミュニケーションで解決したわけではないのです。

結局、バックトラッキングやラポール構築は、相手に対する真の関心と理解から始まります。技術やテクニックを超えた、心からの共感と支援が、真の信頼関係を築くカギです。自然体で接することが、このラポール構築プロセスを自然で効果的にするための最良の方法と言えるでしょう。

第4章:テクニックを超えた会話のスキル

さて、第2章と第3章でテクニックだけではコミュニケーションの本質は得られないと主張してきましたが、この章ではそれらコミュニケーションテクニックを超えた会話について考えてみます。

テクニックに頼らない会話術

テクニックに頼らない会話術とは、ペーシングなどのスキルを使って単に相手に合わせることや、バックトラッキングなどの決められたスクリプトに従うのではなく、真の意味で相手の言葉や感情に耳を傾け、心からの関心を持って接する会話です。このアプローチは、相手との深いつながりを生み出し、より充実したコミュニケーションを実現することができます。
筆者が受けた体験では、あるコーチは、筆者が感じている不安を和らげるために、質問のリストや典型的な励ましの言葉を使うのではなく、クライアントの話に静かに耳を傾け、感情を共有することに焦点を当てていました。それと同時に、筆者の“エネルギーの漏れどころ”に注意を払い、その点を指摘するとともに共感してくれました。この方法で筆者は、真に理解されたと思え、受け入れられていると感じ、問題を開放的に話すことができました。

相手を理解するための聞き方

テクニックに頼らない会話とは相手を理解するための聞き方であるとして、それをどのように行えばよいのかを考えてみました。筆者が導いた一つの答えとしては、相手を理解するための聞き方とは、単に話を聞くのではなく、相手の言葉の背後にある意味や感情を読み取ることを意味するのではないかと考えます。これには、アクティブリスニング(能動的聴取)が重要で、相手の話に完全に集中し、適切な質問を通じて深く理解しようとする態度が必要です。
学校などで良くある事例ですが、教師が生徒の学習困難に対処する際、単に生徒の話を聞くのではなく、生徒の言葉や表情や体言語から、その生徒が直面している具体的な問題や感情を理解しようとする教師は、生徒一人ひとりに合わせたサポートを提供でき、生徒の学習へのモチベーションを高めることができるでしょう。
教科書的に習ったスキルや質問だけで問題を解決しようとすると、却って生徒の心は離れていってしまいますよね。

真の共感を生むには

真の共感を生むためには、相手の感情や経験を自分のものとして感じることが重要です。これは、単に相手の言葉を理解することを超え、相手の立場に立って物事を見ることを意味します。言葉で言うことは肝がんですが、これはテクニック的なスキルではなく感情の問題でもあるので人によっては永遠にできないことかもしれません。
こちらも良く言われたりテレビドラマにもなるような事例ですが、医者や看護師などの医療従事者が患者の不安や痛みに対応する際、患者の症状や不安を詳しく聞き出し、その感情を共有することに努め、患者の話に共感し、安心感を提供する言葉を選び、患者が自身の状態をより良く理解し、治療に前向きに取り組むことができるようにサポートすると、患者にとってとても良いサポートになる事例があります。

これらの事例は、テクニックを超えた会話のスキルが、人との深いつながりを築き、信頼と理解を深めるためにいかに重要であるかを示しています。真のコミュニケーションは、心からの関心と共感から生まれるものです。この章のタイトルは“会話のスキル”としましたが、もはや“スキル”ではないのかもしれませんね。

