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パソコン1つ。魔法を使って世界を飛びまわる天真爛漫な動画編集者

"韓国、ホンデイックにて"
2023年の10月下旬、私はとある女の子に誘われて韓国に行った。仁川国際空港に到着し、長い行列をなした入国審査を経て、地下鉄でホンデイック駅へ。駅から外に出てみると想像以上の寒さだ。10月下旬の韓国は冬の気配を感じさせる寒さで、上着を着ていてもずっと外にはいられない。

「緯度的に日本の東北ぐらいだっけ?思ったよりこの時期の韓国は寒いなぁ」などと考えながら10分ほど歩くと、指定されたレストランに到着。ようやく暖かい空間に入れると思って扉に手を伸ばしたとき、ちょうど彼女が出てきた。

彼女の名前はユメノ。二重の大きな瞳と笑顔が素敵な小さい体躯の女の子。彼女をひと言で表すとしたら「お()ば()かな娘」だ。

彼女は慌てた様子で出てきたので、私に気づかない。仕方なくすれ違いざまに彼女の肩をちょんとつつき「久しぶり」と言った。すると「わぁ〜ヒョゴさんだ!久しぶり!」そう言って彼女は、満面の笑みでハグをしてきた。

「どこに行こうとしてたの?」と聞くと「あ、トイレ探してたの!このお店なぜか知らないけど、トイレが外にあるらしくて!」

そう言って彼女はせかせかとトイレに走っていった。 

ユメノといえばこの笑顔だ

"おバカな娘"
彼女と会うのは実に1年ぶり。はじめて会ったのは東ヨーロッパにあるジョージアという国だ。

そこで開催された、ノマドの仕事が10種類体験できるワークショップ「ノマドニア」の0期生が私、3期生が彼女だった(ノマドニアの詳細はこちら)。

私の読みたい本が電子書籍になかったため、ノマドニア内で目立っていた彼女に、日本で買ってきてほしいと頼んだのが彼女と知り合ったきっかけ。

本を買ってきてもらったお礼として、私たちの家(当時は幼なじみの友人と家を借りていた)で、彼女+数人の日本人とパーティーをした。

SNSやノマドニアコミュニティでの彼女は常に元気いっぱいだったが、実際に会ってもそれは変わらなかった。

「はじめまして!ノマドニア3期のユメノです!わ〜パーティー楽しみ!ワインをバ〜カ飲みます!あ、これ本です!どぞヽ⁠(⁠・⁠ˇ⁠∀⁠ˇ⁠・⁠ゞ⁠)」

初対面で失礼ではあるが、この子は元気に加えて、ちょっぴりおバカな要素も兼ね備えていそうだなと思った。

それに、話し出したら止まらないという生態を持っており、油断するとマシンガントークで蜂の巣にされてしまう。

そんな彼女だが実は深刻な問題を抱えていた。

自己開示がとても上手な彼女は、初対面の私たちに「所持金が少ない、住む家も決まってない、仕事もない」という、かなりヤバい状態であることを教えてくれた。

早くも前言撤回。彼女は「ちょっぴりおバカ」ではなく「しっかりおバカ」だった。

「あまりに計画性がなさすぎるよ。そんな状態でジョージアに来るなんて頭がおかしいのかい?」

「だってどうしても来たかったんだもん。何するか決まってないけど、いまから仕事探すから大丈夫、大丈夫」

「家は?その調子だと3ヶ月くらいで帰国することになるんじゃないの?」

「、、、(ノω・)テヘ」

この調子である。

ここまでくると、こちらが助けてあげなければいけないという気持ちになるのだから不思議なものだ。

というより、それが彼女の強みでもあるのかもしれない。「自己開示能力の高さ」と「どこか放っておけないおバカな妹キャラ」。だから彼女の周りには何かと助けてくれる仲間が多い。

私と友人はいろいろと考えた挙句「寝る時はリビングにあるソファーベッドを使う」「家事のほとんどをする」という条件ならタダで泊まってもよいと伝えた。

すると彼女は二つ返事で「マジで!?超助かる!嬉しい!掃除も料理もなんでもする!」と言った。

こうしてはじまったジョージアでの共同生活。

字面にするとテイラー・スウィフトの「We Are Never Ever Getting Back Together」でも流れそうな展開だ(これについてはユメノに直接聞いてみるといい)。

