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イベントレポート:シンポジウム「日本一働きやすい街、大分となるために」

立命館アジア太平洋大学 国際経営学部
森下達海


6月9日(日)に、OITAイノベーターズ・コレジオの本講義がスタートし、第1回講義として、大分市産業活性化プラザ共催でシンポジウム「日本一働きやすい街、大分となるために」が開催された。シンポジウムでは、3名のゲストをお迎えして、基調講演とパネルディスカッションが行われた。


【登壇いただいたゲスト】

(左)コンカー株式会社 代表取締役社長 三村真宗氏

(中)大分市長 佐藤樹一郎氏

(右)法政大学大学院 政策創造研究科教授 石山 恒貴氏


基調講演:“働き方”から“働きがい”へ
基調講演は、三村真宗氏による「最高の働きがいの創り方」について語られた。コンカー株式会社は、「働きがいのある会社」ランキングで1位をとった企業であり、優れた組織づくりとマネジメント・システムを持つことで知られている。

近年、ヒト・モノ・カネという経営資源のうち、ヒトが最も貴重で重要な経営資源になっている。政府主導で推し進められている働き方改革では、労働時間の削減という量の議論ばかりがなされ、働くことを害悪であると考える傾向にある。しかし、ヒトによる競争力の最大化を働き方改革で目指すのであれば、量だけの議論では不足しており、働くことの質について考えなくてはならない。

そのためには、働き方を「成果」と「労働時間」の分子と分母で考える必要がある。労働時間の削減は分母を効率化する考え方だが、働きがいは分子を最大化させる考え方である。そして、働きがいに根差したマネジメントのためには、ハーズバーグの二要因理論における、動機づけ要因(「達成すること」「承認されること」「仕事そのもの」「責任」「昇進」など)を活性化させることが肝要だ。

講演では、コンカーの政策や取組みについて3つの要素が紹介された。
①夢や志、大義との一体感
②視座の高さと裁量の大きさ
③成果や失敗を通じた成長の実感

働きがいのある組織を作るためには、信念を共有してベクトルを合わせることが大切である。事業や政策を実施する前に、根本にあるミッションやビジョンを決めることが重要だ。また高め合う文化、フィードバックし合う文化、感謝し合う文化、教え合う文化が必要となる。

講演では、まだ大学の1年生の講義では学んだことがない用語もたくさん出てきた。経営のトップに立つ人は、経営学について良く学び、そして理論を実践することで成功をおさめていることを実感することができた。


「パラレルキャリア」って何?
パネルディスカッションの前には、テーマの事前知識の提供と議論への話題提供として、石山恒貴教授による講義が行われた。「パラレルキャリア」には、家庭ワーク、有給ワーク、ギフトワーク、学習趣味ワークなど多様な形態がある。自分が最も働きやすい環境を選ぶことが重要であり、サラリーマンだから会社生活だけ、主婦・主夫だから家庭生活だけど、1つの社会だけで生きるのではなく、同時進行で様々な社会の一員として生きていくことが、働くことの幸せや個人の成長につながるのだと学んだ。

例えば、今、家でも職場でもない第3の居心地の良い場所「サードプレイス」を持つことが注目されている。サードプレイスでは、異なるバックグラウンドを持つ人々と接する機会を得ることができる。そこでの学びや多様な人との関わりは、自分の視野を広め、イノベーションに必要な多様な知の獲得を可能なものにする。また、地方の成功例として、島田商業高校におけるフューチャーセンターやNPO土佐山アカデミーのエッジキャンプなどが紹介された。地方は可能性に溢れており、地元の人々だけではなく、移住者やその地方のファンになってくれた関係人口を増やすことで、地方のポテンシャルを活かすことができる。


パネルディスカッション:「日本一働きやすい街、大分となるために」
パネルディスカッションからは、佐藤樹一郎 大分市長にもご参加いただいた。ここからは、三村氏、石山氏、佐藤氏が登壇し、モデレーターを碇氏が務めた。

佐藤市長は、大分を働きやすい街とするためには、まずは行政が仕事をしながら他のことにもチャレンジできる働き方やワークライフバランスを実現しなくてはならないと語った大分市役所の職場環境を整理して、自分たちから変える。そのうえで、地元企業にも「働きやすい環境作りは大切だ」と啓蒙していく姿勢を見せていきたい。市役所の仕事を通して、日常の中にやりがい、成長を埋め込むように仕組み作りをしていくことが重要になる。そのためにも、トップがいかに「市役所を働きやすい環境にしよう」という核を示すことが必要になり、市長自らがコミットする姿勢を見せていきたいと語られた。