第5章:自然体でいるための心構え

この章では、会話を自然にすることがコミュニケーションの本質であることに対して、自分自身がどのように自然体でいるかについて考えてみます。

自分自身を受け入れる

自分自身を受け入れることは、自然体でいるための基礎を築く上で最も重要なステップです。自己受容は、自分の長所と短所を認め、その上で自分を肯定的に見る能力を意味します。自分自身を理解し、受け入れることができれば、他人との関係もより健全に築くことができます。
実はこれはコーチングの重要な手法の一つでもあります。実際にコーチを受けると「あるものに目を向けましょう」「ありのままの自分を受け入れましょう」という言葉をかけられます。冒頭からコーチングスキルだけでは本質的なコミュニケーションは取れないと言ってきたことから矛盾するかもしれませんが、私が理解するところの“自分自身を受け入れる”概念は、単に自分自身を理解することにはありません。自分自身を理解することはスタートとして、むしろ“じゃあどうするか”を考え、その考えたことを行動に移している状態を意味しています。
繰り返しになりますが、自分を受け入れた先、何に対してどう努力するかを決めて行動している状態にあることが大事なことです。そうでなければ、本当の意味で自分を受け入れているとは言えないと考えています。
筆者の知り合いの方である起業家の方は、自分の弱点である公の場でのスピーチに対する恐怖を乗り越えるために、まずはその恐怖を受け入れることから始めたそうです。自己受容を通じて人前でスピーチをするトレーニングを積み、彼は自信を持ってスピーチに挑むことができるようになり、聴衆とのより良い関係を築くことができるようになりました。
こうした自己受容と努力をしている人こそが自然体で他人のお話を聞くことができるのだと思います。

相手をそのまま受け入れる

一方で、自分自身を受け入れるだけでなく、他人をそのまま受け入れることは、効果的なコミュニケーションと深い人間関係の構築に不可欠なことです。相手の価値観や意見、感情を理解し、尊重することが求められます。これにより、相手も自己開示をしやすくなり、信頼関係が深まります。
自分自身を受け入れた経験があるのであれば、自分自身を受け入れるために必要な勇気や辛さが分かります。従って、相手をそのまま受け入れることは、自分自身を受け入れることの共感でもあると思っています。
筆者の旧友である学校の教師の例ですが、学校は教師一人に対して生徒は何十人といます。その何十人を毎年相手にするのはとても大変なことなのです。そこで、クラスにいる異なる背景を持つ生徒たちをそのまま受け入れることに努めたそうです。生徒一人ひとりの個性と能力を認め、個別のニーズに応じたサポートを提供することで、生徒たちは自分自身を価値ある存在として感じるようになり、みんなの前で発言することもできるようになったと言います。

自然体でいることの練習方法

自然体の会話ができるようになるためにはどのようにしたら良いのか考えてみましたが、一朝一夕で身につく方法は見つけられないですし、もしかしたらそんな方法はないかもしれません。しかしながら、一つだけ思い至ったことがあります。自己認識を高め、ストレスや不安を管理する技術を身につけることが有効なのではないかと。自分がストレスに感じることは何なのか、何を不安と感じるのかを理解し、それを先回りして対応することで、自分自身にストレスがかからないようにしたり、心の準備をしておいたり、不安などは明確に言語化したりすることで、自分自身の自然体を保つことができるのではないでしょうか。
こちらは極端な例ですが、仕事のプレッシャーに対処するために瞑想を始めまたマネージャーがいました。瞑想を通じて、彼は自分の感情や反応に気づくことができるようになり、職場でのストレスを先回りして対処することで効果的に管理し、結果的にチームメンバーとのコミュニケーションも改善されました。

自然体でいるための心構えは、自分自身と他人との健全な関係を築く上での基盤となります。自己受容と他者受容を通じて、私たちはより誠実で開かれたコミュニケーションを行うことができるようになり、それが結果として深い人間関係を生み出す土壌となります。

第6章:実践!自然体でのコミュニケーション

それでは、自然体のコミュケーションはどんな場面でどんなことを意識してやっていけば良いのかを一緒に想像してみましょう。

日常生活での自然体コミュニケーション

日常生活での一番身近な場面としては家族をイメージすると良いでしょう。日常生活における自然体コミュニケーションは、家族や友人との関係を深め、より充実した生活を送るためのカギです。自分自身を偽らず、相手の話に真摯に耳を傾けることで、日々のコミュニケーションはより意味のあるものになります。
たとえば、週末の計画について話し合う際、一人一人の意見を真剣に聞き、それぞれの希望を尊重することで、家族全員が満足する活動を計画できるかもしれません。