彼女は掃除も料理もなんでもやろうとしてくれた。だが、今まであまりそういうことをしたことがなかったのか、几帳面である私たちの基準には及ばなかった。

私と友人は「ここ全然キレイになってないから、きちんと拭けよ〜」「しゃべりながら食材を切ると、自分を切りそうで怖いから集中して切りなさい」などの指摘を度々した。

こうなると気持ちとしては親である。「この未熟な子どもを自立した大人として生きられるようにしなければならない」という謎の使命感が生まれた。ちなみにユメノと私は同い年だ。にもかかわらず、今となっては私はユメノからママと呼ばれている。

そしてユメノとの共同生活の中で強烈に記憶に残っているエピソードが1つある(本当は2つあるが、1つがあまりにもアホすぎるので彼女の名誉のために封印しておく)。

あるときワインを飲みながらの映画鑑賞会が終わり、仲良く歯みがきをしていた。私と友人が先に磨き終えてリビングに戻ると、つい先ほどまでブラッシングしていた彼女の手が止まっていた。

もしかしてと思って顔を見てみると、歯ブラシを口に突っ込んだまま寝ていた

手はしっかりと歯ブラシを支えている。だが、口のまわりには歯磨き粉がついており、横からは歯みがき粉が漏れている。見た目は大人、中身は子どもの逆コナンがそこにいた。

「ありえない、、、どうやったら二十歳をこえた大人が歯磨き中に寝れるんだ、、、」

そんな赤ちゃんみたいな彼女だったが、共同生活をはじめてしばらくすると仕事を探しはじめた。

最初はライターの知り合いからジョージアの美術館についてまとめる記事の案件をもらい、必死にやっていた。

だが、1記事だけ書いてストップ。どうやら書くことを仕事にするのは向いていなかったようだ。

ここで彼女は「もう、どうすればいいかわからない。私なんの仕事すればいいかな?唯一やりたいことはYouTuberになって発信すること!YouTuberになろっかな〜」などと言っていた。

そんなことを言う彼女に対して、私と友人は「アホか。生活の基盤もしっかり整っていないのにそんなものに手をつけるな!まずはクライアントワークでもいいから収入を安定させろ」と一喝した。

路頭に迷っていた彼女が次に手をつけたのが動画編集。彼女と私がアニキと呼んで慕っているナルシマという人物が、ちょうど動画編集の仕事をしてくれる人を探していた。それに、将来YouTubeで発信したいというなら相性もいい。こうして彼女は運よく自分に合った仕事を見つけた。

彼女が動画編集に手をつけはじめた頃。私はイギリスの治験に行って日本に帰るために、ジョージアを出ることになった。だから、仕事をはじめてからの彼女の成長を間近では見ていない。SNSやノマドニアコミュニティ上に上がる近況報告でなんとなく成長を見ていたぐらいだ。

ジョージアでは基本アホなことばかりしていた

"成長と魔法"
1年ぶりに韓国で再会した次の日の朝、彼女が「やらなければいけない仕事がある!」と言うのでカフェに行った。

店内はうっすらとオシャレなジャズが流れており、幾人かの人がまばらに座っている。

「ミルクティーとカフェラテを1つください」

彼女はサクッと注文を終えるなり、パソコンを開いてこう言った。

「クライアントに連絡しなくちゃいけなくて。あと、動画のアップロードもしないといけないんだよね。すぐ終わらせるからお茶でも飲んでゆっくりしてて(笑)」

1年前の赤ちゃんみたいな彼女からは想像できない言葉だ。

しばらくすると彼女の仕事が一段落したので、これまでの1年について話を聞いた。

「最近仕事忙しそうだね。あれからどうやって仕事を獲得していったの?」

「最初はやっぱりナルシマのアニキ!あの人がいなかったら私いまこの仕事してない。仕事はSNSとかノマドニアコミュニティ内で発信したり、営業かけたりして、いろんな人から仕事がもらえるようになったんだ〜」

それ以外にも彼女はいろんなことを話してくれた。

動画編集はもちろん、高校に赴いて自分のやりたいことの見つけ方について話す仕事を10回もしたこと。有名YouTuberや企業の大型案件を受けてきたこと。韓国の次は来月からアメリカを旅する予定であること。そのための資金がギリギリなのに、楽しそうだから韓国に来てしまったこと。

「あれ、最後に関してはジョージアに来たときと変わらないね(笑)」

「ううん、今は稼ぐ手段があるから違うよ!働いて稼いでアメリカ行くんだ〜」

「そっか、1年見ないうちにだいぶ成長したんだね」

そんな会話を小一時間したあと、あまり減っていないミルクティーとカフェラテを2人とも飲み干し、カフェを後にした。

その後は旅行らしく、彼女と広蔵市場を散策してユッケを食べたり、他のノマド友達と合流してカジノに行ったりして韓国を楽しんだ。

そしてここでもまたひとつ。彼女に関する忘れられないエピソードがある。

韓国旅行最終日前日の夜、泊まっていた宿の近くで韓国料理でも食べようかという話になった。

夜21時ごろに宿を出て散策し、テキトーに空いてそうな店を探したのだが、どうやらローカル向けの店が並ぶ地域だったらしく、ほとんど閉まっていた。あったとしてもフライドチキン屋かイタリアンばかり。

