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【ネタバレ映画批評】『ちょっと思い出しただけ』③AmazonPrime配信開始!

やっとリラックスして楽しめた

昨夜AmazonPrimeのオススメ欄に突如『ちょっと思い出しただけ』が見えてびっくり。22時を過ぎていましたが観ることにしました。
この映画に関しては過去noteに3本感想を書き、ノベライズも読破し完全にハマっていた私ですが、興奮も落ち着き、セリフやストーリィの辻褄に振り回される事なくはじめてリラックスし楽しんで観ることが出来ました。

シーパラダイスでのデート


池松壮亮の会心作?

池松壮亮さんの過去出演作品も観ました。
『永い言い訳』
『夜空はいつでも最高密度の青色だ』
『斬、』
正直ルックスの個性故か、癖のある役ばかりだなあと感じました。
本作では(勝手な想像ですが)本人自身の「地」に近い役柄なのかなと思わせ気持ちよく追うことが出来ました。

不器用な告白を試みる照生とそれを茶化す葉


松居大悟監督の最高傑作!?

松居監督作品は
『自分の事ばかりで情けなくなるよ』
『くれなずめ』
——これしか観ていないですが、半分音楽のプロモーションのような作品や『くれなずめ』は正直出来がヒドイと思いましたので、本作が現時点で最高傑作と言っても差し支えないのではないでしょうか。その意味で次作が本当の意味で「勝負」ですかね。9月公開の『手』が気になります

作品内容より『共感要素』でのヒット!?

さて、この映画の魅力は果たして何だったのでしょう。まず私には人間関係の作り込みが足りないと感じました。例えば『やどり木』の中井戸や葉の親友さつきは主人公と非常に親密で、ストーリーの展開で重要なポジションに位置しているにも関わらず、2人への関わりが淡白過ぎと感じます。この2人の立ち居振る舞いのさじ加減で葉と照生の関係も違ったものになった気がするのです。

印象深い屋上での花火

——結局、誰しも青春時代を横断するような大恋愛が必ずしも成就するワケではなく(『花束みたいな恋をした』同様)それどころかあとから思えば「なぜ?」と自問したくなるほどに詰まらぬ些細な事が発端で喧嘩し離別に至るなど、悲劇を経験し、それを忘れある意味で「妥協」と言ってもよい「前に進む選択」をしているのではないでしょうか。「ちょっと」どころではない方もいるでしょう。でもそれは皆さん多かれ少なかれそうなのではないでしょうか。

見果てぬ照生との舞台でのダンス

だから我々は葉と照生を自身に重ね、本作では行きずりの男性との恋を取って家庭を持つ選択をした葉に、しかし偶然2年ぶりに踊る照生を観たときそこへ見果てぬ2人のダンスを幻想してしまう姿をゆるし、まるで自分の事のように共感してしまうのでしょう。「今が間違いなく幸せ。でも想像ぐらいは自由でしょ」といった感じで。


もっと二人に介入してほしかった仲井戸
ふてくされる表情がほんとに素晴らしい伊藤沙莉

今回観てやっぱり感じたこと。

思いがけず今回サブスクで鑑賞し物語で印象的だったのは、恋に臆病で奥手な葉の姿。アレだけズケズケとさつきのお芝居に組み合わせた照生のダンスに辛辣な意見を述べていながら、自らが勝手にアーケード街の路上でダンスを始め、照生を誘い。照生から自己紹介してきた、いい雰囲気の場で自身の名を教える事を拒みその理由を「もう会わないし」とまで言ってしまう姿。『やどり木』で中井戸との会話で「気持ちが持っていかれそうになる」と「本当に人を好きになってしまう事の恐れ」口にするところ。
この辺から憶測するのは過去に大失恋があったのかな——ということ。(それについてはなんら補足情報はありません)

土砂降りの中走り回り最後はシーパラダイスへ


そして、二人の関係がまだ曖昧な時期、タクシーの中でそんな葉の不安に応えようと言葉の羅列で不器用に愛を伝える照生の場面。そして翌年、途中で車から下ろしてしまう喧嘩の場面。前者では相手の不器用さと精一杯さを斟酌出来ず茶化し照生が「空気を壊された」と嫌になってしまう。後者では自身のダンス生命と人生に関わることなので何度も「待ってってば」と懇願する照生に対しがんとして決意を変えまいとするような葉の態度。この2つの場面を観ているともう一方的に葉の“がさつさ”を感じるし『ナイト・オン・ザ・プラネット』を好む事でお互い運命的な出会いとさえ思っていた2人だったが、別れの場面ではむしろそこにこだわって相手がそれを気づき、受け止めてくれるであろう期待が果たされない事で起こる失望。結局この映画に振り回されている格好になっている。
ここでは『花束みたいな恋をした』同様に趣味趣向が合う=ベストパートナーではない——という現実的な結論を感じる。
物語はどこかアンハッピーな方が記憶に残るのかもしれないが。

みなとみらいのそばで

やっぱり違和感がある『位置関係』

この映画でどうにも違和感があり、今回もやはり馴染めなかったのはロケーションの位置関係だ。この物語には『劇場』が出てくるが結局それはすべて『座・高円寺』を使っている。だから流れで高円寺のアーケード街を通るしハッキリ劇中で語られないが『やどり木』も高円寺駅付近のはずだ。

ここまでは自然な位置関係なのだが、照生の自宅がいきなり『横浜の郊外(ノベライズ版)』とある。アルバイト先も八景島シーパラダイスだ。八景島だと目の前は横須賀だ(!)。横浜どころではない。
そうなるとマンションは金沢文庫あたりなのかな?と思ってしまうが葉から『トリキばかり行っている』と揶揄される場面があるので考えられる付近の『鳥貴族』を調べると大船より先に店舗はない。行ってもおかしくないのは横浜か。映画なので当然移動時間をそのまま描写しないが、高円寺と横浜郊外の距離感はいかがなものか。そうしなければいけない理由がどこかにあったのだろうか。収入面で心もとないダンサーが入居できる眺望のいいマンションとなると郊外になってしまう——ということだろうか。このへん情報をお持ちの方がいらっしゃればご教示のほど。

『やどり木に寄り明け方に帰る照生』

『ちょっと思い出しただけ』は語り継がれる名作となるか

今回も深夜まで観てしまった私ですが、巧いのは冒頭から葉と照生を同じ時間軸で切り替えながら追うようなところで、康太と知り合ったときと「やどり木」のトイレでバレッタを取り出して見つめる照生の場面など。少なくとも私はもう5回視聴してますが、きっとまた何度か観ると思います。アマプラに登場したおかげで巻き戻しも出来てありがたい。
まだ、ご覧になっていない皆さん。是非ご視聴下さい。

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