見出し画像

栗饅頭とひったくり

今日僕のカバンの中には栗饅頭が入っている。この前コンビニで半額になっていたものを買ったのだ。仕事の合間に食べるつもりである。

道行く人はまさか僕のカバンの中に栗饅頭が入っているとは思わないだろう。その証拠に、こいつカバンに栗饅頭を入れているな、という目で見てくる人は一人もいない。皆自分のことで忙しいのだ。他人のカバンの中の栗饅頭の有無にまで気が回らないのである。

もし今僕がカバンをひったくられたら、ひったくり犯は中の栗饅頭を見てどう思うだろうか。カバンをひったくる人は基本的に財布など金目のものが目的で、栗饅頭目当てでカバンを奪う者はまずいない。必然的に栗饅頭の登場はサプライズとなるわけだ。予期せぬ栗饅頭を目の前にして、ひったくり犯は一体何を思うのか。

「ひった栗饅頭(ひったくりだけに!)」みたいなことは考えるだろうか。そんな余裕はないかもしれないが、ふと頭に浮かぶ思いつきを遮ることは難しい。犯罪に手を染めるのも人間なら、くだらない駄洒落を思いついてしまうのも人間なのだ。その二つの性質は一人の人間の中に十分共存し得るはずである。

栗饅頭は食べるのだろうか。おそらく食べる可能性は高いだろう。もしかしたらお茶も淹れるかもしれない。栗饅頭といえば濃いめのお茶だ。ひったくり犯といえども、せっかくなら美味しく食べたいと思うはずである。半額の値段のシールが貼られていることには気づくだろうか。ひったくったカバンから出てきた栗饅頭が半額になっているのはどんな感じだろう。ちょっと損した気分になるのだろうか。

こんなことを考えてしまうのも、カバンに栗饅頭が入っているからだ。栗饅頭が入っていなければひったくりについて考えることはなかった。栗饅頭がひったくりへの思考を促したのである。今僕はひったくりを意識している状態であり、実際にカバンをひったくられそうになっても、とっさに抵抗することができると思う。カバンに栗饅頭が入っていることで、ひったくりを防ぐことができるのだ。

そうなると、ひったくり犯は栗饅頭を食べることはできない。当然濃いお茶を淹れることもないし、半額シールを見て何かを思うこともない。カバンに栗饅頭を入れることが、ひったくり犯が栗饅頭を食べることを妨げるという複雑な状況である。栗饅頭を入れていなければ栗饅頭を盗られることはないが、栗饅頭を入れておくと栗饅頭を盗られなくなるという矛盾。これがかの有名な「栗饅頭のパラドックス」である。

とにかく、皆様もひったくりには十分に気をつけていただきたい。もし不安なら、カバンに栗饅頭を入れて備えておくとよいだろう。

サポートって、嬉しいものですね!