「これじゃあ韓国出れないな。早く韓国料理屋を見つけなければ」
「いやほんと、うちら結構歩いたよね(笑)。そろそろ見つかって〜」

結局1時間半ほど歩いただろうか。最悪さっき見かけたイタリアンで妥協するかと諦めかけていたその時、私がふざけて「こっちのほうから韓国料理屋がありそうなニオイがする」と言って、路地裏に入ると本当にポツンと韓国料理屋がそこにあった。

「まさかの本当にあった!奇跡だ!」
「ヤバいね!開いてるかな?」

店の前には疲れきった顔でタバコをふかしながら休憩をしている女性がいた。みんなに愛される地域の食堂のおばちゃんといった感じで、おそらくこの店の店主だろう。店主は見るからに店仕舞いをしようと考えているような表情であったため、私は話しかけることなく帰ろうとした。

だが、私の隣にいる彼女は違った。韓国語を話せなかったので、店主のおばちゃんにもわかる簡単な英語で「close? open?」と話しかけにいった。それに1時間半も歩き回って疲れているとは思えないほどの笑顔とセットで。

すると、さっきまで疲れきっていたおばちゃんの表情がパッと明るくなった。そして「しょうがねぇなぁ」とでも言うように、サムズアップの手で「店の中に入って待ってな」とジェスチャーしてくれた(あとで調べると私たちは閉店時間30分前に押しかけていた)。

私はそれを見たとき「彼女の笑顔には人を元気にさせる力があるに違いない。どんな国の人にも通じる魔法を彼女は持っているのだ。きっと彼女は世界のどこに行っても、その魔法を使ってうまくやっていくのだろうな」と思った。

ちなみに私たちが店に入ってメニューを眺めていると、3人ほどの韓国人グループが店を訪ねてきたが、その人たちは断られていた。きっと彼女のあの笑顔がなければ、私たちは彼らと同じように断られていただろう。

そして彼女はおばちゃんに「チンチャマシッソヨ!(とてもおいしい!)」と連呼して気に入られ、最終的には仲良く写真まで撮っていた。

ここまで来るとすごいとしか言いようがない。コミュ力120%である。

ここのおばちゃん特製?のマンドゥ(韓国餃子)がびっくりするほど美味しいので、韓国に行く人は食べに行ってほしい。
https://maps.app.goo.gl/Ex712gcZEnSStuFv6

”お()ば()かな娘”
韓国で再会して約1ヵ月後の12月初旬。彼女のSNSの投稿には「今日からアメリカ旅スタート!」の文字が書かれていた。彼女は本当にアメリカへ旅に出たのだ。日々アップされる投稿には、動画編集をしつつ、お得意の魔法でいろんな人に助けられながら旅をしている様子が描かれていた。

結局、アメリカだけでなくメキシコ、コロンビア、アルゼンチンなど合わせて9ヵ国を回り、ちょうどこの文章を書き終えるタイミングで日本に帰国するとの連絡がきた。

だが私は現在、インドネシアのバリ島でこの文章を書いている。現在は日本ではなく、バリにいることを連絡したら「ヒョゴさんがいる間に行かなきゃ!」と言ってくれた。次に会ったときの彼女は一体どんな成長を見せてくれるのか。

お(どろくほど素敵な)ば(んこくで通じる魔法を持った)か(わいらしい小さ)な娘、略して「おばかな娘」のさらなる成長を楽しみにしながら筆を置くこととしよう。

ウユニ塩湖に行った時の写真。大好きなビールとともに

あとがき
彼女と自分を照らし合わせて見ていると、決定的に違う部分があるなと思うことがある。それは「彼女は今を生きていて、私は未来を生きている」ということ。

私はどうにもならない先のことを考えるクセがあるため、ビビって挑戦できなかったり、予想していた未来と違う未来がくると少し落ち込む。どちらかといえば自己肯定感が低いほうなのだが、彼女は違う。彼女は飛び抜けて自己肯定感が高くポジティブだ。「今を全力で楽しんでいて、これこそが私である」という芯を持っている。そんな彼女を見ていると、時には後先考えず、おバカに行動するのも大事だと思わせられる。

未来の自分をカタチ作るのは今の自分なのだから。

最近見たQuoraの回答が私の考えと同じだったので共有しておく。

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