大井健輔 日本アジア研究所

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家康は偉いのか?       司馬遼太郎『城塞』

確か石平氏の文章だったか 「中国人は弱った犬が池でおぼれていたら、助けずに蹴っ飛ばしさらに追い打ちをくらわし溺れ死にさせる」 こういう主旨の文があったかと思う。それを中国人の特性であるかのように言うのはいかがなものかと思った。というのは日本人はそういうことをしないかというと、日本人の場合はこれに似た冷酷さがあるからだ。 それを描いたのが司馬遼太郎の『城塞』である。 これは関ケ原の戦いを描いた『関ケ原』の事実上の続編となる。1600年に行われた関ケ原の戦いは、東と西の豊

    • 洪思翊中将の処刑の話

      洪思翊中将の処刑はいずれは読まなければならない作品だと思っていた。山本氏が一番書きたい作品を書いてくださいと頼まれて書いた著作がこれだったという。 〈韓国出身者の陸大卒の将官が、日本帝国に忠誠をつくし死んでゆく。〉こういう筋書きなら、誰もが食いつく興味深い話である。 しかし、言うまでもなくそんな単純な話ではなかった。洪思翊は確実に祖国韓国にたいして思いを抱いていた人であった。祖国が独立した暁には数学の教師をやりたいと思っていたような人である。韓国独立にかかわる運動を起こし

      • 期待外れのアウンサン論

        読後感は期待はずれ。 一言で言えば論述態度が公平ではないということです。 過去に「ビルマ」という呼称を日本人が使用していたからビルマと呼ぶというのは結構ですが、それならなぜ大東亜戦争という当時の呼称を使わないのでしょうか。その代わりに筆者は「アジア太平洋戦争」なる後世の造語を使って済ましています。 自家撞着が甚だしいのでしょう。 私はテイン・セイン大統領ら軍人が民主化に貢献してきた事実を重く受け止めており、軍事政権=悪という筆者のような立場には立ちませんので、ミャンマーと呼び

      家康は偉いのか?       司馬遼太郎『城塞』