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AT2035の本気を引き出してみる実験

AT2035というオーディオテクニカのマイクがある。
このマイク、入門用価格帯ながらオーディオテクニカというちゃんとした日本メーカーの製品であり、ショックマウントもケーブルもパッケージされている「お勧めしやすい」一品

とはいえ、使用レポートはあまり見かけないし、評判もそこまで聞かない。

そこで、知識と経験と技術でどこまで性能を引き出せるのかチャレンジをしてみた。

まずは推察を重ねてみる

まず最初に行ったのが仕様書の確認
AT2035仕様書
https://www.audio-technica.co.jp/pdf/support/at2035_SS.pdf

これをみてわかることとしてはAT2020と同じく「エレクトレットコンデンサーマイク」と呼ばれるもの。細かい説明は省くが、コンデンサマイクではなく別のマイクの種類と思えば間違いない。一般的には通常のコンデンサマイクの方が感度が高いと言われるが、特に気にする必要はない。
ただ「それならAT2020の特性に近いのかな?」とは推察できる。

AT2020に関していうと通話用のマイクになるので、声を張った録音にはあまり向いていない。AT2035もどこかしらマイキングの段階でそれを意識しなければならないはず、とひとまず決め打ちしてみた。

ついでではないがAT2020とAT4040の仕様書で周波数特性も並べてながめてみる。


AT2035


AT2020


AT4040

思いっきりAT2020に寄せてると思ったら、案外4040にも近い。声を録音することを考えると「特定の帯域が下がる」ようなことはなさそうだ。

謎の評価

次にネット上の少ない情報も集めてみると予測変換上位
「AT2035 こもる」
とある。

周波数特性表を見る限り、それは考えにくい
つまり、カタログが嘘をついているかレビュー方法に問題があるかのどちらかだな、と。

Highが強すぎる、などなら納得ではあるんだがいくら入門用の低価格マイクとはいえ、カタログが思いっきり嘘をつくのはメーカーのプライドとして考えにくいはず。

唐突に思い出されるNT1の評価


RODE NT1

このマイク。宅録という単語が今ほど一般的ではない頃に「マイクだけではなくケーブルやポップガード、ショックマウントなど必要なものを全てパッケージ」した【宅録パック】の先駆けであり、一大ブームを巻き起こしている。

時期的なものもあり、歌ってみた、や、生主文化、的なものが出てきた直後ということもあり、音響に対して知識のない人も巻き込んで相当数売れた

このアイテムのネット上の評判は「Highが強すぎる!なんだあの音は!」というものだった。


RODE NT1

見ての通り、めちゃくちゃ高音が強く出ているわけじゃない。多少はもちろん上がっているとはいえ、10Kより上なので声の成分で言うとそれほど存在しないエリアだ。

この悪評に関して、実はなんのことはなくて、ケーブルを付属のものではなくそれなりのものに交換するだけでかなり「普通」の音になるのだ。
付属のものが絶対に悪い!ではないだろうが、付属のケーブルにメーカーがそこまでお金をかけてはいられないので、当然と言われれば当然だな、と。

ひょっとしてAT2035も同じパターンじゃないかと。

購入者が音響に詳しくない可能性が高い製品の場合はこういうことがそれなりにある。

というわけでプロの力を借りて実験

というわけで、さまざまな推察を重ねた結果を実験すべく宅録実験
スタジオで綺麗に取れてもこの製品のターゲットからすれば全く意味がないので、3万円以下のオーディオインターフェイスとAT2035、あとケーブルは交換して実験。声の提供は「おおいぬざ」さんにお願いした。
中の人はガッツリ声仕事の本職プロなので、発声に関しても少々工夫してもらった。

音の比較動画

https://vimeo.com/925232612

※録音したままなのでノイズクリーニングすらしていません。


感想

それなりに知識と工夫と訓練度が必要な部分はあるものの、比較動画をみる限りは「AT2035は宅録マイクとして悪くない」と言えるんじゃないだろうか?

とはいえ、設定に関してそれなりに詰められるだけの知識と経験が必要になるし、発声に関しても訓練されている人が正しいマイクワークをした上で、と条件はついている。

高いマイクを素晴らしい環境で使うことでいい音を追求するのも大事だが、そこそこの道具でそれなりに使えるを探究するのも、音仕事の人間の義務なのではないかと思いやってみた実験でございました。

もちろんお金があるならオーディオテクニカなら上位機種に当たるAT4040を買う方が色々と楽で間違いはないんだけどね。

教える立場なのでできる限りはワークショップなどで教えた内容を説明していこうかなと。地方の人やワークショップに事情があって参加できない人たちへのサポートが今後もやっていければと思っています。