結局わたしは何もできないけど、それが大事なのかもしれない
コロナになって、初めて実家に帰省した。
最後に帰ったのが、コロナ直前のお正月だったから、2年半以上ぶりだ。
週に一度か、それ以上、一人暮らしの母とは電話していたし。
親友とも、学期に一度くらいはzoomで話していたし。
上京して子どもも生まれた弟とも、ときどきはLINEでやりとりしていたし。
そんなに久しぶりの感情もなく、久しぶりの直接の再会を果たしたわけだけど…。
思ったより、みんな「変わっている」ように感じた。
母は、コロナの間に白内障など目の手術をした。
コンタクトからは卒業し、眼鏡生活。
眼鏡姿になり、白髪も多くなった母の姿は、思ったより老いていた。
そして、これは今に始まったことではないんだけど、家は汚かった。
私の実家には、マメに掃除をする、という文化がない。
きっと代々忙しいし貧乏だしで、その瞬間生きていくのに必死だったのだろう。ほこりなんて気にしていたら、やってられなかったのかも。
清潔で洗練された空間で過ごす、なんていうのは、一歩進んだ先にあるものだ。
そんなわけで、実家(田舎なのでやたらと広い)はあちこちにホコリがたまっていた。
特にぎょっとしたのは洗濯機。
盆正月の帰省のたびに私が掃除していたんだけど、2年半以上ノーメンテ。
恐ろしくカビだらけだった…。
ふたの内側とか、もうとにかく水が触れるようなところは、全部カビ。
縦型洗濯機なので、くず取り袋みたいなのがあるんだけど、それも真っ黒。
中にはくずがたまりまくっていた。
先月には、弟一家が赤ちゃんを連れて、2週間ほど滞在していたはず。
この洗濯機をお嫁さんは文句も言わず使ったのね…。
というか、義実家で文句も言えないよね…。
というわけで、丸二日、私は洗濯機に張り付いて掃除した。
槽洗浄を2回やったけど、2回目もごっそり黒いカビが浮かんできた。
くず取り袋は新品をAmazonで買った。
久しぶりに会った弟一家。
前回会ったときは、実家の近くの会社に勤めていた弟。
子どももいなかった。
このまま、実家を建て替えて、母の老後も見ながら過ごそう…と人生送っていたけど、コロナで会社が傾いてしまい、退職を余儀なくされた。
そして、上京した。もともと、夫婦でよく東京に行っては、美術館巡りとかしていたので、一度住んでみたかったそうな。
東京での仕事を友人からもらいながら過ごしていたところに、お嫁さんが妊娠。
お嫁さんの妊娠中に、弟は正社員の職を見つけて、転職を果たした。
東京での暮らしはお金もかかると思うけど、どうやら母がけっこう援助しているらしい。
まだ1歳にならない姪と会うのは初めて。
弟夫婦にはしばらく子どもがいなかったので、妊娠を知らせてくれたときには、嬉しいのと良かったねという気持ちがあふれかえり、思わず涙した。
そんなわけで、姪っ子に会うのもめちゃくちゃ楽しみにしていた私。
顔を見た段階では泣かれなかったので、調子にのって体を触ったら、わーんと泣いてしまった…。
最終的に、抱っこはさせてもらえたけど、3日間くらいじゃ慣れてもらうには至らない…。ちょっと寂しいけど、写真も動画もたくさん撮れたのでよし!
「伯母さん」になることが、こんなに嬉しい日がくるんだ!と「おばちゃんでちゅよ~」を繰り返していたら、お嫁さんが気を使って「お姉さんに会えて嬉しいね~」と微妙に訂正してくれた。
コロナで、私はすっかり晩酌が定着してしまったけど、酒飲みだったはずの弟は、酒を断っていた。
私はビール。弟はノンアルコールビール。
それぞれ近況を報告しながら、食卓を囲んだ。
弟は、なんというか、イクメン的なそれとは反対にいるような気がした。
赤ちゃんの抱っこはよくするし、写真もよく撮るけど、オムツを替えたり、食事の世話をしたりする姿は一度も見なかった。
近況を聞いていると、銀座の路地裏を散歩するのが楽しいとか、画廊とかに絵を見に行って、作者と話したとか。
オペラや能も観に行ってみたけど、良かったよ、とか。
家具や照明は、カール・ハンセン&サンや、ルイスポールセンで揃えているとか。
iPhoneやMacbookは、最新がいいよね、とか。
とりあえず、その場では「へぇ~!」と聞いておいたけど、心の中の私はツッコミを入れまくっていた。
え、赤ちゃんとお嫁さんを残して、ひとりで銀座やらオペラやら行くの?!
え、お母さんに資金援助してもらってる身で、そんな高級家具揃えてるの?!
(お母さんが使ってる洗濯かご、ニトリで買ってボロボロになってるけど、大事に使ってるよ?!)
え、お嫁さんのスマホ、ご実家のお母さんのお下がりで、ヒビも入ってるみたいだけど、自分はそんな最新で揃えてるの?!
そういえば、カメラもライカだったよね?!高いんでしょそれ?!
実家にいる間も、お嫁さんは赤ちゃんのお世話をした上で、私や母の話し相手にもなってくれ、自分たちの洗濯も夜中と朝にやり、洗い物とか片付けもやってくれようとしていた。
(せめて私がいる間は、洗い物なんてやらなくていいよ!と言ったけど、隙を見てやってくれようとする…涙)
弟は一切何をすることもなく、ご飯を食べたらiPadで本を読んだり、フラッとどこかに出かけたりしていた。
いいの?!
これでいいの?!
せめて、この汚実家は少しでもマシにして、お嫁さんのストレスを減らしたい…!
