数学科の3年夏学期が終了しました(書籍まとめなど)

3年夏学期の期末試験がすべて終了し、数学科に正式に進学してから最初のセメスターが終わりました。というわけで、受講した授業やその内容について軽く振り返ってみたいと思います。なお試験結果はまだ返ってきていないので、試験以外のことをまとめていきます。

さて、今学期に受講したのは必修の幾何学・代数学・解析学・複素解析学の4つでした。授業形態はいずれも午前が講義、午後が演習という形です。

幾何学

幾何学では微分可能多様体の基礎から Riemann 多様体の導入あたりまでが授業範囲でした。個人的には一番好きな科目でした(そもそも幾何学方面を志望しているからというのもあります)。

午前の講義では毎週宿題レポートが出されました。もちろんレポートといっても「○○をテーマに3000字書け」とか「○○について調べよ」とかいったものではなく、数学の問題が出題されて証明を答案にまとめるというものです。個人的には、必要十分な分量の証明を考えて読みやすくまとめるプロセスが結構好きなので、レポートに取り組むのはなかなか楽しかったなあと感じます。

午後の演習では、各自が事前に解いておいた演習問題を黒板に書き出して、口頭で証明の流れを解説するというようなスタイルで発表を行います。これは幾何学に限らず他の科目でもそうです。黒板やチョークに触れること自体も久々だったので新鮮な体験でした。発表中は、証明に不明瞭な点があったりすると先生やTAの方々から質問や指摘が入ります。このとき、できる人はその場でうまく議論を修正していくのですが、私はその場で議論を修正するのがわりと苦手なので、かわりに発表メモの事前準備にかなり時間をかけて臨んでいました。こうした演習でのアウトプットとその準備を通して理解が深まった部分もあるように思います。

自習に使っていた書籍は John M. Lee の Introduction to Smooth Manifolds です(大学アカウントで PDF が無料ダウンロードできます)。新しい概念を導入する動機や文脈が平易な英語で明瞭に書かれていて、授業のレポートや演習問題を解くためだけでなく、全体像を把握するのにも非常に役立ちました。あまりにも良い本だと思ったので、同じ著者の Introduction to Topological/Riemannian Manifolds も揃えてしまいました。

代数学

代数学では群と環の基礎事項が授業範囲でした。代数学では午前の講義でも午後の演習でもとくに宿題が出されなかったため、どうしても勉強の優先度を下げてしまいがちだったかもしれません。やっぱり毎週欠かさず勉強するためにある程度の強制力はあってほしい…と感じます。ただ、演習のほうでは黒板発表の回数も成績に参入されるため、私は計3回ほど発表をしました。発表回数3回というのは決して多くはないのですが、前述の通り私は発表メモの準備にかなり時間をかけてしまうので、このくらいが精一杯でした。

自習に使っていた主な書籍は Serge Lang の Algebra と、J. L. Alperin and Rowen B. Bell の Groups and Representations です。[Lang] は群・環だけでなくその他の代数のトピックも載っているためものすごいボリュームです。私が読んでいたのは群・環の部分だけでしたが、授業内容と比べると薄さは否めず、あまり役立てられませんでした。[Alperin & Bell] の方は載っているのが群のトピックだけというのもあってかなり詳細です。自由群の話題が無いのは残念でしたが、授業で扱われた群の話題はほとんどこの本でカバーできました。

ちなみに、環のトピックをカバーするために Atiyah & Macdonald も持っておけばよかったと期末試験直前に気づきました。無念…。

解析学

解析学では Lebesgue 積分の基礎事項が授業範囲でした。午後の演習では毎週レポートが出されました。レポートは毎回5~6個の大問が与えられ、そのうち3問を選んで解くという形式でした。レポートに出題される問題の特徴としては、何かしらの反例を構成させる問題が比較的多かったような気がします(たとえば Cantor set とか)。ちなみに私個人としては、反例というものは結構好きだったりします。というのは反例の知識があると、ふだん証明を考えているときに議論があさっての方向に逸れてしまうのを防いでくれるからです。

自習に使っていた書籍は V. I. Bogachev の Measure Theory です。ただし授業では伊藤清三のルベーグ積分入門に沿っているので、[Bogachev] とは Lebesgue 積分の定義が少し違ったりします([Bogachev] では被積分関数に収束する単関数列が fundamental in the mean であることをも要求するが、その代わり [伊藤] のように非負値可測関数の積分を経由することなくはじめから一般の積分を定義している)。そうした細かい違いを除けば授業内容はすべて網羅されていたので、非常に役立ちました。

複素解析学

複素解析学では、Riemann の写像定理や Dirichlet 問題、調和関数、解析接続などのトピックが授業範囲でした。正直に言ってしまうと、複素解析は最終授業が終わって期末試験対策を始めるまで、ほとんど面白みを感じることができずにいました。「イマイチ頭に残らないなあ…」というモヤモヤした感じがずっと続いていました(単なる勉強不足によるところが大きいと思いますが…)。それでは、期末試験直前になってようやく面白みを感じられるようになったきっかけは何だったのか?というと、それはたとえば「Riemann の写像定理の証明」と「Dirichlet 問題に対する Perron の解法」の類似性(つまりどちらも関数族の上限を解とする点)に気づいたときだったり、Runge の近似定理が(解析学で扱った)Weierstrass の近似定理のある種の一般化であることに気づいたときだったり…。このように、別々に見えていた物事の間にパターンが現れて一気に面白く感じられるようになってきたのでした。来学期はこの現象をもっと積極的に起こしにいきたいなあと思っています。

自習に使っていた主な書籍は Theodore W. Gamelin の Complex Analysis です。有名な Ahlfors は今学期が始まるまで読んでいたのですが、書き方があまり肌に合わなかったので [Gamelin] に乗り換えました。しかし、正直に言うと [Gamelin] 一冊で完全に満足というわけではなく、色々と気になる点があった(とくに spherical metric をガンガン使っている点)ので他の書籍も参照しながら読んでいました。ちなみに授業では Stein & Shakarchi がオススメされていたのですが、あちらは [Gamelin] よりも英語の語彙が難しめなので、数学とは関係ない理由で読むのに苦労しそうでした。

以上、今学期の簡単な振り返りでした。

夏休みは来学期の予習を進めつつ、 数学を楽しんでいきたいと思います。来学期はいかにも数学科らしい科目「数学輪講」が始まるので今から楽しみです!


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