職場での自然体コミュニケーション

職場では、自然体でいることがプロフェッショナルな関係を築く上で重要になってくるでしょう。上司と部下、または同僚間でのオープンなコミュニケーションは、信頼感を高め、効率的なチームワークを促進します。決して、テクニックだけを意識したコミュニケーションにはしないようにしてください。
たとえば、チームで月に一度のフィードバックセッションを設け、メンバーが互いに建設的な意見を自由に交換できるような機会を作ることは良いアプローチかもしれません。自分を受け入れたうえで努力し、相手を受け入れて、相手を理解するための適切な質問をしながら共感することでメンバーはお互いの強みをより理解し、チームとしての目標達成に向けた協力体制が強化される結果をもたらす可能性があります。

困難な状況での自然体コミュニケーション

予想外のことが起きたりするなどの外的要因などで仕事やプロジェクトがうまくいかない場面や、誰かが失敗してしまったなどの内的要因によって重苦しい雰囲気になるなど、困難な状況や対立が生じた際にこそ、自然体でいることはさらに重要度が増してきます。しかしながら、相手の立場を理解し、共感を示すことで、解決への道を模索することが可能になってくると信じています。むしろ、それがないと解決の糸口も分からないまま誰かや何かのせいにして何も解決しない、好転させる方策を思いつかないのでなはいでしょうか。
組織内で意見の相違が生じることもあるでしょう。その際、リーダーは双方の意見を落ち着いて聞き、それぞれの背景や懸念を理解しようと努めます。そして、共通の目標に焦点を当てることで、双方が納得する解決策を見つけることができる可能性が必ず見えてくるでしょう。

自然体でのコミュニケーションは、日常生活から職場、さらには困難な状況においても、人とのつながりを深めるはずです。そしてそれは相互理解と協力を促進するための基本となります。自己受容と他者受容を実践することで、私たちはより誠実で有意義な関係を築くことができるのです。

第7章:自然体でいることの長期的な効果

自然体でコミュニケーションを取ることの重要性はお伝えしてきたつもりですが、自然体でいることは短期的に質の高いコミュケーションを取るだけでない長期的な効果があると考えていますので、一緒に考えていただければと思います。

人間関係における変化

自然体でいることが人間関係に与える長期的な効果は大きいものと考えています。人は本質的に、自分を理解し受け入れてくれる人に引き寄せられます。従って、自分自身が自然体でいることによって、より誠実で深い人間関係を築くことが可能になってきます。
ある社会人サークルでは、メンバー同士がお互いの価値観や意見に対してオープンで、互いに尊重し合う姿勢を持っていました。そのサークルは20数名のサークルでしたが、約半数が外国人であったためにこうした場が生まれたのかもしれません。いずれにしてもそのサークル内での人間関係は時間とともに強化され、個人の孤立感が減少し、延いてはそのサークルメンバーが所属する部署全体や部署間の結束力が高まった事例があります。サークルメンバーがそのサークル内だけでなく、別の場所でも同様のマインドを持って行動してきた結果でしょう。

自己成長への影響

自然体でいることは、自己受容のプロセスを通じて、自己成長にも大きな影響を与えます。自分自身の強みと弱みを理解し、それを受け入れることは、個人の成長と発展に不可欠です。そもそも、自分の長所や短所理解して、その先に努力することを決めて行動することまでを含めて“自分を受け入れる”と定義している筆者にとってはこれは必然のことと言えます。
ある若手ビジネスマンは、自分のキャリアにおける方向性について深く考え、自己反省の時間を持ちました。彼は自分の真の情熱と価値観を理解し、それに基づいてキャリアの転換を決意しました。具体的には、企業の一技術者からコンサルタントに転身する決心をしたのです。この決断は彼の自信と満足感を高め、より充実した職業生活を送ることにつながりました。
ちなみに、これは筆者自身の経験です。

