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食のまちストーリーズ vol.06「幸福の黄色いカンキツ」

鹿児島県のいちき串木野市で取り組んでいる「食のまちづくり」に関連する情報を紹介します。「食」を通じて、いろんなことを楽しむ、いろんなことをやってみる。人がいきいきと輝き、まちが元気になる。それが「いちき串木野市 食のまちづくり宣言」です。いちき串木野市は、海の味、山の味、こだわりの珈琲から蔵元の焼酎まで、心がほっとするおいしいものが身近にある、豊かな食文化を誇るまちです。この食文化をおいしく、楽しく味わいながら、人がいきいきと輝くまちをみんなで育てていきましょう。


幸福の黄色いカンキツ

photo Fumikazu Kobayashi

 鹿児島も冬になればそれなりに寒くなり、最低気温は0度くらいまでに下がります。流石に雪が降ることは珍しいですが、朝晩は凛とした空気が漂い気持ちがキリッとします。そして、寒くなってくるとお店の果実コーナーには徐々にカラフルな柑橘類が多く並ぶようになり、元気が出るビタミンカラーが占める割合がグンと高くなります。店頭だけではなく道を走っていると黄色やオレンジ色の果実が山盛りにされた無人販売所もよく見かけるようになります。地元の人はそれぞれお気に入りの無人販売所があるらしく、足繁く通いこの時期の果実を楽しみます。
 
 いちき串木野市含め、東シナ海沿岸部のまちでは今もなお柑橘果樹栽培が盛んに行われています。海風に乗って運ばれるミネラルを多く含む土壌と、水捌けの良い地質が柑橘栽培に適していてコク深く旨味の強い柑橘が育ちます。たわわに実る果実と、ちょっと重そうに踏ん張っている樹木はこの季節の風物詩的であります。 

photo Fumikazu Kobayashi

 鹿児島に来て最初の冬は柑橘類の種類の多さに圧倒され、どれも同じに見えていたのですが、鹿児島暮らしも長くなってくると色や形、時には香りで柑橘の種類がわかるようになり“唎き柑橘”もできるようになりました。数多ある柑橘の中でも、いちき串木野市には大里みかん・大里ポンカンという地域ブランドもあり、贈答品として県外の人にも喜ばれています。そして、黄色いポテッとしたフォルムで愛くるしさを振りまいている「サワーポメロ」もいちき串木野市を代表する柑橘のひとつです。
 
 2月の中旬から店頭に並び出すサワーポメロ、厚い皮をむいて出てくる実はジューシーで歯応えがあり、口に入れると甘味と酸味のバランスが絶妙で、爽快感のある香りが鼻から抜けていきます。頑丈な皮を苦労してひと房ずつ丁寧にむいても、一瞬で食べ終わってしまうところに儚さを感じたりします。 

photo Fumikazu Kobayashi

 特筆すべきはその爽やかな香りで、買った後もしばらく部屋に置いておき、香りが強くなっていく日々を楽しむという、ちょっとツウな愛で方もあります。部屋に入ると包まれるサワーポメロの爽やかな香りで一日の疲れも和らぎリフレッシュ。香りを楽しむだけではなく、その皮(外皮)は砂糖漬けにしてコーヒー・紅茶のお供にしたり、鹿児島の銘菓軽羹に添えられたりと、家庭でも店舗でも地元の果実を余すことなく使用していて、この時期はまるでまち全体が黄色く輝いているような錯覚を起こします。

このムッキーちゃんがあると、皮剥きのスピードが速いです。
photo Fumikazu Kobayashi

 いちき串木野市の黄色い宝玉は、部屋に置けば爽やかな香りを運んでくれ、皮をむき果実を食べれば美味しく、ポメロイエローの皮もお菓子づくりなどに活躍しアクセントを加え、このひと球で幾度も楽しめる存在なのです。

photo Fumikazu Kobayashi


 
 以下では、数あるいちき串木野のサワーポメロ生産者の中から、ビタミンカラーに囲まれて元気に活動している方を紹介したいと思います。


「親の背中を見て、柑橘果樹栽培への愛を感じた子供」
〈西果樹園〉

photo Fumikazu Kobayashi

 2年前にいちき串木野市で行われたプレゼンイベントでのこと、西果樹園さんも参加していて食べごろのサワーポメロを試食しながら柑橘栽培のことや、今後の展望の話などを伺ったことがありました。そのイベントの最後、参加者が一言ずつ感想を述べている場で、それまで緊張気味であまり言葉を発しなかった息子さんがマイクを握り「僕は西果樹園を継ぎます!」と力強く宣言したのです。きっと大変なところもたくさん見てきているはずなのに、やりがいを見つけて守り続けたいという気持ちに至ったのだと思います。これから専門的な勉強をして、自分の家ではない果樹栽培農家さんの元でたくさん学んで、いちき串木野市に戻ってきてくれることを期待します。


「いちき串木野の果樹栽培マスター」
〈内田一平〉

photo Masahiko Kukiyama

 いちき串木野市の果樹栽培農家から絶大な信頼を得ていて、真っ先に相談の電話がかかってくるのが営農指導員の内田一平さん、通称〈いっぺいさん〉です。新規就農者に伴走して地域との繋ぎ役となったり、収穫時期の相談から水撒き草刈りの相談まで、とにかくみんなか頼られています。
 いちき串木野市出身の一平さんは、市来農芸を卒業し垂水の試験場で勉強し、JAに就職し、その後営農指導員へと、鹿児島の果樹と共に生きてきました。昭和40年代に全国的にみかんの値が暴落し、みかん以外のものも育ててリスクを分散しなくては!となったタイミングで当時は大橘(おおたちばな)という名称だったサワーポメロも植え始めたのが、いちき串木野市でサワーポメロを栽培するきっかけだったそうです。いちき串木野市はなぜかサワーポメロがよく育つ土壌だったようで、果樹農家さんと一緒になってサワーポメロの研究をして、品質を向上してきたそうです。「昔は色々とやったもんだよ」と遠い目をしながら語ってくれました。そんな歴史をつくってきた人だからこそ、みんなから尊敬され頼られる存在なのだなと感じました。枝についた状態で熟し、甘さを増すサワーポメロと同じく、一平さんもまだまだ成熟して漢味が増しそうです。

text:Fumikazu Kobayashi
photo:Masahiko Kukiyama , Fumikazu Kobayashi


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