そう思って、私はせっせと洗濯機を洗い、拭き掃除をし、クイックルワイパーや雑巾を使って床を磨いた。
床も、1日うろうろしていたら靴下が真っ黒になるレベルの汚さなんだけど、先月弟一家が来たときの写真を見せてもらうと、赤ちゃんがハイハイしていた…。
これ、お嫁さん、嫌だったんじゃないのかなぁ…。
それでも、お嫁さんは本当に優しい人で、母に「夢のように幸せな帰省でした」と告げてくれたそうだ。
母はそれを真に受けて、掃除なんてしなくても大丈夫よ!と話していたんだけど…。
母がそれで幸せならそれでいいし、もしかしたらお嫁さんは本当に気にならないのかもしれないけど、やっぱり私は気になる。
あのかわいらしい無垢な姪っ子が、汚い床を這って、カビだらけの洗濯機でガーゼを洗われるのを、黙って見過ごすことはできない…。
そう。自分のために、私は掃除したのだった。
久しぶりに会った親友とも、会う時間がいつもより短かったのもあるけど、ちょっと消化不良でバイバイすることになった。
もう人生の半分以上、彼女とは親友だ。
お互いの人生、成功も失敗も、よく知っている。
親も夫も知らない秘密を、お互い知っている。
たぶん、彼女が法を犯したとしても(絶対そんなことしないと思うけど)、私は彼女の味方でいる、と断言できる。
親友は、とにかくいい人だ。
優しくて、面白くて、賢くて。
しかも、めちゃくちゃ美人。
子ども時代からずっと、男の子たちは彼女を憧れの眼差しで見ていたものだ。
その彼女が、今は夫からモラハラを受けている。
夫は、高学歴で、大企業で管理職を務めている。
当然高収入。背も高くて、顔もかっこいい。
子どもができるまでは、彼女のことが大好きで大事で仕方ない!というのが伝わってくるくらいだったのに…。
今は、不倫疑惑もあるし、経済DVもしてくる。
とにかく子どもにも彼女にも支配的だ。
夫は、自身のエステや、部下に奢る費用は惜しまないが、とにかく家庭には超最低限しかお金を渡してくれない。
子どもが「行きたい!」と言った習い事や塾代も出してもらえないので、親友は最近になってパートに行き始めた。そこでも辛い思いをしているらしい…。
親友も、久しぶりに義実家へ帰省したらしいんだけど、義家族から、高校生の息子へのプレッシャーをかけられた、と言うのだ。
「とにかく、親としては、学歴はちゃんとつけてやらないといけないわよ。」と。
同じく高校生の従姉妹は勉強が得意らしく、けっこうな進学校へ進んでいて、学校の中でも成績優秀らしい。
その子を見習え、的な感じなんだろうか。
でも、言っちゃあなんだけど、高学歴で高収入でも、家族にモラハラするような人間を育てたあんた達に、何をアドバイスする権利があるの?と思う。
「せめて学歴は…」で育てた結果、家族めちゃくちゃ苦しめてますけど?
しかも、いま高校生の息子は、自傷行為に走ってしまったこともあるうくらい、本当に苦しんだのに…。
それでも、親友は「勉強なんて!」とは言えない。
気持ちは分かる。
めちゃくちゃ分かる。
私だって、手放しに「学歴なんていらない!」とは思えない。
でも、今は絶対、子ど、にプレッシャーをかける時期じゃないと思うのだ。
彼は、父からのモラハラや教育虐待に、自らを傷つける行為をするくらい苦しんで、それでも生き抜いて、今も必死で生きているはずなのだ。
大人が理想とする、「色々真面目にコツコツ、きらきらと努力している」像にはなっていないかもしれないけど、彼なりに、絶対すごく踏ん張っているのだ。
でも、彼女は焦る。子どもも焦る。
「せめて学歴を」と思うけど、勉強するモチベーションも元気もないから、余計焦って、悪循環を繰り返しているように見える。
一度、せめて数か月でもいいから、いったん手放してみたら、見えるものがあるのでは…と思うけど…。
きっと今は全てが命綱で、どれを手放しても奈落の底に落ちてしまいそうで、怖いのかもしれない。
そんなわけで、「いや、それ違うでしょ!!」と思うことはたくさんあったけど、総ツッコミするわけにもいかないので、なんだかモヤモヤしたまま別れた。
それでも「いや、それは…」と我慢できずに言ってしまったので、親友にとってもモヤっとした再会だったと思う…。
私にとっての正義と、私以外の人にとっての正義は違う。
私にとっての幸せと、私以外の人にとっての幸せも違う。
私にとっての正解は、あの人にとっての不正解かもしれない。
人それぞれ。
そう。人それぞれなのだ。
私は、だから、見守ることしかできない。
いつだって、寄り添うことしかできない。
でも、それでいいし、それが大事なのだ、きっと。
求めてないときにもらうアドバイスは、鬱陶しいだけで、耳に入らない。それは自分も経験済み。
でも、ふとアドバイスが欲しくなる瞬間がある。一瞬、誰かの声を聞こうかな、となるときがある。
そんなときに、スッとひとつ道筋を見せてもらえたら、救いになるかもしれない。
だから、もし、求められたときの答えは持ちつつ、今はただ、「わかるよ」と寄り添うのだ。
私にだって、実はみんな山ほど言いたいことがあるけど、あたたかく寄り添ってくれているのだろうから。
実家は汚いままだろうけど、それでいい。
弟はオムツをかえないだろうけど、私が口出しする話じゃない。
親友の夫は憎いけど、私は見守るしかない。
結局私は何もできないけど、それが大事なのかもしれない。
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