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ミュージカル「ベートーベン先生の曖昧日記」vol.3 一幕前半、青年期まで

ミュージカル「ベートーベン先生の曖昧日記」。簡単に作品概説をしていければと思います。

「あの男は、誰?」

舞台を飾るのは、たくさんの棚といくつかの椅子。乱雑に積み重なった本や楽譜。ワインや空瓶、洋服の山。仄かに揺れるランタンの灯り。
そこへ、出演者がぞろぞろと登場します。一様に本を持って。音楽と言葉。そして、彼らの目線は客席の先にいる、「あの男」に。

こんな導入で、お客さまを「ベートーベン物語」に巻き込んでいきます。そして、お客様も出演者も作り手も、みんな一様に
「ベートーベンってあんな人」
を感じながら次のシーンへ。

「コーヒー豆は60粒ですよ」
ベートーベンの散らかった部屋

一人残るのはベートーベンの甥っ子カール。虚な目の先には散らばった楽譜や洋服、そしてピアノ。晩年に秘書をしていたシンドラーがコーヒーを持ってきます。二人はベートーベン葬式の後、部屋に戻って片付けをしているのです。
「先生が死んでしまったのは、きっと僕が自殺なんかを…」
と言うカールをシンドラーは諭します。散らかった部屋を見ながら、
「先生も幼い頃は苦労していたんだ」
とシンドラーは幼いルートヴィヒ・ベートーベンのいたボンへと物語を移していきます。

「いったい何が救いになるんだ?」
ボンの家族

幼いルートヴィヒが苦労していたのは、父親ヨハンのスパルタ教育。その傍ら、母親のマリアは懸命にルートヴィヒを支えていました。ルートヴィヒの英才教育には近所付き合いの同職・宮廷音楽家のフランツ・リース。ヴァイオリン指導を受けもってルートヴィヒを立派に育てていますが、酔っ払ったヨハンはフランツ・リースを恫喝します。
「あいつはその程度じゃダメだ。あいつには天賦の才がある。お前も名門だろ?早く子供をこさえろ。」
と。ですが、フランツ・リースは気づいていました。天才ルートヴィヒは、ボンなんかにいては行けないと。


「僕の中に、残る歌声」
天才ベートーベンの成長

次の『憧れ』と言う曲ではルートヴィヒの成長が描かれます。
「あれはモーツァルト。拍手の海で泳いでいた。木枯らしが舞うように。その腕は巻き起こす。」
と幼いルートヴィヒ
「身体で感じる。香りも日差しも、そのままに音符に乗せていくだけさ。簡単なことさ。」
と青年ルートヴィヒ
著しい天才作曲家の成長が歌われます。
変わらないものは「僕の中に」、常にあるもの。変わらないもの。
それに、ルートヴィヒは支えられ、苦しみ続けるのです。

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「魅惑の即興大会」


「ハイドン!ドンマーイ!」
馴染めない貴族社会

モーツァルトのもとへ弟子入りに行ったルートヴィヒは、弟子入りはしなかったものの一緒にリヒノフスキー侯爵の夜会へと行くのでした。
そこでは、ハイドンや幼いフンメルが仰々しく佇んでいます。そこへモーツァルトが現れるとご令嬢たちは大盛り上がり。そして騒ぎを聞きつけてきたリヒノフスキー侯爵は、なんとオカマさん。
リヒノフスキー侯爵はメンツを見て、お楽しみの時間を設けます。
「即興野球拳大会〜!」
幼い子どもや堅物のおじさんもいる中、ふしだらな遊びを貴族の社交界では楽しまれます。ルートヴィヒは馴染めないまま、その才能だけは披露し、やり過ごします。


「とても素直な方法」
ブロイニング邸での初恋

シーンは変わって、ブロイニング邸の中庭。ルートヴィヒの親友、ヴェーゲラーとブロイニング家の令嬢エレオノーレがぎこちなくお話をしています。
「コーヒーでも取ってくるよ!」
とヴェーゲラーが広間へ戻ると、ルートヴィヒが立ち替わり登場。
そんな三角関係が垣間見える中、ルートヴィヒがエレオノーレに楽譜を送ると、ヴェーゲラーは焦って診断書を書いてきて渡します。エレオノーレは何のことか分からなくとも、ヴェーゲラーの気持ちに気づき、その率直な言葉に答えます。
その様子をうっかり見てしまったルートヴィヒは、自分が音楽へと執着していることに苦しみながらも、
「偽物の音楽が鳴り響いては、消えていくだけ」
とその不器用さを深く嘆きます。


簡単にと言いながら、ここまでで三分の一。かなり長編となっております。

この時代、18世紀末は激動の時代で、市民革命による貴族社会崩壊が著しい状況下なのです。それによって打撃を受ける職も多く、宮廷音楽家もその一つだったんですね。
世界的なハプニングが起こると、やはり苦労させられる職は、いつの時代も「アーティスト」なんですね。

さて、これからルートヴィヒはどうなっていくのでしょうか?
冒頭で苦しんでいたカールやシンドラー、先見の明を持っていたフランツ・リース、不器用な社交性、打ち砕かれた初恋と音楽への執着。伏線となって、中年期へと突入します。


ここまでの配役、

甥っ子カール 常川藍里
秘書シンドラー 森内翔大/伊佐旺起(交互キャスト)

幼いルートヴィヒ 角田萌夏
父ヨハン 千葉有卯助
母マリア 守本彩子
フランツ・リース 森内翔大/伊佐旺起(交互キャスト)

モーツァルト 常川藍里
ハイドン 千葉有卯助
フンメル 角田萌夏
令嬢たち 山﨑和香、守本彩子
リヒノフスキー 森内翔大/伊佐旺起(交互キャスト)

エレオノーレ 山﨑和香/角田萌夏(交互キャスト)
ヴェーゲラー 森内翔大/伊佐旺起(交互キャスト)


いさおうぎ

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