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光森裕樹 第三歌集『山椒魚が飛んだ日』

光森裕樹さんは1979年、兵庫県宝塚市に生まれ、この歌集に収録されている歌を詠んだ当時は沖縄県の離島、石垣島に暮らしていた。余談ではあるが、この頃といえば東日本大震災の翌年であり、俵万智さんも仙台市から石垣島に引っ越して暮らしている頃ではないかと思う。

光森さんは2008年、「空の壁紙」で第54回角川短歌賞を受賞。その後、2010年に第一歌集『鈴を産むひばり』(港の人)、また、第二歌集『うづまき管だより』(電子書籍)を発表。第一歌集は第55回現代歌人協会賞を受賞している。

本書は三森さんの第三歌集で、書肆侃侃房の現代歌人シリーズとして発行された。

石垣島の暮らしや家族、特に子どもができたことに伴う心の動きが独自の、そして鋭い捉え方で詠われている。

特に好きだったのが次の歌。

産まれ来る者とくと見よ汝がために隅々まで見逃した世界だ/光森裕樹「香煙を射抜く」

出産の立会いのシーンで、我が子に語りかけるように詠われている一首。産まれるその一瞬を見逃すまいとすべての感覚を我が子に集中させる様子を、「隅々まで見逃した世界」という言葉で表現している。これは出産にだけでなく、おそらく父親へと変わる思考や暮らしにも当てはまるだろうと思う。

たくさんあったそのほかの好きな歌の中から一部を紹介。

予備として記しておきしいちまいの婚姻届を仕舞ひてかへる/光森裕樹「山椒魚が飛んだ日」

蝶つがひ郵便受けに錆をればぎぎぎと鳴らし羽ばたかせたり/同上 

海への道なめらかに反り海沿いの道へと変はります 元気です/光森裕樹「石垣島2013」

香煙を射抜く春雨 叶へたき願ひは棄てたき願ひにも似て/光森裕樹「香煙を射抜く」

ひとがひとを保たむとするまばゆさを分娩台から投げ捨て君は/光森裕樹「其のひとは」 

乳飲みて飲みをへるまでとどめたる映画のなかの色薄雨/光森裕樹「鶴をつなぐ」

雨よりもさきに教へるあまがさのあなたが生まれてから苦しいよ/同上 

子に吾の名を教ふるはさびしかり別れのことばを手渡すに似て/光森裕樹「外貨」

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現代歌人シリーズ13
光森裕樹 第三歌集『山椒魚が飛んだ日』
書肆侃侃房 2016年12月24日発行
詳細(http://www.kankanbou.com/books/tanka/gendai/0245sansyouo)
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