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『中卒歓迎』第8話

一週間後の月曜。

12時59分。


JOI社の大会議室に集まる参加者たち。



わかった? 必ず俺たちがトップバッターで




わかったよ。真っ先に名乗り出りゃいいんだろ



プレゼンの順番決められてたら、どうする?



決まってない。アイツは、必ず手を挙げさせる



言い切るね。根拠は?



大卒なのにわかんねえの?



いちいち腹立つなぁ



俺たち、こいつのプランに乗っかるって決めたんだから、最後まで言うこと聞こうぜ。第1ステージ通過するためだ



そうは言ってもよ。高卒のコイツに…



そういうの意味ねえし。通過することが目的なんだ



理屈欲しい?大卒は理屈を欲しがるねぇ




理屈なんかないだろ?ただの勘じゃねぇの?




勘で生きてるのは、お前だけ




おい!コラ!



説明してやるよ。あのな先週100人以上いたよな。この会議室に




それがどうしたよ





どこの誰が、1週間後に、きっちり耳そろえて30万円持ってこれるか、予測できねえだろ




あぁ。できるわけねぇ。逃げるやつも居るんだし



そっか、なるほど。アイツがプレゼンの順番つけとく意味がないのか




はいそれ




だからって、どうしてトップでプレゼンしなきゃなんねぇの?




アイツ来た!もういいだろ!こいつの言うこと聞こうぜ!な!




わかったよ…





スーツ姿のブルートが、大会議場に入ってくる。




時計の針が13時を指す。
ブルートが会場全体を見渡しながら、溜息をひとつ、、ふたつ。




理亜、理亜?



なに?



何人いる?



27人



うっそ、少な!半分以下に減ってるじゃん!



そうね


ウチら優秀?


バカ。まだプレゼンが残ってる。静かにしてて。集中!2人分の60万円、しっかり握ってて



らじゃ!




マイクの音がピーっと鳴る。

ブルートが大きな深呼吸をする。




思ったより多いですね。もっと少人数を期待していたのですが。やはり1週間で3倍程度じゃ生き残りは簡単ですね




(簡単じゃないよ!めちゃ、きつかったんだから!)




1人5分で27名だから、135分。交代や休憩の時間を考慮すると3時間以上もかかりま、、せんよね。どうやら




うなづく参加者と、首をかしげる参加者



席の着き方からみて…。なるほどどうやらチームを組んだ人がいるようです。チームを組んだ人は、挙手してください。




大半が挙手している。




わかりました。手を下ろしてください




一斉に手が下がる。





ふと思ったのですが、無田理亜さん?



は、はい!




あなたも、先週と違う席に座ってますね



席変えちゃダメでしたか?



いえ。それより、今、何人が手を挙げていたかわかりますか?




21名です




さて、モニタリングルームの皆さん、カウント21名で合ってます?





マイクに手をあてて、耳を傾けるブルート。
ブルートがニヤッとする。




21名で合ってるそうです




さすが理亜!でもどうして理亜に振るんだろう?同じ中卒だから??





本日は21名がチームで取り組み、6名が単独ですね。では、もう一度、21名の方、挙手願います。




どっと手が挙がる。




チームの代表者以外は、手を下ろしてください




どっと、手が下がる。





5名。ということは5チームで21名。ちなみに10名以上のチームはあるんでしょうか?




唯人が高々と手を挙げる。




はい!ウチのチームは、11名です。





大所帯ですね。君の名前は?




馬場(ばば)唯人です




馬場さん。どのように11名ものチームを組成したのですか?




会場で顔見知りになった人の連絡先を聞いておいて、月曜日に私のビジネスプランを送り、メンバーに入ってほしいとお願いしました





ほう。ビジネスプランは頭にあったのですか?




ありました。ラフ案ですが




何人に声をかけたのですか?



10人です



ってことは、声をかけた全員が君のオファーに応じた?



はい



それは興味深い。では、本日はさっそく馬場さんのチームからプレゼ・・




最前列の男が立ち上がって手を挙げる




はい!はい!はい! ちょっとすみません!




どうしました?




トップバッターは、ウチでお願いします!!




猛烈なアピールですね。嫌いじゃないですよ



名前は?



中井翔平(しょうへい)です!



中井さんですね。君が代表ですか?




