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その記憶は、電車とともに。

お休みなのだからまだ寝ていたいと訴える頭と体を無理矢理起こし、仕事の日よりも少し早く家を出て向かった先は、明後日に試験を受けに行く看護学校。
当日焦ることがないように、バスのタイムスケジュールや混雑具合、最寄りのバス停から学校までの距離を確認するのが目的だった。

ホームで電車を待っていると、新卒で入った会社に通っていた頃のことがよみがえる。
電車が1時間に2本しかない挙句、2本目に乗ると遅刻するからと、無駄に早起きして通っていたっけ。

そんな風に脳内でタイムスリップしていると、目的の駅に着くのはあっという間だった。
駅を出てバスターミナルへ行くと、乗るべきバスは既に来ていて、わたしは慌てて駆け込んだ。

***

看護学校の最寄りまで向かうバスは、学校の向かい側にある県病院までのシャトルバスのようなもののようで、市民病院を経由した後、ほどなくして県病院に到着した。
思いの外スムーズに着けたことにほっとしつつ、今度は駅に戻るためのバスの時刻表を確認する。

………どうやらわたしはこの近辺の交通アクセスを甘く見すぎていたようだ。

駅に戻るバス少なすぎない?
下手したら乗れない時間もあるじゃん……?

当日は、午前中に学科試験、午後から面接という段取りで、面接の時間帯は13時から16時。
去年の10月に受けた地元の看護学校の試験社会人枠から察するに、面接の順番や終わる時間は当日にならないと分からない。
だけど、帰りはバスに乗れない確率の方が高そうだ。

再び時刻表を見ると、これから駅に戻るバスでさえも乗れるのは30分ほど後。
病院から駅までは、歩いて20分。

……うん。歩いて帰ろう。

雨が降る中、片手に傘、片手にGoogleマップで駅へと向かう。
徒歩20分、分かってはいたけどそこそこ遠い。

途中、マップの気まぐれな案内に振り回されながらどうにか駅に戻ると、帰るための電車を待った。
家の最寄りに帰る電車は、特急電車が2本出た後でないと来ない模様。これもこの近辺あるあるだ。

仕方ないな、と音楽を聴きつつスマホを触っていると、ホームに駅員さんのアナウンスが響く。
イヤホンを片耳だけ外して耳を傾けると、何やら聞き捨てならない内容だ。

「○○方面の電車は、△△駅・××駅間で橋桁はしげたに車両が衝突した影響により、当面の間運転を見合わせます」

…………。

車両の衝突。
運転見合わせ。

これ……しばらく帰れないやつ……?

そのとき、わたしの脳裏をふたたび新卒時代の記憶が過ぎった。

ある日は踏切の点検。
ある日は動物が線路を横切った影響動物支障
また別の日は大雨や大雪。

………すっかり忘れていた。
この辺りは特に、びっくりするほど頻繁に電車が止まるのだ。
ただでさえ1時間に2本しかない電車を残業で逃した挙句、あらゆる理由で遅延が起きて、家に帰るのが夜中になるパターン、何度経験しただろうか。

まさか、たった2時間ほどの間に、この辺りの交通の便の悪さを凝縮したような出来事がこれほど起こるとは。
そして、朝ごはんを食べながら見た星座占い1位、あれは絶対に嘘だ。

雨と寒さと、ベンチのない吹きさらしのホーム。
こんなところでいつ来るか分からない電車を待つなんてしんどすぎる。
一縷いちるの望みをかけ、駅員さんにバスで帰る方法はないか聞いてみたものの、県をまたいでいるためバスはないと言われてしまった。
……ですよね、そんな気はしてました。

やはり電車が動くまで待つしかないようだ。
わたしは駅を出ると、再びGoogleマップを起動して「近くのカフェ」と打ち込んだ。

***

幸いにも、駅のすぐ近くにカフェを発見。
雨と疲労感と災難を口実に、ミルクティーと一緒にチーズケーキも注文した。
星座占い1位のはずなのに12位くらいの心境だし、これくらいは許されたい。

ミルクティーの優しい甘さに心がほぐれるのを感じながらチーズケーキを口に運びつつ、乗り換え案内のアプリをちまちまと確認。
大きなマグカップ一杯に入っていたミルクティーがなくなる頃には、思いがけず電車の運転が再開していて、どうにか帰路につくことができたのだった。

………それにしても、あの方面の交通の便の悪さ、本当にどうにかならないものか。
そして、これは何としてでも地元の看護学校の試験一般試験でリベンジを果たさなければと、改めて強く感じたのだった。

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