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『しびれる短歌』東直子さん・穂村弘さん(ちくまプリマー新書)を読む

幅広い分野で活躍する歌人、東直子さんと穂村弘さんによる共著『しびれる短歌』が今月10日にちくまプリマー新書から発売された。
この両名の共著は短歌と詩を返歌的に詠み書いた『回転ドアは、順番に』(筑摩書房)以来12年ぶりになる。

本書は対談形式で書かれていてとにかく読みやすい。そして、お二人の短歌の読み解き方や知識はもちろん、そのやり取りからは仲の良さも伝わってきて楽しく読める。短歌に馴染みのある人にも、まだ関わりのない人にもオススメしたい。

面白いのが本書の最初に出てくるのが、

したあとの朝日はだるい 自転車に撤去予告の赤髪は揺れ/岡崎裕美子

だと言うこと。数ある短歌からこの歌かと笑った。もちろん岡崎さんのこの歌は名歌だと思うけれど、まえがきのトップか、と。

そして、第一章の「やっぱり基本は恋の歌」では、歌の読み解きで「セックス」というワードが連発する。

その後は「食べ物」「動物」「時間」「お金」「固有名詞」「トリッキー」を大テーマに特徴的な歌を紹介しながらお二人の意見が語られる。

東さんの解釈を穂村さんが否定しまくったり(優しく)、それを東さんが受け流したり(優しく)するやり取りも面白く、どうせならこの対談を公開収録でやって欲しいと思うくらい。

本書の中では穂村さんの

ハーブティーにハーブ煮えつつ春の夜の嘘つきはどらえもんのはじまり/穂村弘

の歌について、どうして「ドラえもん」ではなく、「どらえもん」なのか、と言った双方が双方の歌に解説を求める場面もあって新鮮だ。

さらに最後には付録として「歌人ってどうやってなるの?」という項目が設けられており、歌集の自費出版文化などについて自身の経験をもとに赤裸々に語られているのも短歌愛好者必見だろう。

お二人のファンにとっては、さらなる付録として、東さんが穂村さんこ、穂村さんが東さんの作風を真似て詠んだ歌も載っており貴重だ。互いが互いの歌に「私は(僕は)そう詠まない」と指摘したりしていて、歌を詠む上での意識が垣間見えるのもいい。

本書はいわゆる短歌入門本でなければ、アンソロジーでもない。あくまでお二人がお二人の時点でそれぞれに設けたテーマ性の歌を挙げては語っていく内容だ。一方で時代性や視覚効果など多様な観点から、かつお二人両者の意見が見えるだけにお二人のファンならずとも一度は読んでみてほしい一冊と言えるだろう。

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『しびれる短歌』
著:東直子、穂村弘
発行:筑摩書房
2019年1月10日発行
定価:840円+税
詳細・購入: http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480689160/
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