また、職場や家庭以外のサードプレイスの場として、消防団やPTAなどの古くからあるが、現在は若い人の協力を得ることが難しい組織の再編をしていきたいと語られた。

現在、消防団、PTAの活動に協力する人々が減ってきている。日頃の仕事に忙殺され、消防団やPTAの活動に労力を割くことができない人々が多い。そこで、消防団やPTAをサードプレイス化できると良い。例えば、消防団やPTAはボランディア活動なことがほとんどだが、有給ワークにすることでマネジメントのプロに組織づくりをお願いし、活動の評価を導入することで消防団やPTAが達成すべき目標を明示化し、参加することで自己成長するのことのできるサードプレイス化が期待できる。

また、「MBAよりPTA」という話題で盛り上がった。というのいも、PTAは学ぶ場としても適している。PTAの活動は、大なり小なりのプロジェクトを立上げ、実施する必要がある。活動には大変さはあるが、プロジェクト活動を通してリーダーシップを学ぶ場となる。このようにPTAや消防団の既存の在り方を改めて、ミッションやビジョンを再定義することが大切だ。また、再定義することで企業との協業という在り方も考えられる。オープンイノベーションの場として活用することで、企業が地域社会との関わりを持つきっかけにもなりうる。

最後に、関係人口の話題で議論がなされた。大分は深刻な少子高齢化と人口減少という課題に直面している。人口減少に対する直接的な対応策としては、移住者を増やすしかないのであるが、何も背景がない他の都市に住む人々に対して、一足飛びに移住者を増やすことは難しい。そのため、「住みやすい街」「住みたい街」というブランド構築と街へのファンを増やす活動が重要になる。このような、特定の都市に対するファンのことを関係人口という。地域のファンを如何に段階的に増やすのか、施策を講じなくてはならない。つまり、地方都市に関わる関わり方に、「地元住民⇒移住者⇒ファン⇒旅行者」のようにグラデーションを持たせる。そして、地方都市と関わる人を増やすことで、移住したいと思う人を増やしたり、リピーターの観光者として地方の経済を回してもらうのだ。


働きやすい街、大分になるためにまずは何からやるべきか?

最後に、大分が働きやすい街となるために、まずはどのような施策から着手すべきなのかについてアイデアが交換された。

まず、石山氏からは地域のサードプレイスをつくることから始めるべきだろうと提案された。大分は、16世紀にイエズス会の修道士が当日の最先端の学問所であるコレジオを設立したころから、「学び」の風土があった。歴史を紐解くと、地方からのイノベーションは、学びの場が変革を推進するリーダーたちのコミュニティとなって引き起こされてきた。このようなコミュニティは、大学のような仰々しいものではなく、私塾のように有志が集まった草の根的なネットワークであることが多い。大分は大きなポテンシャルを秘めており、イノベーションが起きると信じている。

次に、三村氏からは地方活性化と人口の関係性について語られた。少子高齢化が進み、人口が減少している状態では、地方が活性化することは難しく、産業も成長しない。そのため、地方活性化と産業振興、人口対策はセットで取り組んでいかなくてはならない。そのためにも、地元の若者が働きたいと思えるような魅力ある企業が増え、地元企業が強くなることで他の地域からも働き手が移住してくる。働きやすい社会、働きがいのある会社が増えると言うことは、ヒトという経営資源を獲得し、企業や産業を強くすることにつながる。

最後に、佐藤氏からは女性活躍の推進について語られた。労働人口が減る中、子育て中の女性が働きやすい社会を創り上げることに、まずは着手していきたい。そのために、働きやすい企業として有名なコンカーを誘致することで、大分の地場企業も新しい働き方を学ぶことができるのではないだろうか。そのためにも、働きやすい社会を作っていく新しい産業を増やしていきたいし、そのようなビジネスの芽をもっと作っていきたい。

企業、大学、行政からの講演者によるディスカッションは、幅広い内容で充実していた。大学1年生の筆者にとっては、脳みそが沸騰しそうなほど、内容の充実したインプットだった。このシンポジウムを契機にして、受講者は「日本一働きやすい街、大分となるために」どう行動するか、考え始めることになるだろう。


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