つまみ細工教室での職方育成制度についてお伝えしておきたいこと

祝!職方さん誕生!

教室事業をスタートさせてはや1年3ヶ月。
1期の生徒さんの中から、先週初めての職方さんが誕生しました。

正確には、「お仕事として出していたお花の検品が通り、無事に納品書を受け取った」ということになります。

そもそも教室事業の構想は、2016年、店舗移転&工房統合まで遡ります。
移転前は、町家の店舗とそこから徒歩3分程の工房に分かれていました。
移転統合することにより、制作と販売の現場を同じ敷地にし、よりフレキシブルでクリエイティブな店にしようという構想がありました。

新たな作り手の創出

当時の事業計画書の中には、教室事業についても盛り込んでありました。

新しい店舗には、離れの町家があったので、そこはオープンなクリエイティブ空間にするという構想がありました。

**観光客様向けの体験事業
地元顧客様向けの教室事業

2つに事業を軸に、離れを有効活用する**

事業計画書にはそのように書かれています。

そして、教室事業は、「新たな作り手の創出」という目標もありました。

教室にこれらる生徒さんの中から、お仕事としてのつまみ細工に挑戦したい人を選抜し、職人として育成する。

先日、この目標の第一歩が達成されました。

さて、ここでいう「職人」とは「弊社の依頼を受託し、決められた仕様に基づいて制作作業をし、出来高に応じて対価を受け取る人」を指します。

関連記事:職人と作家の違いって?

作家性や創作性を排し、求められた仕様で与えられた仕事を請け負う人、という点で、同じ商業活動でもつまみ細工作家さんとは一線を画します。

今回は、教室事業における職方制度についてお話したいと思います。

「職方」とは?

「職人」ではなく「職方」という言葉を持ってこの形態を定義したのには理由があります。
職方さんは、弊社に勤務する職人ではなく、普段の生活の中である一定の時間を弊社のリソースのために充てていただく形態となります。

私の教室に来られる生徒さんのライフスタイルは様々です。
他業種の仕事をされている方、普通にフルタイムで働いてらっしゃる方、地元の主婦の方、すでに教室を持ってらっしゃる方、minneなどで作家活動をされている方、飛行機の距離の遠方の方など多岐にわたります。

そのような方々のライフスタイルを尊重しながら、可能な時間を職人としてリソースを提供していただくための制度が「職方制度」です。

既存の「職人」ですと、これまでの生活を捨て、弊社に勤務しながらプライベートも犠牲にして修行をし、会社の利益のために労働する必要があります。

しかし、これには労使ともに大きなリスクを抱えることになります。

師弟制度のリスク

好きなことを仕事にするのは、時にとてもつらいことです。

それまでのキャリアを捨て、ひたすらつまみ、雑用もし、技術向上のためにプライベートの時間すら犠牲にし、辛くなっても趣味に逃げることもできず、好きだったはずのつまみ細工が嫌いになっても、やめてしまったら潰しの効かない技術だけが残る。

雇用側も、まだ利益にならない労働力に対し対価を払い、仕事が遅くても残業代を支払い、オーバーワークにならないように管理し、やっと仕事ができるようになった頃に独立されてそれまでの投資をふいにする。

伝統工芸の職人育成には、常にそのようなリスクを孕んでいます。

昔であれば、「丁稚奉公」という言葉に象徴されるように、一人前になるまでは住み込みで修行をし、勤務時間などという概念もなく、紹介者の手前暇をもらうようなこともできず、10年働いてやっと年季が明けて暖簾分けさせてもらい独立する、という師弟制度が成り立っていました。

しかし、今では立派な労働基準法違反です。

丁稚修行をしてきた昔の職人さんの中には、「仕事は見て盗め」や、「教えてやっている」という考え方で雇用されている方もたくさんいらっしゃいます。
私はそれを否定するものではありませんが(自分もそうやってきたので)、働いてくれるスタッフにその考えを押し付けることもできません。

「教えてやったのに後ろ足で砂かけて出ていった」
「雀の涙の給料でこき使われてろくに教えてももらえなかった」

このような軋轢は、呉服業界ではよく耳にすることです。
この件に関する是非はここでは言及しません。
お互いの同意に基づいているかどうかが大事であって、簡単に割り切れるものではないからです。

作り手をつなぐもの

その問題を解決する方法として考えたのが、職方制度です。

これまでの職人制度は、「産地」という概念のもと、地縁で結ばれた産業構造でした。

ある工芸品を、その土地に住まう人々が専業で生産する

「産地」という概念は、行政指定の「伝統工芸品」の要件にも盛り込まれています。しかし、その制度が現代では様々な制約により成り立たなくなっているのが現状です。

私がいまやろうとしているのは、

ある工芸品を、全国の同好の士が兼業で生産する

というワークシェア型の生産形態です。

物流が発展し、インターネットによって情報の共有が瞬時に可能な現代なら、地縁による生産体制は必ずしも絶対ではない、という考えに基づいています。

対価をいただいて技術を教えるということ

弊社の事業は、専門が製造販売であり、教室事業は専門ではありません。
つまり、教えるために技術を持っているわけではないということです。
そのような会社が技術を教えるというのは、企業秘密の開示であり、当然リスクが伴います。