あの…まぁはい




少しキョロキョロする中井翔平




違うんですか?




あ!いえ!私です。私が代表です。




ほお。ちょっと待ってください。




IPADを見るブルート



中井さん。君は高卒ですね




あ、はい。



高卒なのに、大学生が3名いるチームの代表に?




はい



いいでしょう。では、中井チームにトップバッターを務めていただくことに異議のある方、挙手願います




無言の参加者たち




異議なしですね。では中井さんのチームにプレゼンをお願いしましょう。準備に入ってください。



準備に入る6名の中井チーム




準備の間に念のため、もう一度お伝えしておきます。プレゼンは5分以内。チームの場合は、1チームで5分です。そのあと私との質疑応答が5分。最大10分。第1ステージ通過の是非は、当該10分の総合評価に基づく私の独断と裁量で行います。
みなさん。くれぐれも与えられたルールに従ってプレゼンをお願いします。




準備できました!




では、私の「始め」の合図でプレゼンを開始してください。タイムキーパーはモニタリングルームの事務局が行います。
ただし、残り時間のコールは一切行いません。自分でタイムを計るなど工夫してください。
時間オーバーは大幅減点となりますので、ご注意を。いいですね




はい





では、「始め!」



大画面に、損益計算書が表示される。



我々は、スマホのアプリを作り、販売し、280万円の売り上げを得ました。我々は6名のチームです。1人あたり30万円の6人分で180万円の売り上げが必要でした。280万円の売り上げは、すべて先週の金曜日の時点で現金で回収を完了しています。
画面をご覧ください。こちらが、アプリの売買契約書。そして領収書です。




画面に売買契約書と領収書が表示され、中井翔平が流暢に説明を加えている。



こちらの表に記載のとおり、利益はゼロです。280万円のうち180万円は御社への返済。残り100万円は、人件費、アプリ作成に必要なソフトウェア、ハードウェアレンタル代などです。以上になります



拍手がパラパラ。



中井チームの皆さん、お疲れさまでした。では質問です。まず売買契約書をもう一度投影してください。契約書の4ページを



はい



第8条に、瑕疵担保条項がついていますね



え?あ…はい




瑕疵担保責任が残っているということは、「商売完結。債権債務は残さない」というルールに反しませんか?



えっと…



凍り付く中井。




発言よろしいですか?私から補足します



お名前は?



東山武蔵(むさし)です




東山さん、どうぞ。前に出て



たしかにこの契約には、瑕疵担保条項は、あります。しかし、第3条4項で「検収日より2日以内に」申し出ることになっています。
このアプリを納品し検収を完了したのは、領収書に記載のとおり6月1日です。本日は6月4日。今現在、先方から連絡はありませんので、瑕疵担保条項が適用される期間は経過しました。
したがって、債権債務、権利義務は一切残っておりません。



なるほど。君がこの契約書を作ったのですか?



はい。



良いチームプレイですね。ただ・・・



先方から連絡が来ていないことの証明は?



連絡がないことの証明ですか?



そうです。ないことの証明。できますか?



ちょっと待ってください




エビデンスを残すのがルールでしたよね?




中井チームのメンバーが、円陣を組みコソコソ話を始める。



もしかしたら試作品に問題がありましたという連絡が来ているかもしれませんよね。本当に連絡は来ていないのですか?




石神!どうすんだよ!おい!



石神!おい!



石神?石神さんとは、どなたですか?



チッ!



(舌打ち?)



石神さん、居るなら、前に出てください




石神 上(のぼる)です



石神さん、なぜ、チーム全員が君の方を見たのでしょう?




そんなことないと思います



いいえ、あります。ですよね?みなさん




うなづく参加者たち



(たしかに、みんなこの人を見てた)




石神さん。どうやら、君がこのアプリを作ったようですね



問題あります?



いえ。全く問題ないです



じゃ、もういいですか?



いえ。君に質問が。契約相手は、GASEエンターテイメント社?



書いてあるとおりですけど



あのGASE社ですね。オンライン対戦ゲーム大手の



はい



君は、GASE社が欲しがるアプリゲームを1週間で作ったと?




試作品ですけどね



試作品とはいえ、どのように売り込んだんですか?




