見出し画像

◎ランチ酒-きょうもまんぷく-/原田ひ香

まずはビールを一口。
仕事のあとの身体に染み渡っていく。
口の中の頬の裏側あたりに、ビールが染み込む。
特別な場所があるような気さえする。
鮮やかな赤オレンジと黄色のエビチリ玉子丼にも惹かれたが、
まずは餃子を頬張る。
気を付けたつもりなのに、肉汁がほとばしって、
思わず、皿の上に顔を近づける。
もちもちした皮、ぱりぱりの羽、
たっぷりの挽肉と肉汁、すべてが理想的だ。
エビチリ玉子丼をレンゲですくう。
これはなかなか酸味が強く、刺激的な味。
だけど、これまたビールに合う。
餃子と交互でエビチリ、ビール、餃子、ビールと
よい永久運動ができた。

第一酒 蒲田 餃子

「前菜は、ジャガイモのサラダでした。
ポテトサラダではなくて、
ジャガイモを千切りにしてさっと
湯通ししてごま油で和えたような・・・
これがなかなかうまかったんです。」
「本格的なやつでした。
手作りのもっちりした皮で
肉汁たっぷりのあんがくるまれていて、
底はぱりぱりとよく焼かれていて噛むと肉汁がぶわーっと。
酢醤油とラー油につけて一口頬張ったところで、
思わず、『焼き餃子、追加で。あと水餃子も!』
って言ってました。」

第一酒 蒲田 餃子

こちらで焼きたてのパイ生地を楽しむお菓子だ。
四角いパイ生地の真ん中が少し窪んでいて
リンゴが載っている。
こちらもまた甘すぎず酸っぱすぎず、
これは紅玉リンゴを甘く煮たのか、
元々甘みが強いリンゴをそのまま素焼きにしたのか、
区別がつかなかった。
けれどわかったのは、
サクサクしたパイ生地と甘いリンゴ、
ホイップクリームの割合が絶妙である。

第二酒 西麻布 フレンチ

厚揚げとタマネギと甘辛く炊いたもの、
ハムに衣を付けて焼いてあるチヂミ風の一皿、
マカロニサラダ、もやしのナムルなど。
他の赤くて辛いタレがかかっている白髪ネギ、
サニーレタス、塩とごま油のタレ、
辛味噌が並び、韓国料理らしい華やかなテーブルとなった。

第三酒 新大久保 サムギョプサル

ぎゅっと巻こうと頬張りすぎて、
レタスが破れてしまったが、
なんとかできあがった。
サムギョプサルを口に入れる。
みずみずしい野菜、ネギのかすかな辛みと匂い、
甘辛い味噌、すべてが一体となってとけあっていく。
歯触りの方も、ぱりぱりした野菜に
カリカリの肉と、違っているのが楽しい。

第三酒 新大久保 サムギョプサル

次に肉だけで、塩とごま油のタレにつけた。
これまたおいしい。すぐにビールを飲む。
食べ方はまだまだある。
肉に焼けたキムチを付け合わせて口に入れる。
酸味のあるキムチが肉をさっぱりさせてくれる。
ビールに合わないわけがない。
箸休めに、焼いた野菜を食べてみる。
こんがり焼けたジャガイモはそのまま食べてもいいし、
塩とごま油のタレをまぶしてもおいしい。
レタスを広げて、肉、ネギ、焼きキムチをのせて、
またぎゅっと巻いて食べる。
辛味噌とは違った辛みと旨みが口に広がる。

第三酒 新大久保 サムギョプサル

生のタマネギとトマトがのっていたのを脇に寄せて、
まずは一口、ビリヤニを口に入れた。
すぐにラムを掘り出して、かじりつく。
軟らかく煮込まれていて、でも旨みもしっかりある。
ラムとご飯を一緒に噛みしめたら、さらにうまい。
すごい勢いで、味付きの米とラムを咀嚼し、
ビールを流し込む。
ふと脇に添えられたヨーグルトに気づく。
小さなデザートかと思っていたが、
よく見ると赤い香辛料が振られている。