ですので、教室事業をスタートさせるにあたり、社内でも慎重論がありました。何十年かけて培ってきた技術をあっさり教えるのはいかがなものか。

心情的には非常に理解できるところですが、今の時代、情報をオープンにすることはリスクよりもリターンのほうが多い場合もあると考えています。

また、技術を教えることに対する対価をいただくことで、育成事業を持続可能なものにしていますし、対価分は惜しみなく教示することの根拠にもなりえます。
「見て盗め」ではなく、「時間をかけてしっかりと教える」ことが心理的に可能になりますので、5年かかるところを1年にすることだって出来るかもしれません。

ただし、当然企業としてリスク管理も大切です。

職方さんに求められるものは、第一に信用です。技術は二の次です。

初級・中級・上級とステップアップすることでお互いの信用を深め、こちらの理念を理解してもらう関係性を築けます。

職方へのステップ

では、職方になるためのステップとはどのようなものでしょうか。

教室に入っていただき、初級・中級・上級とステップアップしていただき、希望の方には「つまみ細工研究会」に入っていただきます。

つまみ細工研究会では、単発WSへの優先案内や、仕事となる案件をワークシェアしています。
単発のお仕事もありますし、継続のお仕事もあります。
案件の内容によって、「中級以上」「上級以上」「上級修了以上」などの条件を設けています。

研究会に参加するかどうかは任意ですし、案件を受けるかどうかも任意です。
事実、上級終了者さんの中で今回の案件を受けられているのは、半分以下です。
そして、案件を受ける受けないで、普段の教室での扱いが変わることはありません。生徒さんのスタンスを何よりも尊重しています。

ここからはこれからの構想になりますが、上級修了者さんには案件となりうる技術に関する特別講座を予定しています。
つまり、その講座を受ければ、特定の案件を受けることができ、仕事につながる、というわけです。

もちろん、その講座を受けたからと言って案件を受けなければいけないというわけではありません。趣味の範囲で楽しみたい、という方も歓迎します。

上でも書きましたが、職方さんに求められるのは、第一に信用です。
仕事となる案件は、おはりばこの商品になるとは限りません。
むしろ、職方さんの案件は、おはりばこの商品ではなく、今私が新しくやりたい分野でのお仕事がメインになると思います。

それらのお仕事は、弊社の信用に基づいて請け負っています。したがって、制作する職方さんにも厳格なコンプライアンスが求められます。

・請け負っている案件について他者に話す
・その仕事をSNS等にアップする
・内情などを外部に漏らす

このような行為は厳しく戒められます。
そのような行為があった場合はもちろんのこと、そのような恐れがあると私が事前に判断した場合は、申し訳ありませんが職方認定しない場合があります。

その判断基準はここでは申し上げられません。
どうやったら職方になれるのか、というご質問にも答えられません。

生徒さんはお客様ですが、職方さんは職人仲間であり、取り組みでもあります。
取り組み先として互いに信用関係を築けるかどうかと言うのは、簡単に言語化できるものではないからです。

つまり、教室に入り、頑張って職方を目指してきたのに、私の一存で職方認定しないという理不尽なケースも有り得るということです。

すべてのお仕事は、弊社の信用に関わります。信用を守ることを第一に考えます。
その意識を持っていただくことが必要なのは言うまでもありません。

職方制度について、教室の生徒さんにその内容を聞いている方がいらっしゃるという話を生徒さんから聞きましたが、上記のような理由により、生徒さんは何も答えられませんし、聞かれたらとても困惑されます。
守秘義務違反になるからです。

どうかお控えいただきますようお願い申し上げます。

**職方さんのお仕事方針

・既存のお仕事は基本的に出しません
・既存のお取引先様のお仕事は絶対に出しません
・新しいジャンルや事業に挑戦します**

最後に

というわけで、なんだか無粋なこともたくさん書きましたが、教室の根本の理念は「みんなでつまみ細工を楽しんで学ぼう!」です。

この「みんな」には、当然私も入っています。
だってまだまだ技術的にも創作性も未熟な修行の身ですから。

初心者の方も、趣味の方も、ガチの方も、平等に歓迎します!

教室事業は、単なる収益事業ではなく、新たな職人育成の新しい試みであり、30才の代表就任時に掲げた「職人集団を作りたい」という私の理念のカタチでもあります。

これから運営するにあたって様々な問題も出てくるかとは思いますが、全責任を負って新しい時代の職人制度を創り上げたいと思っています。

私は根っからの職人ではありません。
あくまでも商売人であり、会社を継続すること、社会に価値を提供していくことが使命だと考えています。

日本最高の職人のトップとして人の上に立つ人間よりも、日本で一番いい仕事をする職人集団の先頭に立つ人間になりたいと考えています。

9月から新しい期が始まります。

皆様、一緒に楽しくつまみ細工を勉強していきましょう!


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