今どんなゲームが欲しいのか?って聞いただけです




聞いたら教えてくれたんですか?見ず知らずのあなたに?




見ず知らずでもないんで



お知り合いですか?



まぁ。俺がGASE社の『SONCITY』世界ランキングトップなだけ



『SONCITY』?オンライン対戦ゲームの?




アカウント証明したら、コンサルにならないかって。もちろん、ならなかったけど、どんなゲームを作ろうとしてるかのイメージは教えてくれた。




なるほど。 で、そのイメージどおりに試作品を作って280万円で売った




そうです



石神さん。君は、このビジネスプランが頭にあったのですか?




はい。イメージさえわかれば、試作品が作れるし、大手ならすぐ売れると思いました。大手を何社か、天秤かけりゃ食いつく




いや、解せませんね



何がです?



君がチームを組成したことが、です



君ほどの技術があれば、君一人で、試作品を作ればいい。あっさり30万円以上稼げたはずです。チームを組めばチーム分の売り上げが必要になる。チームを組成する必要があったとは思えないんです


経理とか契約書とか面倒なので、大卒のわかる人にやってもらっただけです




いや、解せません



なにがですか?



単発1回の売買です。経理も契約書も一本だけ。君以外に5名も必要ない



・・・・



本当のところは、どうなのでしょう?




第2ステージもあるんでしょ。第1って言ってるぐらいですから



だから?



第1ステージは俺の技術にハマってクリアできそうだった。でも、第2ステージは、きっと別の課題を仕掛けてくる。あなたならそうするだろうと



君でもそうするよね



だから次のステージのためにチームを作った。次のステージは俺が役に立たないかもしれないから




それは、さすがに深読みしすぎでは?



あなたは先週、半年間の競争だと言った。第2どころか第3,第4ステージまであるかもしれない。だから、チームを組成してメンバーに借りを作っておいて損はない。メンバーにもそう伝えて、俺のプランに乗っかってもらった。次のステージでは助けてくれと



石神さん、君は正直な人だ



そうでもないです



目の前のステージをクリアしつつ、次のステージの対策もした。納得です。




じゃ、もういいですか?


とはいえ、瑕疵担保責任を追及する旨の連絡が来ていない証明はどうします?その点は、ギブアップでよろしいですか?



やっぱ、それか




やっぱ、それです




売買代金の領収書の電話番号を見てもらえますか




画面に注目する参加者たち。




この番号。見覚えないですか?



これは弊社の代表電話ですね。どうしてこの番号が、君のチームの領収書に書いてあるのかな



自分の携帯やメールに連絡が来ていないって言っても、エビデンスにはならない。君が履歴を消去したんだろ?なんて言われたら困るんで。だからJOI社の電話番号を書き込んだ。これなら連絡がくれば必ずJOIに履歴が残る。間違い電話の形ですけどね


ほう。




掛かってきてませんよね? 試作品は完璧なはずです





確認しましょう




ブルートがマイクに手を当てている。




今、モニタリングルームに確認しました。そのような連絡は来ていないと。



じゃあ、証明完了ですね。もういいですか?



いえ。まだです。倫理・道徳違反をしないこともルールでしたよね。他社の電話番号を無断で書き込むというのは、倫理違反ではありませんか?



そこは、あなたの独断と裁量だったかと




そうです。石神さん、では、最後の質問です。なぜトップバッターに?




最後の領収書。気づくのが遅れて、異例中の異例の対応になってしまった。倫理違反で失格になる可能性も認識していました



だから?


もし、一番手や二番手に正当派のプレゼンが来たら、このチームの異例が、もっと異例に見える。そうすると倫理違反にされる可能性が高まる。




一理あります。物事は、比較の対象によって、目立つことも目立たないことも



トップバッターなら、他のプレゼンと比較されることはない。大前提として言われていないルールはない。領収書にこの会社の電話番号を書いてはいけないルールもない。このルールを一番有効に使えるのはトップバッターです




正当派のプレゼンが多いと読んだわけですね




はい




ブルートが、大きく深呼吸をする





中井チーム。第1ステージ通過!




中井チームが全員でハイタッチしている。




(先こされたな)


(やるじゃんアイツら)




はい!はい!はーい!



馬場くん、何ですか?



2番バッター!馬場チーム!よろしくお願いします!


(続く)














































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