第四酒 稲荷町 ビリヤニ

次の場所にはオムレツのコーナーがあった。
生ハムかトリュフオイルのどちらかを選んで、
上にのせてもらえる。
今切ったばかりの熟成された生ハムがのってくる。
さらにその脇にカリカリのベーコン、ソーセージ、
ポテトフライ、ミートラザニアなど、
温かい料理が並んでいた。
チキンの方をカップに入れた。
席に戻って、生ハムのオムレツを食べた。
軟らかくてふわふわで、でもとろりとなめらかだった。
バターと生クリームをたっぷり使っている味がした。
生ハムもしっかり熟成された品で、
一緒に食べてもおいしいし、単独でもワインに合う。

第六酒 五反田 朝食ビュッフェ

海老に塩をつけてまず一口。
ほのかに香るごま油、衣はカリッとして海老は甘い。
そこに冷酒を流し込んだ。
というか油と衣に、自然に猪口を持つ手が動く。
半分は塩で食べて、半分は天つゆで食べる。
天つゆには大根おろしが入っていた。
甘すぎない天つゆにつけた海老天が、また酒に合う。
海老の次はイカ。
歯ごたえはあるけど、硬くない。
さくっとかみ切れるイカで、
海の旨みがぎゅっと濃縮されたようだ。
その次は鱚。小ぶりの鱚は軟らかな白身だ。
なすは衣の下に適度に油を吸った身を隠していて、
ねっとり甘く、食べ終えるのが惜しいほどだった。
ピーマンは臭みや苦みがまったくない。
いつも食べているピーマンと同じとは思えない。
しかし野菜の圧巻はなんと言ってもブロッコリーだった。
カリカリで、でも中はほくほくだ。
少し芋のような食感がある。

第十酒 高円寺 天ぷら

卵の白身が広がったところに、
天ぷらの衣を菜箸の先ですくって
ぱらぱらと落とす。
それが揚げ玉となって卵にまとわりついた。
揚がった玉子がたれと共に
ご飯にのったものが出てきた。
まずは白身部分と揚げ玉をご飯と一緒に頬張った。
揚げ玉のしゃきしゃきに玉子、甘い丼つゆがからむ。
これは、天ぷらの天つゆとは別物である。
とろりと黄身があふれて白飯に広がる。
それをすかさず箸ですくい、
丼つゆの部分、揚げ玉が一緒に口に入るよう案配する。

第十酒 高円寺 天ぷら

白い皿にはどーんとお好み焼きがのってきて、
今までの迷いがすべて吹っ飛んだ。
見たところはチーズはほとんど感じない。
というか、それがチーズなのか、玉子なのか、
黄身なのか白身なのか、今ひとつよくわからない見た目だ。
上からチーズ(のようなもの)、
玉子(のようなもの)、焼きそば麺、
かりかりの豚肉、小ネギ、小麦粉という順番で
きれいに積み重ねられている。
かりかりに焼けた麺と豚がソースにまみれて
良いアクセントになっている。
玉子にあまみがある。すぐに芋焼酎を一口飲んだ。

第十三酒 広島 ビール

しばらくして、大将がクレソンの束を二つ取ってきた。
ばさっと手で折るようにちぎって鉄板の上に置く。
そこに、これでもかというように大量のバターを置いた。
バターが溶け出して良い匂いがし出すと、
クレソンに絡めるように炒めだした。
しんなりしてきた時にウニの箱を出して、
スプーンですくって大切そうにそうっとのせた。
ウニをさっとクレソンと混ぜると、平皿に盛りつけ・・・
クレソンがシャキシャキしているのに生すぎない。
クレソンの苦みとウニの甘みが広がる。
フランスパンを手でちぎって、
皿の底にたまっているバターをぬぐうようにすくって食べる。
フランスパン、鉄板で焼いているからぱりぱりでおいしい。
そして、このバターの黄色はもちろん、
バターだけの味じゃない。ウニバターだ。

第十三酒 広島 ビール

鰤しらす丼には、タレがついた鰤の刺身が六枚たっぷり、
空いたところにしらすがのっていた。
ごまと大葉とわさびが色を添えている。
それにホタテクリームコロッケと小松菜のおひたし、
しば漬け、あおさのお味噌汁があった。
刺身でごはんを包むようにして頬張る。
甘めのタレが脂ののった鰤とよく合ってうまい。
タレと脂でこってりとした口の中に、
また獺祭を含む。
爽やかな酒で洗い流されるようでこれがまたおいしい。

第十五酒 鰤しらす丼


あ~~、これもまた
食描写が最高だった。
ページを捲る速度とお腹がすくペースが
比例してしまって大変だった…



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?