社会でのポジティブな影響

自然体でいる個人は、社会においてもポジティブな影響を与えることができます。誠実さとオープンネスは、さまざまなコミュニティ内で信頼を得て、あらゆる方面からの協力を促進し、より良い社会的環境の構築に貢献します。
中小企業の経営者が集まるボランティア団体の事例です。リーダーが、組織内での自然体でのコミュニケーションを奨励しました。“社長”とは呼ばずにお互いをさん付けで呼ぶルールを徹底しました。そして、お互いが規模は違えど経営者であることのリスペクトを欠かさないようにとお達ししたのです。彼のアプローチは、メンバー間の信頼を深め、団体の目標に対するコミットメントを強めました。結果として、団体は地域社会でのプロジェクトにおいて、より大きな影響を与えることができるようになり、商工会や商店街イベントでの地域貢献に重要な役割を果たすようになりました。

自然体でいることの長期的な効果は、個人の生活だけでなく、周囲の人々や社会全体にも及びます。自己受容と他者受容を通じて、私たちはより充実した人生を送り、周囲の世界に対してもポジティブな変化を促すことができます。

おわりに:自然体で生きることの美しさ

コミュニケーションの表面的なテクニックに頼ることなく自然体で生きることは、私たち自身と周囲の世界との関係を根本から変える力を持っています。これは決して大げさな表現ではないと思っています。さいごに、自然体で生きることの美しさとその価値について、そしてそれがもたらすコミュニケーションの新たな可能性と、その一歩を踏み出すための勇気に焦点を当てます。

本当の自分を生きることの価値

本当の自分を生きることは、自己実現の旅の中で最も重要な最後のステップかもしれません。自分自身の真の価値観、情熱、そして強みを認識し、それに基づいて生きることは、充実感と幸福感をもたらします。マズローの5段階欲求(生理的欲求、安全欲求、社会的欲求、承認欲求、自己実現の欲求)で言えば、最後の自己実現の欲求の段階ですので、いきなりその段階に到達することは難しいかもしれません。ですが、それだけに本当の自分を生きることの価値は限りなく高いと言えるでしょう。
筆者の知り合いの作家の方のお話です。社会的な期待や他人の意見に左右されずに、自分自身の内なる声に耳を傾けることで、自分の情熱に従って執筆活動を続けています。この決断は住む場所や家族との関係など彼にとって多くの挑戦を伴いましたが、最終的には多くの読者から共感と賞賛を得ることができ、彼自身の人生においても大きな満足感を得ることができていると言います。
そうした本当の自分を生きる価値を感じるからこそ、他人の話にも興味がわき、共感でき、真のコミュニケーションが図れるのではないでしょうか。

コミュニケーションの新たな可能性

自然体でいることは、私たちのコミュニケーションスタイルにも影響を及ぼすことはここまでに記述してきたとおりです。偽りのない自己表現は、他人とのより深いつながりを生み出し、互いの理解と共感を深めることができます。反対に、表面的なテクニックを使っただけのコミュニケーションは偽りだらけであり、深いつながりが生まれることはないでしょう。
筆者が支援している企業のとある経営者は、従業員とのミーティングで自己の不安や弱点を率直に共有することで、職場内のコミュニケーションの壁を取り除きました。このオープンな姿勢は、チーム全体の信頼感を逆に高め、より創造的で協力的な職場文化を築くことに成功しました。それまで「自分は誰よりも完璧でないといけない」と思い込んでいた彼にとってはコペルニクス的転回であったと言っています。

一歩を踏み出す勇気

自然体で生きるための最初の一歩を踏み出すことは、しばしば勇気を必要とします。自分自身を客観的に見つめるだけでも勇気が要ることですし、努力する方向性を自分自身ではっきりと決断する必要があるからです。しかし、その一歩が、自分自身や他人との関係において、計り知れない価値をもたらすことになります。

自然体で生きることの美しさは、自分自身と他人に対する深い理解と受容にあります。それは私たちが持つ最も貴重な贈り物の一つであり、真の充実と幸福への道を開くカギです。
この記事では「ミラーリング」「ペーシング」「バックトラッキング」といったコミュニケーションに用いられる技術のお話から、それらスキルを理解すればするほど本質的なコミュケーションはスキルではないことを浮き彫りにしてきました。
この記事をお読みの方々は、こうしたいわゆる“カタカナ言葉”に惑わされてテクニックに頼ることなく、本質的なコミュニケーションを図っていっていただければありがたいです。



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