見出し画像

一斗缶俳優

外を歩いていると、建物の傍に置かれた一斗缶を目にした。雨ざらしになっているためか、全体が綺麗に錆びて茶色くなっている。この場合の「綺麗に錆びて」というのは全部がムラなく均一に錆びている状態を指しているが、ムラだらけの錆び方を見て綺麗だな、と思うこともあるので日本語は難しい。

その一斗缶が接している建物の壁もまた茶色く塗られており、絶妙な一体感を醸し出していた。偶然とは思えないほど似た色味。これは街中のちょっとした奇跡である。車を3台所有している人の名前が「轟」であるくらいのちょっとした奇跡だ。見ることができてラッキーである。

一斗缶はまるで壁と同化することで自らの存在を気づかれまいとしているかのようだった。カメレオンのやり口だ。まさか一斗缶にカメレオン的な能力があるとは。どんな役柄もこなす役者のことを「カメレオン俳優」と呼んだりするが、それが「一斗缶俳優」に変わる日も近いのかもしれない。

俳優の成田凌さんは、映画のイベントで世の中から「カメレオン俳優」という言葉が無くなればいいと語っていたそうだ。仮に「一斗缶俳優」という言葉が一般化していけばその願いは叶えられるかもしれないが、彼が言っているのはそういうことではないだろう。

サポートって、嬉しいものですね!