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傘とチビちゃん(ちょっぴりかなしい物語)

傘とチビちゃん(ちょっぴりかなしい物語)

空に虹がかかりました。

「なんだあれ?」

「鳥だ」

「ひこうきだ」

「いや、傘だ……」

そう、それはまさしく傘でした。

「ドローンかなぁ」

「スパイかなぁ」

「怪しい!!」

大人たちは眉間にシワを寄せました。

「撃ち落とせ!」

「ワー!!」

「ズドン!」

ヒューと傘は落ちてきました。

傘は傷だらけでした。

それはただの傘でした。

「なあんだ」

大人たちは傘を捨てました。


雨が降り出しました。

傘はぐったりして、雨に濡れていました。


。. . 。. . 。. . 。. . 。. . 

傘は思い出を思い出していました。

傘屋のおやっさんの笑顔。

お店に一人ぼっちだった日々。


じっと傘を見つめていたチビちゃん。

チビちゃんの傘になった日。

はじめての雨の日。

チビちゃんと雨のお外で遊んだ日。

チビちゃんが傘をクルクル回して鼻歌を歌う。


チビちゃんと見上げた虹。

「傘さん、虹、きれいだね!」

チビちゃん、とってもうれしそう。


チビちゃんと帰る水たまり。

チビちゃんの涙を隠した日。

チビちゃんのお友だちとあいあいがさして帰った日。


学校の傘立てで置いてけぼりにされたこともあったね。

あのときはちょっと心細かったよ。

チビちゃんが迎えに来てくれた日。

一緒に帰った青い空の日。


晴れが続いてお留守番ばかりの日々。退屈だったな。

やっと雲がモクモクして。

チビちゃんとお出かけできるって思った日。

けど、チビちゃん、風邪引いたんだね。

雨のお散歩はおあずけだね。

大好きなチビちゃん。

チビちゃんが元気なのが、傘は一番しあわせだよ!

傘のとってにはチビちゃんのマーク。

傘の先っぽは少しがさがさ傷だらけ。

たくさん遊んだもんね!

チビちゃん。早く元気になってね。


昨夜の嵐のおさまってきた頃の朝。

チビちゃんのお父さんとお母さんが、ぼくを見つめていうんだ。

チビちゃんはお空にいったんだよ。

お空?

チビちゃんのお父さんとお母さんは傘を広げました。

だから傘は思いっきり風に乗って、空高く舞い上がったんだ。

すこし風の強い嵐の日だったけど。

高く高く。

お空に。


嵐はやんできて、空は晴れてきて。

虹が出たんだ。

あ! チビちゃんと見た虹だ!

チビちゃん、きっと虹を見に空に来たんだ!

「チビちゃーん!」


「ズドン!」

ヒューと傘は落ちてきました。

傘は傷だらけでした。

それはただの傘でした。


。. . 。. . 。. . 。. . 。. . 

雨の中。

神様が傷ついた傘を見つけました。

「なんて美しい傘でしょう」

神様は、傘を拾いあげて、そっと広げてみました。

傘には、チビちゃんの笑顔が映りました。

神様は、うなずいて、傘を手に空へ連れていきました。


傘が目を覚ますと、そこにはやさしい笑顔のチビちゃんがいました。

チビちゃん!

「傘さん、ほらみてみて」

チビちゃんと傘が雲の下をのぞきこむと、美しい虹が架かっていました。

そして、みあげているみんなが、そっとやさしいほほえみをうかべていたのでした。


それからも、傘とチビちゃんは、虹がかかるたびに、やさしいまなざしで、みんなを見守っている、ということです。


#よつばちゃんとかさをおいかけて


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