僕の宿毛高校物語エピソード5.5【あと1点】

三代目の陰にかくれ、人数不足による合同チームなど数々の困難に見舞われた四代目チーム。

しかし、タレント的には面白い選手のあつまりでした。

一度やめて、舞い戻ってきた圧倒的カリスマの不良キャプテン。(※エピソード5参照)
利き腕(右手)を骨折した結果、左手で練習して両利きに生まれ変わったレフトエース。
全ての言語をポジティブに変えてしまう釣り吉のセッターときどきリベロ。

彼らとは高知県No.1チームの高知高校や、愛媛県の強豪高校新田高校での合宿など、今思えば無謀とも言える遠征を度々行いました。

誰に似たのか(※絶対監督だろ)、能天気な彼らは持ち前の明るさで数々の無理難題をこなしていきます。

県体直前の練習試合では監督とキャプテンが胸ぐらを掴みあうなど、お互いが本気でぶつかり合って作り上げたチーム。三代目チームのように華麗な花はないけれど、両利きエースが掲げた「百花繚乱」というコンセプトを胸に、本当にそれぞれの花が咲き乱れるような面白いチームに仕上がりました。
※「百花繚乱」は今でも宿毛高校男子バレー部のキャッチコピー

迎えた最後の県体。
予選敗退も十分に考えられた四代目チームは、決勝トーナメント進出をかけて県内屈指の進学校、追手前高校と対戦しました。負ければ敗退=高校バレー終了がかかった試合。両チームとも気合いが入ります。

と、言いたいとこなのですが、宿毛高校はいまいち気合いが入ったように見えません。宿毛市から遠く離れた場所(※車で2時間)で行われる県体は、高知市内の一般生徒の大応援の中で行われます。要するに完全アウェイの中で行われるのです。経験の少ない宿毛高校バレー部は完全にその雰囲気にのまれていました。

ほぼいいところなく1セット目を落とし、2セット目も劣勢。なんとか最小限の点差で迎えた終盤、監督である僕はタイムアウトをとりました。このセット最後のタイムアウト。もうこのセットに彼らがベンチに帰ってくることはありません。このまま負ければ試合中にかける最後の言葉。

そこで僕が選んだ言葉は、

「喧嘩だろ?喧嘩で負けて悔しくないのか?」

不良キャプテンにかけた言葉でした。
指導者としては不適切な言葉なのかもしれません。それでも僕は本気でぶつかった彼らにかける最後の言葉に迷いはありませんでした。

すると、彼らの目からも迷いが消え去っていくのが分かりました。

ものすごい勢いで逆転、2セット目を取り返し、その勢いのまま3セット目を奪取して勝利をものにしてしまったのです。

「努力は嘘をつかない」

彼らにかけ続けた言葉を実現してくれた瞬間でした。

そして翌日、準決勝までコマを進めた彼らの相手は今後因縁の相手となる岡豊高校。高知県で常に上位に君臨する強豪高校です。チームの実力的には雲泥の差があったと思います。
監督の自分も、「当たって砕けろ!」と言って彼らを送り出しました。

1セット目、やはりあっさりととられてしまいます。昨日の戦いで十分な結果を残してくれた彼らにどこか満足していた僕は、彼らの2セット目を見守るように見ていました。彼らの最後をしっかり見届けたい。ベンチから声を張り上げます。

ここで、彼らは実力以上の力をだし始めます。まるで、夢の中にいるように、周りの声は全て消え去っていきました。彼らのプレイがスローモーションのように僕の目にうつります。気がつくと、24点目が宿毛高校に入っていました(岡豊高校は23点)。なんと、あと1点で強豪岡豊高校から1セットを取るところまできていたのです。決して光輝くことのなかった彼らが目の前で、最高に輝いていました。

そして迎えた25点目の攻防、宿毛高校のサーブを受けた岡豊高校はエースにトスが上がります。このセット、宿毛高校は釣り吉リベロがことごとくエースのアタックをレシーブし続けていました。相手エースのアタック。完璧にコース入ったリベロがレシーブをするかと思った瞬間、相手エースが選んだのは強打を待っている宿毛高校を嘲笑うかのようなフェイントでした。予想していなかったボールはゆっくりとコートの真ん中に落ちていきます。

完全に経験値の差でした。

その後、必死に食らいついた宿毛高校でしたが、変わった流れは簡単には取り戻せません。最後の1点は岡豊高校に入りました。

予選すら勝ち残れるかどうか不安だった彼らが強豪高校をあと1点まで追い詰めたのです。結果としては大健闘といってもいいでしょう。

しかし、彼らは泣きじゃくっていました。
当たり前ですが、本気で勝つつもりだったのです。

あと1点。

取らせてあげたかった。
最後の集合で僕は泣きながら彼らに謝りました。

この1点は後に宿毛高校にとって大きな1点をもたらすのですが、それはもう少し先のお話。

今回はここまで。

次回エピソード6【つないだバトン】



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